第3話転生後の世界(2)
翌日になり、暖かな日差しを浴びて起床した俺はオリジンスキルの授与が施されているはずの右手に視線を移した。
視線の先には本来なら星の形をした紋章が浮かび上がっているはずなのに、俺の右手には……、紋章らしきものは見当たらなかった。ふむ、これはどういうことだ?
何故授与されていないんだ、これは例外的にあり得るのか? まさか、俺がこの二千年後の世界の住人ではないからなのか? 考えれば考えるほどありとあらゆる仮説が成り立ってしまう。まあ、今あるスキルと魔法だけで充分なのだが、少し、いやかなり期待していたのは秘密にしておこう。
そして、俺が起きたことに気付いた両親は、二人揃って俺の部屋の扉を開いた。
「クロム! それで、オリジンスキルの授与は?」
その言葉を受け、俺は若干の気まずさを覚えながら二人の前に右手をかざした。
「……え? クロムちゃん? 紋章が見当たらないんだけど……」
母さんの問いに答えるべく、俺は今朝起きて今に至るまでを説明した。
「だ、大丈夫よ! ほら、クロムちゃん天才だし、きっとオリジンスキルをクロムちゃんに授与したら世界の均衡が崩れちゃうとかそんな感じよ!」
母さんは俺に気を遣っているのか色々とフォローをしてくれていた。それでも悔しかったのか床の上を飛び跳ねたりゴロゴロしたりしていた。おかげで辺りには日の光で照らされた埃が星々の輝きのように舞い散っていた。流石に埃を撒き散らされては少々気分が悪い。俺は右手を前にかざし、一つの魔方陣を描き出した。清掃(クリーン)その言葉を言い終えると辺りの埃はおろか、俺の部屋全体を綺麗に掃除尽くした。
「む、無詠唱だと⁉」
俺の無詠唱魔法に父さんは驚きを隠せてはいなかった。そんなに珍しいものか? 元々俺自身無詠唱魔法はできた。いや、昔の時代なら普通にみんな使っていたと思うんだがな。もしかして、無詠唱魔法もこの時代にはないのかもしれない。
「そ、そんなことより、クロムちゃんの十三歳のお誕生日会をしなくちゃ!」
「あぁ! そうだな。クロム、今日はお前に最高のプレゼントを用意している。楽しみにしておけ!」
二人揃って大はしゃぎだった。また埃が立つからもう少し大人しく頼みたいとこだが、存外家族というものもなかなかどうしていいものだな。俺の転生前は家族など居なかった。物心着いた頃から俺は一人だった。俺の固有スキル影の王はもしかしたら寂しさを紛らわすために身に着いた能力かもしれない。
そして、両親が俺のお祝いの為にご馳走を用意してくれていた。それをいつもながら歓談して食事を終えると、父さんが俺に小包を渡してきた。
「開けてみろ。これは、父さんが倒したドラゴンの素材を使って作ってもらった業物だ」
父さんに渡された小包を開けると、そこには、綺麗な緑色の鱗が装飾され、一目見ただけで物凄い切れ味を出しているのがわかる。確かに業物だ。
「すごい、かなりの業物だね。父さんありがとう! 一生大事にする」
本来俺の戦闘スタイルは武器を持たない。なぜならその場その場で適正となる武具を創造することができるからだ。この創造も俺の固有スキル。まあ簡単に言うと創造も影の王もオリジンスキルみたいなものなのだが、流石にこんなプレゼントをされては使わないわけがない。それに、案外この剣を気に入っている自分が居る。
「クロムちゃん、これは私から」
母さんが渡してきたものもこれまた小包に入っている物だった。中を開けてみると、そこにはかつて、俺が身に付けていた服にそっくりな黒のパンツに、黒のシャツ、そして、黒のローブが入っていた。
「ねぇ、ねぇ、着てみてくれる?」
母さんのお願いを聞き入れ、その黒の服一式に着替えて二人の前に現れた。
「キャーっ! クロムちゃんすっごく似合ってるわよ! もぅ、ほんとにかっこいいわ」
俺のその姿に父さんはおぉ、などと感心している様子だったが、母さんは今まさに俺に抱き着いて興奮していた。
「母さんありがとう。これ凄くかっこいいよ!」
「これを着て入学試験も頑張ってきてね!」
こうして、暖かな家族からプレゼントをもらい、来たる入学試験に向けて修練を行っていた。
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