第2話

 バッシャーン!という音と共に、俺は再びこの水の世界に落ちてきた。普通の水とは違い、この世界では水中でも呼吸ができる。体の態勢をクロールに適した形に変更し、俺は目的の場所へと泳ぎ始めた。


 この場所、というか、この世界を俺は「ゼロワールド」と呼んでいた。そもそもの始まりは6月31日まで遡る。あの日、いつものように腹筋ローラー100回を達成した俺は、突然この世界に落ちる事になった。ちなみに今回のループは4回目だ。そのおかげで、俺は大分スムーズにこのゼロワールドを移動する事ができるようになった。


 まずこの世界の水は、水であって水ではない。水のような性質は持っているが、水中でも呼吸が出来るし、服や肌も濡れない。水のような何かとしか言いようがないな。


 こんな話を聞いたことがある。世界は電気仕掛けで出来ていて、俺たちは仮想の世界に生きているのではないか?という説だ。シミュレーション仮説という有名な考えだな。この水の世界を見ていると、その考え方も間違いではないのではないかと思ってしまう。


 電子の海を反対方向に泳いでいると、数字が刻まれたプレートが見えてきた。数字を確認すると、07/01と刻まれている。ここが目的地だ。


 ___このプレートに触れる事で、俺は過去に戻る事が出来る。


 銀のプレートに手を触れて、俺は7月1日へと戻った。



20××/07/01 AM07:00


「...っぶは!?」


 俺は慌ててベッドから飛び起きた。もう4回目だが、未だにこの感覚には慣れないな。自分がしっかりと過去の記憶を持っている事を再確認し、俺は再びベッドへと戻った。


「今回も成功したな。...タイムリープ」


 最近になって発現したこの力だが、実はそこまで大した力ではないと俺は思っている。時間を戻るのはそこそこ疲れるし、今の所1日しか戻れてないからだ。


 7月1日を経験するのも、もう4回目。そろそろ同じ日常に苦痛を感じ始めていた。...頃合いだろう。今回の散策で何も得る物がなければ、時計の針を一つ進めよう。学校をサボり、俺は街に散歩に出かけた。



PM21:00


「...はあ。まあ早々イベントなんて起きないよな」


 学校をサボって得られた物は、虚しい虚無感だけだった。ごく普通の食事をして、ごく普通にゲームセンターで遊んだ。これを無為と言わずに何と言うのだろうか。


 ここ最近になって、俺は時間を戻せるメリットよりもデメリットとの方が大きいのではないかと感じ始めていた。何事も、初めての瞬間というやつが一番楽しいのだ。同じような事を繰り返すのは、ただ苦痛でしかない。


 ___何か、ゲームのように目的が欲しい。そう俺は考え始めていた。

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