第45話 補給の街・ダイム


 ダイムは交易都市だ。


 ジュマとは比率が違い、商人の列に冒険者が混ざり並んでいる。

 ダンジョンのない都市は交易で成り立ち品物のやり取りも盛んだ。その規模はマブラよりも大きい。


 ツカサは空間収納にジャイアントスネークの素材があったりするので、聖典ラノベでよくあるような商売めいたことをやってみたい気持ちもあった。

 ラングにそれを相談すると、まずは武器防具屋を覗きに行けと言われた。

 何故なのかと問えば沈黙が返って来て、代わりにエレナがそういう教育方針なのかと問うた。それに対してはそうだと返事があった。


 順番が来てギルドカードを三枚渡す。水晶版にカードをつけて犯罪歴や内容をチェック、ツカサのスキルが読めない文字なのは毎度指摘を受けるが、犯罪歴が無ければあまり追及はされない。

 もうそろそろスキルの記載を考えなければいけない気もした。


 【真夜中の梟】は金級のエルドとカダルがこちらでも知られているらしく、手続きをした周辺がざわついた。

 マーシは背負った剣の美しさに商人に声を掛けられ、自慢げに笑った後詳細は話さずに列を外れた。

 愛用の剣は腰に吊るしたまま、アイスドラゴンから出た剣は背中に背負う形で決めたらしい。幸いなことに重量がそこまで無いおかげで一本を背負っても変わらなかったのだそうだ。

 街に入るとダンジョン都市とは違う賑わいが聞こえた。

 客引きの声や商人の声、今街に入って来た隊商を呼び止める声もある。中に入った冒険者たちもどちらかというと買い物客の顔をしている。

 中には商人よろしくジュマや道中の魔獣の素材を持ち込む冒険者もいるが、楽しく買い物が出来そうだ。


 ジュマ同様、門を少し離れたところに看板があり宿を見れるようになっている。

 馬車をラング、カダル、エレナに任せて他全員で見に行った。今回は馬車を止められる場所を探すのがミッションだ。

 そして譲れないのは風呂付であることだ。

 補給の街と言われるくらいなのでたまには純粋に買い物を楽しみたい。


 馬車を停めるとなるとそれなりに大きい宿屋しかないようで、自然と選択肢は狭まった。三つ候補を選び、中央に近い所から覗くことにした。買い物と観光を目的にするならその方が良いだろうとマーシが言ったからだ。

 馬車に戻りラングに報告をすれば少しだけ肩を竦めて馬を動かした。一つ目の宿は部屋に空きが少なく、全員は泊まれない。【真夜中の梟】がここに泊まり次のところに【異邦の旅人】と思ったら、せっかくジェキアまで随行するのに宿が別々はつまらないとマーシがゴネて流れた。

 二つ目の宿は多少高かったがゴネた分差額をマーシが自腹を切ることで決まり、そこにした。

 部屋割はエレナ、ツカサとラング、【真夜中の梟】の三部屋だ。

 冒険者ギルドもあるが道中魔獣も狩っておらず用はないので顔を出さないことにした。

 

 昼過ぎに宿も決まり、夕食までまだ時間がある。

 食材の減りも予定通りでダイムで補給する必要もないくらい在庫がある。

 ダンジョンに籠る予定だった日数が半分程度だった為に、買い込んだ食材がそのまま残っているのだ。サツマイモに似た根菜は未だ箱のままだ。

 ジュマに無く、ダイムで新しく目に付くものがあれば買おう、程度でいる。なので純粋に散策だ。

 

 ロナとツカサとマーシで街に繰り出して屋台や雑貨、武器防具屋を覗くことにした。

 ラングは単独行動、エレナはこちらに知人がいるらしく顔を見せに。エルドはカダルの監視下でジェキアに着いてからのことをきちんと相談するという。エルドはツカサ達と出たかったらしく、そそくさと逃げて来た。

 夕食時の鐘が六つ鳴ったら南通りにある【蔦の葉】という食堂に合流することになっている。

 

 屋台はどこもかしこも良い匂いをさせていた。ダイムに入るまでそれなりに時間があったので、のろのろ進む列の中でオーク肉のソーセージを挟んだパンを食べたくらいだ。若人の腹はすでに空っぽになっている。

 目に付いた串焼きの肉を食べたら、塩が利きすぎていて喉が渇いた。近くにあったジュースの屋台でりんごによく似た果実をすりおろし、果汁を絞ったものを購入して難を逃れた。

 

「あれ絶対組んでるよな、汚い商売するぜ」


 マーシがこそこそと耳打ちして来て笑ってしまう。

 他にもクレープのようなものを売っていたりして中にソーセージか果物か選ぶこともできた。

 生クリームがないのが惜しいが先ほどジュースを飲んでいるのでソーセージを選ぶ。生地がざくっと歯切れよく、ソーセージがぱりっと割れて肉汁が染み込む。そうして柔らかくなった部分も美味しい。これは当たりだった。

 甘い良い匂いがしてそちらを見れば小麦粉をベースにしたものを丸くして油で揚げ、樹液の蜜をかけたおやつが売られているのを見つけた。興味が惹かれて買ってみれば少しだけ値段が張った。

 木のカップで渡されて木の串がついている。それで丸っこいものを刺して蜜を絡めて食べれば、懐かしいドーナツのような物だった。このカップはそのまま持って帰って良いため、値段が高めだったのだ。スーベニアという形か。


 三人でつついてぺろりと平らげ鞄に仕舞うフリをして空間収納へ。また別の店で飲み物を買って雑貨屋を覗く。

 冒険者も多く立ち寄っているらしい雑貨屋には旅のアイテムが所せましと並んでいた。

 歯磨き粉から石鹸、靴の修理のための針と糸、鞄やマント、帽子。防具屋でなくともある商品には驚いた。マジックアイテムはカウンターの奥にあるらしく、他の冒険者が問い合わせをしたりしていた。

 冷やかしを済ませたあと武器防具屋へ行く。

 冒険者ギルドの傍に店がいくつも立ち並び、それぞれに剣や槍、斧、杖、盾、革防具、鉄防具、魔法具など分類が分けられている。

 装備をしっかり見たのもマブラが最後、ツカサは全ての店に入った。

 剣の店は短剣からロングソード、大剣まで品揃えが豊富だ。外構えこそ別だが鉄防具屋と中で繋がっていて装備合わせはしやすい。マーシはやはり背中の剣が目立つらしく店主や冒険者から質問攻めにあっていた。カダルからの口止めで詳細を言うなと言われているので、マーシはどの質問にもジュマのダンジョンでドロップしたんだ、に留めていた。

 マーシは客寄せの役割を担っているのだ。ジュマのダンジョンは正常に戻ったが街の経済の為にも冒険者には来てほしい。そのため、ジュマでこういうものが出るぞと言いふらしている状況だ。

 カダルからは、見苦しいかもしれないがジュマを離れるならそのくらいはしてくれ、とギルマスに頼まれていると聞いた。鑑定が使える冒険者であればどの魔獣から出るかわかるが、わからなければ行って確かめたいと思う冒険者心を利用する思惑だ。


 ダイムに着くまでの間カダルとは話したのだが、ジュマのダンジョンは86階層以上ある予想だ。

 様々なことで余裕がなかったがよくよく考えればドルロフォニア・ミノタウロスは86階層ボス主。86階層の存在は明確になったのだ。そこにいくまでに広く深いダンジョン攻略に何年かかるはわからない。

 それでも【真夜中の梟】はしがらみと戦いつつ潜り続けるのだろう。


 ロナが魔法具と革製品の店を見たがったのでついて行った。

 ミラリスの事件でローブもズタボロになり、杖こそドロップ品でランクを上げられたがローブは取り急ぎ整えた物なので納得がいかないという。魔法具と革製品はこちらも中で店が繋がっており、上下共に揃えやすくなっている。

 ロナが品物を見ている間、ツカサは革製品の方を覗くことにした。

 防具やベルド、革製の籠手などに好みで縫い付けるサービスもあった。革製の装備を求めるのは動きやすさを重視する斥候や短剣使いだ。ツカサも胸当てが使えなくなっていたことを思い出す。

 短剣使いを称するのならばもう少し整えた方が良いだろう。ここで気に入る物が無ければジェキアで見ればいい。

 前に使っていたような胸当てを求め、【鑑定眼】を使って品物を見て何か効果の付いているものはないかを探す。

 ふと気になったのはミスリルの胸当てと書かれた装備だ。ミスリルという鉱石素材がここにもあるのかと興奮した傍ら、【鑑定眼】に書かれている【偽ミスリルの胸当て】という文字にがっかりもした。

 中々の値段、それでも頑張れば手に届きそうな価格に何名かの冒険者がその周辺をうろついている。こういった詐欺もあるのかと思い見る目を養うことの大事さを感じた。ただ、敢えてそれを教える義理もないとその場を離れたのは、きっとラングの教育のおかげだ。余計なことには首を突っ込まないようにするのだ。

 

 ツカサもロナも気に入った装備がないまま鐘が六つ鳴ったので【蔦の葉】へ向かった。


 ロナとマーシとくだらないことを話しながら道を行く。

 【蔦の葉】で合流し、それぞれが何を見て来たのかを共有する。

 ダイムの食事は肉よりも魚が多いようだ。近くの席の人に聞いたら、ダイムの傍には大きな川が流れていてそこで数種類の魚が採れるという。

 魚のフライ、香草焼き、煮付け、スープ。どれも違う種類が使われていて味も良い。スープには酒がたっぷりと使われていてアルコールは飛んでいるはずなのに体がぽかぽかした。


 旅の疲れを労うように食べ、飲み、騒ぎ。

 宿に戻り風呂に入り、そして柔らかなベッドに寝転がる。


 その夜、ほっと気の緩んだ息を吐いたのはツカサだけではなかっただろう。

 

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