二十一歳

「うし、行くか」

 俺は気合を入れて、スーツのジャケットに腕を通した。


 今日は、内定者懇談会。


 あの日の宣言通り、俺は少しずつ、けれど確かに前へ進んでいた。

 一流の大学に受かり、一流の企業への内定が決まった。

 可愛い彼女もできた。

 自分で言うのは憚られるけれど、どこに出しても恥ずかしくない人間になったと思う。

 あの日から、悠里を忘れたことは一度もない。

 もう声も姿も鮮明に思い出せなくて、思い出の中にしかいないけれど、彼女の言葉や感触は全部脳裏に焼き付いている。

 いつまでも、俺の心の中に居る。


 優しくておっぱいの大きいおねえさん。

 憧れで、目標で、大人の象徴であるおねえさん。

 最愛の人。


 悠里。


 俺は前に進んでるよ。

 だからいつか俺がそっちに行く日まで、見守っておいてくれ。


 そうひとりごちて、ぎゅっと、靴紐を結んだ。



<完>

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