あの日は瞬く間に消えていく
第五章 夜空が降った日①
何十年も前に灯台が改築されてから、町には目立った建物が建つことはなかった。といっても住居は増えたり減ったりを繰り返し、新たに建てられるデザインも移り変わっていった。
学校も役所も何度か建て替えられた。その度に当然形も変わった。時には場所も変わった。しかし大きさだけは大して変わることがなかった。
町には外から人が移住することがほどんどなく、人口は滅多に増えなかった。かつては島からの移民や島への移民がいたものの、交流が絶たれてからはそれもなくなった。
松村のように都市へ出ていく者もいた。出ていってまた町に帰ってきた者もいた。
結婚等を理由に町人として加わったり、逆に抜けていく者もいた。
いつの地代も、町の中にいる者たちの数はほぼほぼ一定に保たれた。異様なほどに一定に見えていた。
一見一定に見えてはいたが、役場の帳簿に記載されている数字は一般的な町のものであった。
病気や事故が多い年は当然数字は減った。出産数が多ければ数字も当然増えた。どこにでもある町の帳簿である。
ただ、実際に町の中を歩けば常に一定の密度で生活が行われている。勘のいい人はそう感じるかもしれない。そして、それを口にしてはいけないのだとも勘がよければ思うのだろう。そういう人に限って町からすぐに出ようとするか、決まって海辺で消息が途絶えるのだ。
特に、町にいないはずの人がいると気づいた人は勘のいい部類に属した。触らぬ神に祟りなし。彼らは町で一切誰とも口をきかずに、そこから立ち去るだろう。
一定を保たれるものは人口だけではなかった。町の領地はどんな不況でも奪われることも奪うことなくあり続けた。合併によって地名が消える町が多くあったにもかかわらず、この町は持ちこたえ、何処とも手を組むことをしないで独立とも言える状態を貫いたのだ。
灯台の改築を進言した件の町長を含み、数名の政治家はこの町を近隣の町とまとめあげ、大きな都市を作ろうとした者もいた。しかしそれはいつも失敗に終わった。
実はこの町の町長は狸親父と揶揄されるほどに胡散臭く、狡猾であった。小さな町と侮って話を持ち掛ければ逆に利用される。化け狸の治める町は政治家たちにとって鬼門であった。
触れるべからず。
町には他を寄せ付けない海風が渦巻いていた。
しかしながら町は孤立無援というわけでもない。町の端には隣町とを繋ぐ橋やら大きな道路、いつぞやの検問跡などがある。かつての船着き場は廃れてしまってはいるが使えないこともない。
出入りは自由に可能なのだ。町人も外界を拒絶しているわけではない。
しかし外から見ればこの町は外界を拒絶しているようにしか見えなかった。
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