第14話新たな出会い

 翌日目が覚めた。やはり昨日は疲れが溜まっていたのか気付けば時刻はお昼時だ。洗面所にて顔を洗っていると一つ気付いたことがある。



 俺はこんな顔をしていただろうか? この世界に来るまでのあの青少年のような爽やかな顔つきは面影も無く、少しだけいかつくなったような気がする。瞳に光は宿らず、真っ黒な眼球が冷たく自信を見つめていた。



 洗面所で影を上手く扱い、髪と髭を剃り一応身なりだけは整えた。そして腹も減ったことだし、店主のクレアさんに頼んで飯でも作ってもらおう。



 この星の雫亭で店主をしているクレアさんは如何にも体育会系のママって感じで昨日も俺が瘦せているからと言って、ご飯の量も山盛りにされていた。きっと今日も山盛り定食が出てくるのだろう。



「はいよ! クレア特製定食だよ!」



 やっぱり今日も山盛り定食だった……、しかもお残しは許しません! とか言って食べきるまで椅子から立たせてもらえない。美味しいんだけど地獄なんだよね……。



 なんとか山盛り定食を食べ終え、街に出た。食事をしながらクレアさんに色々と話を聞いていた。まず俺がここに居るこの国はアルギウス王国という。



 代々アルギウスが姓を受けたもので受け継がれてきている歴史ある国だという話だ。完全なる貧困の差別があり、貴族派閥がブイブイ言わせている俺はあまり好ましく思わない制度だ。そしてこの国にはもう一つ奴隷制度が設立されている。俺がこの国に訪れて目にした光景はまさにその奴隷たちなのだろう、金さえ支払えば誰であっても奴隷が買えるというらしい。



 クレアさんとの話で一番利益になったのはその奴隷制度のことだ。奴隷を道具のように使うのは流石に俺も抵抗があるが、主人に絶対服従。これだけは今の俺が求めているパートナー像である。よって、俺はこれから衣服を調達してから、奴隷を買いに行きたいと思います!



 そうと決まれば即行動だ。町の中にある衣服屋に寄り装備一式を揃えた。俺の職業に合わせて全身を黒で覆い、一応顔バレの危険性があるためマスクを被った。



 ここまでは順調なのだが、問題の奴隷をどこで買うのかが全くわからない。一応それなりに人通りの少ない場所を選んで歩いてはいるのだが、一向に見つからない。くそっ、どこに居るんだ……。



 途方に暮れていると、そこに奇妙な一団が目に入った。



 一人は貴族なのだろうか、綺麗な服を身に包み護衛らしき男が控えている。もう一人の男は如何にも怪しい格好をしている。



 その一団を目にした俺は他に可能性がないことから後を付けることを選んだ。



 男たちはそのまま人気の少ない路地裏を進み、目的地に着いたのだろうか少し大きめのテントの張ってある場所に辿り着いた。アニメとかでは大体こういった場所に奴隷市場がやってたりするんだが……。



 念の為闇移動で影の中に潜み、中に入ることにした。



 中に入ると予想通り、どうやらこの場所で奴隷の売買をしているらしい。中には檻の中に何人もの人間といわゆる亜人たちが収納されていた。



 影の中から貴族の男と奴隷商のやり取りを一部始終見ていた。そうすれば大体掛かる費用などがわかるからな。



 貴族の男は一人の女性を選び購入していた。成程、誤差はあるだろうが大体一人の奴隷を購入するのに金貨二百枚ってところか。かなり高額だが、命そのものを購入しているんだしまあ妥当か。さて、問題は俺がどうやってこいつに交渉を持ちかけるかだな。



 貴族の男は一連の手続きを終え、買い取った女性を連れてテントを出て行った。



 奴隷商が一人になったことを確認して俺は背後から短剣を取り出し、奴隷商の首元に押し付けて交渉を開始した。



「騒ぐな、騒げば喉を切り落とす」


「ひっ⁉ ご、ご用件は……?」


「奴隷を購入したい。貴族じゃなくても取引してくれるのか?」


「も、もちろんでございます! ですからその物騒な物をどかしてもらえませんか?」



 いきなりのことでかなり驚きを露わにしていた奴隷商は素直に商売をしてくれるらしいので、短剣を外した。



「それで、お目当ての奴隷は居ますか?」


「少し、待て。今探している」



 別に俺の命令に絶対服従してくれるなら誰でも構わないのだが、折角購入するのなら優秀なのが良いに決まっている。そいつを育て上げれば戦力アップにも繋がるしな。



 檻の中に収納されている奴隷たちを鑑定眼で鑑定していた。ここに居る奴らは幼い頃から誘拐されたりしてここに居るからなのか、俺の求めている条件をクリアする者は一人も居なかった。諦めかけた俺の目に一人の女性の奴隷が目に留まった。



 他の奴隷たちと逸脱して、そいつの目は死んでいなかった。いや、むしろ目には生きる意志が強く感じられた。俺はそいつの元に足を運ばせ、言葉を交わす。



「お前は、ここから出たいか?」


「……」


「ここで死ぬか? それとも俺の道具となりこの地獄を変えるか? 選べ」


「……たくないです」


「ハッキリ言え。お前はどうしたい」


「……こ、ここから出たいです」


「俺の道具となってもか?」


「ここで死ぬよりは全然いいです」



 俺の圧にも負けず視線を一切逸らさず言葉を発したこいつを俺は気に入った。

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