第5話
PM20:30
俺は今、廃ビル屋上の物陰に潜伏中だ。3回目という事もあって準備は万端。後は姫川が来るのを待つだけだ。
そういえば、俺がこうしてバナナマンの恰好をしてここに潜伏する事によって、運命が変わったりするのだろうか?確か、「バタフライエフェクト」とかいう考え方だったか?自分の行動がどれだけ他人に影響を与えるか分からない。だから慎重に行動しようと頭の良い人は思うだろう。だが、残念ながら俺はバカなので難しい事は分からない。だから俺のやりたいように行動する。運命論なんて冗談じゃねえぜ。
PM21:00
「......」
「...来たか」
ガチャという音と共に、屋上の扉が開いた。姫川がゆっくりと端に向かって歩き始める。彼女は何度も下を眺めては、飛ぼうと繰り返していた。だが中々踏ん切りが付かないようだ。まあ当然だろう。人間は死という現象に関して強い拒否感を持った生き物だからな。それにしても、なるほどな。こんな感じでジャンプをためらっていたのか。
「...これで全部終わりだから。...がんばれ私っ」
「止めといたほうがいいんじゃないか?」
「っ!?」
そろそろ危ないと判断した俺は、バナナのマスクを被り颯爽と登場する。彼女は今直ぐに飛ぶかどうか悩んでいるようだ。...もうちょっと脅しておく必要があるな。
「知ってるか?人間が高所から落ちると、潰れたカエルのように内臓をぶちまけて死ぬ事になるんだそうだ。きっとめちゃくちゃ痛いぞ」
「...誰なの。あなた?」
「よくぞ聞いてくれた!!」
バッ!ババッ!と、オリジナルのかっこいいポーズをきめる。さあ見ろ、俺の最高にいけてる姿をなぁ!?
「___俺は、バナナマンだ!!」
「......変態」
失礼なヤツだな!誰が変態だ!...それにしても、ようやく彼女の瞳に光が戻ってきたな。人間はあまりに異常な事態に遭遇すると、頭が真っ白になるからな。自分がいかに馬鹿な事をしているのかを自覚してもらわないと困る。
「...私のことなんて何も知らないくせに、邪魔をしないで」
「そりゃ知るわけねえだろ。俺もお前の事なんか何も知らないし、お前も俺の事を何も知らない。人間なんてそんなもんだからな」
彼女はじっと立ち尽くして悩んでいる。説得のチャンスだ。
「なあ、そんなアホな事をしてないで、俺と一緒にバナナを食べないか?バナナは凄えぞ。食物繊維、ビタミン、ミネラルが全部摂取できるからな」
「...私は、もう疲れたの。誰も私の事なんて見てくれない。あいつらも、私の事を金の卵か何かだとしか思ってない。...みんな最低よ」
...何言ってるか全然分からねえよ。メンヘラちゃんなのか?この女...。
「...もう全部どうでもいい。だから、私の邪魔をしないで!」
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