第6話

「あっ!? このバカ!!」


 やっと説得できたかと思ったら、急にダッシュして飛び降りようとしてやがる。...間に合うか?いや、大丈夫だ。何のために日々腹筋ローラーで体を鍛えてると思ってるんだ。


 ___筋肉は、俺を裏切らない!


「おらっ!!」


「...っ!?」


 何とか姫川が落ちる前に腕を掴んだ。...てかめっちゃ重いんだけど!? 片腕が千切れそうだ。こりゃ明日は筋肉痛確定だな。


「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「きゃあ!?」


 全身の力を使って、姫川を何とか引っ張り上げた。お互いにゼーゼーと息を吐く。


「...なんで。なんで助けたの!? やっと覚悟を決めたのに。これじゃもう飛べない!!」


「俺は、俺のために行動しただけだ」


 姫川は目から涙を流し、生まれたての小鹿のように両足をプルプルとさせている。この様子だと、もう自殺は無理だろうな。説得成功だ。いや~よかったよかった。


「さてと、もうこんなアホな事するなよ~。バナナでも食べて、ゆっくりと一晩ベッドで寝れば、どんな悩みでもぶっ飛ぶだろうさ」


 ヒーローはクールに去るぜ。とにかく目的は達成した。後は、それこそ彼女自身の問題になってくるだろう。それに、人生相談なんざ絶対に御免だぜ。俺は自分の好きに行動する。それこそがバナナマンだ。


 俺は最高に良い気分のまま帰宅した。



 PM21:30 姫川 廃ビル屋上


 あまりに短時間で起こった異常事態の数々に、姫川秋は混乱していた。彼女は今日、人生を終わらせるためにここに来たのだ。それがなぜ、こんな事になったのだろうか。


(...ほんとなんなの。あのバナナマスクの変態は?)


 勝手に助けておいて、そのまま意味不明の発言をして帰って行ったバナナマスクの不審者に、彼女は複雑な感情を抱いていた。あんなイカレた男は見たことがない。少なくとも、彼女が今まで見てきた男とはまったく違う存在だ。


「...やっぱりダメ。足が竦んで飛べない」


 飛び降りる瞬間の恐怖を知ってしまった彼女には、もはや自殺をする勇気は出なかった。それもそのはず。彼女は、本来なら確実に死んでいたからだ。そう、あのバナナマンがいなければだ。


「...ん? なに、これ?...学生証?」


 自身のすぐそばに、見慣れた黒い学生証を彼女は発見した。だがおかしい。彼女はこの場所に学生証など持ってきていなかったからだ。


(もしかして、あのバナナマンとかいう男の?)


 恐る恐る開いて見ると、そこには濁った目をした男子生徒の顔と、本名が記載されていた。


「___...大川、大樹?」


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バナナマン~腹筋ローラーでタイムリープ~ 骨肉パワー @torikawa999

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