第44話 ダイムへの道中


 ジュマを出てあれから六日。道中は順調そのものだ。


 移動に馬車があるだけに徒歩より早く、進む距離もある。

 ロナとエレナは荷台に、御者席はラングとカダルが交代でそのほかは早歩きを続けた。

 小走りとも言える速度に早々にバテてしまい、最初の四日ほどは休憩を多く取った。何故この速度で行くのかを尋ねたところ、護衛任務などがあった場合護衛する側が乗り込むことはないからだという。

 思い返してみれば、初めて【真夜中の梟】と会った際も彼らは馬車には乗っていなかった。

 

 キャンプエリアに辿り着けばツカサが土魔法で風呂を生成するのを見て、ロナが燃えた。

 エレナが指導をしてロナは少しずつ形作れるようになり、初めて水を入れた時には【真夜中の梟】は全員で喜んでいた。そのあと水の重さで崩れてしまったがロナならすぐに出来るようになるだろう。しっかりと水を入れられるようになったら湯沸しを練習すると意気込んでいた。

 エレナは昔取った杵柄、自身の分は自分で生成し四方を土壁で覆うことも余裕だ。水を入れるのと沸かすのはツカサにと初日は依頼していたが、魔水の筒を思い出して渡せばそれで解決した。火魔法は得意なので全く問題がなかった。

 この魔水の筒は非常にエレナに喜ばれた。というのも石鹸作りに水を使用することもあるらしく、水魔法が苦手なエレナは水を得る工程が一番面倒なのだそうだ。飲料にも可能な魔水の筒の水は必要に応じて精製することもあるが、どちらにせよエレナが喜んだので良しとする。


 食事はエレナもラングと並んで竈を使用した。

 かつて夫婦旅で使用していたスカイから持ってきた簡易竈は、簡易とは思えないほどしっかりしたものだった。

 薪を入れる口は二つ、鍋用の穴も二つ。所謂二連式と呼ばれる形で一般家庭にあるようなものの少し小さいバージョンだった。

 これはアイテムボックスに入りっぱなしだったらしく、最初は少し埃を被っていたが火を入れればそれも消えた。何せ安定して鍋を二つ置ける形なのは魅力的でラングはとても心惹かれていることが見て分かった。

 スープをエレナが、焼き物をラングが作った翌日は逆の作業を、それが自然と決まった。食材を持っているのがラングとツカサなので、初日の夜に在庫を書きだしてエレナには伝えた。


 テントは大絶賛だった。

 仕舞えば清浄されるテントはエレナも初めてだったらしく、毎日綺麗なベッドに上機嫌だ。

 空いているベッドを選んでもらいロープをかけて布を垂らし、仕切りを作る。流石というべきかそう言った配慮をラングは何を言うでもなく用意した。エレナはテントの一角に自身の部屋が出来たことを感謝しラングは短くそれに応えた。ツカサが同じように部屋が欲しいと強請れば自分でやれと投げられた。

 なので同じように仕切りを作ったらラングの分もやっておけと言われ、理不尽を訴えたら鼻で笑われた。ラングの仕切りももちろんツカサが作った。

 そしてエレナの機転で判明したことだが、このテント、汚れ物の服をそのまま置いておくと、次に使用したときにはその服すらも清浄されていた。ご丁寧に畳んでベッドの上に置かれていたのだ。これにはラングも、表情はわからないが恐らく呆然としていたように見えた。

 それでも石鹸の香りというのは欲しくなる。下に着ているシャツはテントの清浄機能に甘えているが、魔力の服は毎日着るので夜に洗濯しテントの中で干して翌朝着るを繰り返した。小走りで移動する道中、服が調節をしてくれるとは言え汗はかくのだ。エレナもいるので自分の臭いが気になった。

 そんなツカサの思春期な悩みに、エレナが思いついたように持ってきた石鹸を布の小袋に入れてラングとツカサに渡し、清浄が済んだ服の間に挟んでおくように言ってくれた。おかげでシャツにもふんわりと石鹸の良い香りがついた。

 ラングは着けている宝珠のせいか無臭は変わらなかった。それはそれで不思議だ。


 初日の夜、防音の宝珠を起動した後それぞれがスキルと身の上をお互いに知らせた。

 エレナの許可を得て【鑑定眼】を発動し、ラングにも共有をした。


【エレナ・ストレア(46)】

 職業:魔導士 石鹸屋 銀級冒険者

 レベル:76

 HP:430,000

 MP:10,500

 【スキル】

 火魔法Lv.10

 風魔法Lv.10

 土魔法Lv.4

 水魔法Lv.1

 鍵魔法Lv.8

 石鹸作り

 

 聞いていた通りの魔法の得意属性の上がり方だ。

 鍵魔法を使えることには驚いた。これはギルドで働く職員に求められる魔法だ。

 荷物に何かあった時中身を奪われないようにかける魔法でもあり、パーティメンバーに一人は欲しいと言われるスキルだ。実際エレナの所持品には掛かっており、パーティメンバーであるツカサとラングは触れるようにしてあるという。

 必要なら二人の所持品にもかけると言われ、せっかくなのでお願いをしておいた。


「とは言え、二人共空間収納なんて便利なものがあれば必要ないかもしれないけれど」

「それはそれです」

「はいはい、じゃあ鞄を借りるわね」


 くすくす笑いながらエレナが魔法をかけてくれ、カチリと鍵が閉まるような音が聞こえて返される。これでパーティメンバー以外がこのショルダーバッグを開けることは出来ない。

 

「そういえば、エレナさんは空間収納に驚かないんですね」

「呼び捨てでいいわよ、パーティメンバーなのだもの。そうね、スカイではそれなりに聞いたスキルだから。商人の人も持っている人が多かったわよ」

「そうなんですね、いや、ええと、そうなんだ」

「そうなのよ」


 時間停止の機能が同じかどうかが気になるが、持っている人が居るというのは少しほっとした。

 言いふらして良いスキルではないが同様にもし持っていたとしても説明は出来るスキルなのだ。振り返ってみれば【真夜中の梟】に共有した時も便利とは言われこそ、スキルについて言及はされなかった。

 

 ラングのレベルには驚いていたが、何か納得したような様子で頷いてもいた。

 ただ、ラングの方が年上ということに関してはひと悶着があった。エレナのために詳細は省く。


 旅記作家のラスを探す理由についても思いの外あっさりと納得をされ、疑ったり変な顔をされることもなかった。

 その理由について尋ねたところエレナは衝撃的なことを言った。


「スカイ王国には渡り人が多いのよ。妹の旦那はまさしく渡り人だわ」


 エレナからもたらされる情報の多さに、ツカサの方が驚くことが多かった。

 しかしだからこそわかったことがある。

 衛生や生活水準の高さなどは、ツカサのように渡って来た地球人があれこれと手を加えたのだろう。それに、ここに残る人もいるのだ。


 エレナとの会話で得る物が多く、パーティに歓迎したラングの決断にも感謝した。

 


 ジュマを出てから八日目、ダイムの城郭が見えた。



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