第25話 再びのダンジョン


 翌朝、緊張からか癖がついてくれたのか、日の出頃にツカサは起きることが出来た。

 既にラングは身支度を整えていてツカサを起こそうとしていたらしい。目を開けたところにラングの手のひらが見えてびっくりした。

 ラングは優しく起こすということが出来ない人だ。

 師匠にいつもぺしぺしと叩いて起こされていたせいで、それが癖になっているらしかった。ツカサも寝坊をすると頬をぺしぺしと叩かれて起こされるのだ。

 朝食の前に軽く手合わせ。これからダンジョンなので土に転がされることはないが、しっかりと部屋で柔軟を行ない、外で大きく体を動かした。

 食堂で【真夜中の梟】と合流、宿からの激励の朝食で朝から量がすごかった。それをぺろりと平らげて、わずかな食事休憩。


「さて、行くか」


 エルドの掛け声で席を立つ。大盾と剣の装備を背負い、エルドが宿を出る。

 その後に軽装のカダル、剣を吊ったマーシ、杖を手にしたロナ。

 ほぼマントで隠れているが最高装備のラングと、新たに腕輪を着けたツカサが続く。


 東口でダンジョンへの手続きを行ない、ダンジョンの異変で足止めを喰らい向かえない冒険者たちの視線を感じながら、幌馬車へ乗り込んだ。


「転移石への登録をしよう」


 がたがたとうるさい幌馬車の中、カダルが石を取り出す。

 

「手を乗せて、登録するエントと唱えてくれ」


 言われた通りにする。言葉を唱えるとすぅ、と手がくっつくような気がした。ちくりとした痛みが走り、見てみれば手のひらに小さく血が滲んでいる。ロナがヒールをかけてくれてすぐにその怪我は消えた。

 これで登録ができて、石を持つ人が触れていなくても転移呪文を唱えれば全員で移動できるようになるわけだ。

 転移の呪文は転移するムルオム、何かあれば全員が【転移石】を使えるようによく覚えておく。

 それから緊急脱出の際の話しだ。

 【帰還石】の使い方を確認され、呪文を知っていること、ラングが持っていることを伝えた。

 【離脱石】の使い方がわからなかったので聞いた。これは離脱したいメンバーに触れたまま叩き割れば良いらしい。

 そう聞いてラングはツカサにそれを渡した。ツカサも大人しく受け取った。

 五十五階層のアルゴ・オーガの宝箱から出た魔獣避けのランタンの話しをした。戦闘を避けて通ればそれだけ移動速度が上がる。どこまでの効果があるかはわからないが、常にそれを起動することに決まった。

 時折沈黙になりながら、思い出したことを確認し合い、ダンジョンの前に辿り着く。

 縁日のように並んでいた屋台に人はなく、自警団と見張りの冒険者だけがうろついている異様な光景だ。

 驚いたのはここにジルがいたことだ。自警団と共にこちらへ近寄って来た。


「【真夜中の梟】と【異邦の旅人】だな」

「そうだ。【銀翼の隼】の連中は出て来たか?」

「いや、出てきていない」

「わかった。奴らのことは依頼を受けていないからな、関わらんぞ」

「それはもちろん、先日話した通りです」


 ジルが前に進み出て頷いて見せた。


「ギルドからの依頼は七十八階層で何があったのか調べてもらうことであって【銀翼の隼】のことではありません」

「あぁ、認識があっているならいい」


 恐らくジルがここに居てくれたのはこのやり取りの為だ。

 冒険者ギルドに登録に行ったあのとき、何かしらの話しがあったのだろう。

 それ以上に会話はないらしく、エルドが先行してダンジョンに降りて行く。一階層に辿り着いたら【転移石】を使う手筈だ。


 降りる階段は変わらないが、下からの空気が異様に濁っている気がした。

 ダンジョンというものは不思議で、通り道がある方は風がちゃんと流れるのだ。どん突きだと風がなくなり、空気が停滞する。

 ツカサはしっかりと両の短剣に魔力を込め、階段の途中、ラングの合図で魔獣避けのランタンを起動した。昨日の内にしっかりと魔力を込めていたので問題なく発動した。

 階段の先から唸り声がした。

 

「最悪のパターンかもしれんぞ」


 エルドが大盾を構え、もう片方に剣を構えた。カダルはランタンを点けてエルドの後ろから照らした。

 ゆっくりと一歩ずつ階段を降りて行く。もう少し、というところでエルドの足が止まる。


「不味いな、掃除が先だ」


 階段先の広場に魔獣が来ているようだった。ツカサの持つ魔獣避けのランタンのおかげか、階段を上がっていたものが下がって降りて来られていたらしい。

 魔獣暴走スタンピード寸前だった訳だ。


「ということは、七十八階層踏破のせいでもっと強い魔獣が出て来た?逃げて来たのかな。それか、溢れたか」

「さぁ、それは行ってみないとわからん、が、まずはこれをどうにかせねばならんな」


 魔獣の生臭い息が届く様な気がした。1階層に降りて転移をするのは可能だ。だが、蓋になった魔獣避けのランタンを持つツカサが転移すれば、この通路に収まっている魔獣が外へ駆けだすだろう。


「ツカサ」


 ラングに声を掛けられる。振り返れば、同時にラングが前に進み出た。短剣と双剣の一本を抜き、両手に構える。


『全力で撃ちこんで見せろ。あとはやる』


 言われてツカサはぐっと体に力を入れた。困惑するエルドの大盾の前にラングと共に出る。


 強い魔法をイメージした。ラングが走り抜けるのに邪魔にならない属性を選ぶ。魔力をしっかりと全身に行き渡らせ、手を前に出す。通路全てに走る様に、強く、速く。


「切り刻め、道を開けろ、ウィンド!」


 ご、と背後から風が吹き込む。ずざざ、ばきばき、と物騒な音を立てて魔獣の肢体が切り刻まれて行く。イメージ通り大きくて鋭いかまいたちが通路中を蹂躙していく。

 切り刻まれてはいるが、とどめを刺しきれていない魔獣をラングが素早く見極めて短剣で刺し、剣で首を飛ばしていく。

 しゅうしゅうと灰になって消えていく魔獣、その後に残った魔石と素材。振り返らずにラングが風と共に奥へ消えていった。

 ツカサは素材を拾い、魔石を拾う。

 ぽかんと見ていた【真夜中の梟】が動き出したのは、少しだけ時間を置いてからだった。


 数十分だったと思う。ラングが戻って来た。


『先に外へ状況を伝えた方が良いだろうな』

『素材は?』

『拾ってきた』

『わかってるね!』

 

「出だしからとんでもないんだが、あー、カダル」

「カダルさん、もう、戻ってます。ここで待っててほしいって」

「あー、おう、さすが」


 魔獣暴走スタンピードの危険性を伝えに戻って居るのだろう。


「ラングがツカサもって言った意味を、俺はよくわかったよ」


 エルドが疲れた様子で階段に座り込んだ。ロナはキラキラした眼でツカサを見ていて、少し照れ臭い。


「俺、治癒魔法は上手くないんだ、ロナに頼らせてもらうから、教えてくれると嬉しい」

「もちろんです!属性魔法はお願いしますね!教えてねツカサ!」

「俺たち魔法はからっきしだもんなぁ、ロナ嬉しそう」

「俺は土魔法があるからちょっとは話せるぞ?」

「エルドの魔法って大盾でドーンバーンだから」

「わかったわかった!どうせ石壁しか創れんよ!」


 ちぇ、とでかい図体で拗ねる。すっかり見慣れた光景になりつつあるが、パーティメンバーがエルドを大事にしているのもよくわかる。

 ラングは階段の下でじっと奥を見ていた。


「待たせた。魔獣避けのランタンをギルドから持ってきて、さっきのツカサみたいに蓋をしておくことになったぞ」


 階段を降りて来るカダルと再度合流をする。コップを出して水を入れて渡せば、驚いた顔の後に少しだけ笑ってお礼を言われた。

 エルドと言いカダルと言い、こう言った対応は慣れていないようだ。


「ありがとうな、ギルドから戻るのに一時間ほどかかるようだが、上にいる冒険者も面構えが変わったし大丈夫だろう」

「魔獣、いない」

「見張っててくれたのか」


 ラングが頷き、全員で降りて行く。

 淀んでいた空気は感じられない。風が通っている。


「一時間程度どうにかなるだろ、全部面倒見てちゃ先に行けないしな。カダル、早く」

「全員フロアに居るな?行くぞ」


 なんとなく輪になってカダルを見つめる。


転移するムルオム


 エレベーターで降りる時の一瞬の無重力感を感じた。

 足元から地面がなくなって、ふっと落ちていく感覚だ。

 悲鳴を上げそうになったところで、がくん、と地面に足がついた衝撃で膝を突く。

 高い所から降りた時の重力はなく、階段から一、二段降りた時のような、そんなジャンプの勢いだ。


「初めてだと少し慣れないだろう、ラングは大丈夫そうだな」

「僕、最初は大きく転んじゃったから、ツカサすごいよ」


 マーシに腕を取って起こされ、苦笑を浮かべる。


「広い」


 ラングの声でよくよく周囲を見渡す。

 ざぁっと吹き抜けた風の心地良いこと、一面の草原が眼前に広がっていた。

 背後には岩山があり、そこにぽっかりと扉が開いている。攻略をすればそこから降りて来る訳だ。

 空を見ればまだ午前中の日差しがあって、遠くに森や山が見える。


「ダンジョン、の、中だよね?」

「おー、そうだぞ」

「ここからの一番の敵は、景色が変わらないことだぞ」


 まるで外だ。けれどここは中なのだ。


「うわぁ、おかしくなりそう」

「難しいこと考えない、それがダンジョンの正しい歩き方だ」


 マーシとエルドが肩を叩いてくる。


「さっさと進むぞ、癒しの泉エリアに辿り着くまで休めないからな」


 カダルが地図を出す。ツカサとラングに向けて開いて見せた。


「ここからは少ない目印を頼りに進むことになる。ツカサの持つ魔獣避けのランタンをずっと点けてもらうことになるが大丈夫か?」

「大丈夫、昨日の内に満タンにしておいたし、補充しながらでも消費少ないから行けると思う」

「あぁ、その魔力量なら、心強い」


 ちらりとツカサから視線がずれる。カダルにはそこにステータスが見えているのだろう。


「ここの階層の歩き方を改めて説明しておくな」


 事前に宿で受けた説明によると、草原のエリアは七十階層から七十五階層まで広がっているのだ。

 七十六、七十七階層は砂漠と時々森がある混在エリア。七十八階層はまた草原になる。

 今目の前に広がる草原地帯のように果てが見えないことからとにかく各エリアが広いことがわかる。


「風呂に水を出していただろう?正直ほっとしたさ」


 カダルの言葉にマーシが強く頷く。ツカサのような手段がない場合、アイテムボックスの一つが水で埋まり、持って行く物が増えるのだという。

 魔水の筒はそう言った点からしても、攻略アイテムなのだ。運が良かったのか、それとも何かの力が働いているのか。異世界ラノベ知識的に少し疑り深くなってしまう。


 気を取り直して一つ目の目印を目指していく。

 先駆者が立てた旗が草原のあちこちにあるのだという。それを目指し、そこから方角を確認、先へ進むのだ。

 歩くコツとしては、喋らないことなのだそうだ。

 話題をここで出し切ると休憩が苦しくなるとマーシが力説し、ロナは笑っていた。

 とはいえ初めての下層でツカサもそこまで気楽にはなれず、周囲を見渡し、魔獣避けのランタンの魔力を確認しながら後について行った。

 並び順は斥候のカダルを先頭に、エルド、マーシ、ロナ、ツカサ、殿にラングだ。ダンジョン用のコンパスというものもあるらしく、カダルが時折立ち止まり方角を確認していた。


不意にカダルから魔獣避けのランタンを消すように言われる。

エンカウントを避けると思っていたが、何か考えがあるのだろう。言われた通りにランタンを消す。


しばらく歩いて一つ目の目印に着く直前、草原が風ではない何かでガサガサと揺れた。


「フォウウルフ」

「了解」


 カダルの声にエルドが盾を構え前に出る。ツカサとロナを中心にして他の四人が陣を組む。

 ガサガサ、ざざ、と草が揺れる。ツカサも短剣を構えた。

 足の長い草から顔を出したのは角の生えた狼の群れだ。パーティの周りをぐるぐると駆け、跳びかかるタイミングを計っている。

 

「行くぞ!」


 エルドの声かけで構える。先に隙を見せて飛び掛からせ、カウンターを入れる手法で行くようだ。

 大盾を前に押し出しフォウウルフを叩ければ良し、叩けなくとも大盾を蹴って飛び上がったその腹へ剣を刺して片づけて行く。真ん中にいるロナとツカサに血がぱたぱたと降り注いだ。

「おっと、すまんな」

 大盾を上に持ち上げて血を防ぎ、空いたエルドの胴を狙って飛び掛かって来たフォウウルフの頭に持ち上げていた盾を真っ直ぐに落とす。大盾の鋭い縁でぐしゃりとフォウウルフが潰れて絶命した。

 カダルは飛び掛かって来た狼を蹴り飛ばし、着地をする前にナイフを脳天に刺してスマートに片づけている。

 マーシは剣士らしくまずは足、地面に転がり落ちたフォウウルフに飛び掛かり剣を強く差し込んで終わらせた。

 ラングは双剣の一本をひゅんと音を立てて振り、斬るのと同時に血を払い鞘に納めた。

 首と胴が離れた狼がべちゃりと落ちた。

 三者三様の戦闘であっという間に終わった。


「うーん、入り口付近に出て来ないやつだ」

「森を抜けた先で出てくるはずだがな、ふむ、これは魔獣のランクが上がっていると思った方が良さそうだ」


 しゅうしゅう灰になって消えたフォウウルフのドロップ、フォウウルフの角と魔石を拾う。

 回収を済ませ方角を確認、カダルが歩き出してそれにまた続く。


 しばらく歩くと旗が見えた。

 そこからまた歩く。とにかく歩く。ふわふわと足の裏を受け止める草原の草の柔らかさにも飽きた。

 時折襲い掛かってくる魔獣は四人が簡単に片づけて行く。順調だ、大変よろしい、だが飽きる。慢心するなと言われればそうだが、景色が変わらないのは意外ときつい。マーシがああやって言ったのがよくわかる。


 ようやく癒しの泉エリアに辿り着いたのは夕方だった。

 どういう仕組みなのかわからないが、綺麗に舗装された噴水がここにもあった。

 近づくとふわ、とデパートに入る時の温風のようなものを感じ、ここが安全地帯だと体が認識する。

 洞窟と違い、ここはどん突きという訳ではないので草原が見渡せる。よく見ると癒しの泉エリアと草原の境目に魔法陣のようなものがあるのがファンタジーだ。

 癒しの水で喉を潤す。夜の移動は避けるため、ここで一晩を過ごすことになる。


「結構きついだろ」

「ですね、ゴール、終わりが見えないというか」

「それなぁ。ボス部屋見えると嬉しくなるぞ」

「内容的には嬉しくないんだけどね」


 マーシの言葉にロナが苦笑し、ショルダーバッグを地面に置く。

 ラングは早速組み立て式竈を準備している。


「七十四階層はいつ頃ボス部屋に着く予定だっけ」

「一週間くらいだな、休憩を多めに見て」


 この景色がそれだけ続くということだ。げんなりしてしまうが気を引き締める。

 草原を歩いていて遭遇したのはフォウウルフの群れが五つ、オークの群れが六つ、ジュマバードが四匹。

 食材が集まったからなのか、カダルの気が済んだのか後半は魔獣避けのランタンを起動して進み、それ以上の遭遇はなかった。

 フォウウルフは角を落とし、オークとジュマバードは肉だ。

 オーク肉とジュマバード肉があるので、今夜は手持ちの肉を減らさずに夕飯を作る。

 人参と芋を泉の水で煮ていき、ジュマバードの骨を入れてダシを取る。肉は塩で軽く揉んで、小麦粉を軽くつけてラードで揚げる。じゅわぁ、と良い音がして小鍋の中で唐揚げが出来上がっていく。

 鶏ガラを取り出したシチューは塩で味を調え、オーク肉の脂身を削いで投入していく。斬り落とした脂身は炒め物やラードの足しにするのだ。

 しばらくくつくつ煮込む。最後にハーブをぱらり。唐揚げも揚げ終わったらしい。

 じっと料理を見ていた【真夜中の梟】がそわそわと腰を浮かせ、ラングの周りに円を描いて座った。


「器」


 ラングが声をかけるといつの間にか手にしていた木製のスープ皿を全員が差し出す。等分に量をたっぷりとよそい、配り、唐揚げを真ん中に出す。最後に軽く炙ったパンを乗せた木籠が置かれた。


「いただきます!」

「いたたきます」


 ツカサが両手を合わせて礼をする。ラングもそれに倣ってから匙を掬う。

 【真夜中の梟】も首を傾げながら真似をして、シチューと唐揚げを口へ運ぶ。


「うま!」

「わぁ!美味しいです!」


 唐揚げをはふはふ食べるマーシと、シチューを食べて目を輝かせるロナ。


「くぅー!これがダンジョン内での飯とはな!たまらんな!」

「美味い…なるほど、ハーブが良い仕事をしている」


 嬉しそうに頬張るエルドの横で、カダルがしみじみと味わっている。

 カリッと塩っ気の効いた唐揚げが美味しい。素揚げはよくあるが、小麦粉がついているだけでパリパリ感が違う。シチューはほくほくの芋と甘いニンジン、それからどすりと胃にたまるオーク肉。パンをつけて食べて一滴も残さず、六人であっという間に鍋を空にした。

 

「いいなぁ、耐えられそうだ。ダンジョンの飯が美味いことって幸せなんだな」


 腹が満たされて幸せに呟くエルドに、ツカサは笑って頷いた。様々なものを制限される環境化で、制限されずに美味いものが食べられることはものすごいストレス発散なのだ。

 料理自体ラングのストレス発散でもあるのでちょうどいい。

 食器はツカサの水魔法でざばざばと洗う。ラード油は少し冷めた頃にラングが空間収納へ片づけた。また使うらしい。

 粗方片づけが終わるとラングはテントを出した。ここでもいつものテントで寝るらしい。


「日頃と変わらない生活でダンジョンを過ごせるとは、羨ましい限りだ」


 からからとエルドが笑い【真夜中の梟】もテントを取り出した。彼らのテントも中が少し広くなっていて、毛布や枕がごろごろと転がっている。清浄機能はついていないので、時折掃除が必要なのだ。

 テントに関してはお互いに入らない約束だ。お泊りもなし。

 78階層調査が終わればまた別パーティになるのだから、別のテントに慣れるのは良くないとラングとエルドが判断をしている。いずれ手に入れるからな、とエルドがロナに力強く言っていて、ロナは楽しそうに笑っていた。

 日の出と共に歩き出すので食事の後は自由時間だ。ツカサはラングと鍛練を行なう。


『足が疎か』

『腕をだらけさせるな』

『大ぶりすぎる』


 鞘に納めたままの剣でぱし、ぱし、と避けながら指摘される。息を切らせながら、休憩は許されない。息切れしたからと言って相手が待ってくれることはないのだ。きつい状況でも意識を持って動けることが大事なのだ。


『腰が高い、その剣技を続けるなら落とせ』


 ぱしっ、と腰を叩かれてよろけ、そのままどさりと倒れ込む。一時間近く動き続けていたので足が立たない。


『ここまで。疲れを残すな、テントの中に布を張って風呂に入れ』

『あり、ありがと、ござま』


 ぜぇはぁと息が切れてまともに話せない。ラングは離れたところで一人剣技の型をやり直し、体をほぐしている。

 【真夜中の梟】のメンバーは魔獣避けのランタンの灯りの中、鍛練をしていたラングとツカサをお茶の肴にしていた。


「ダンジョンの中でも鍛練とはなぁ」

「ツカサ、ツカサ、俺とも一手やるか!」

「無理」

「冷たくない!?」


 マーシがわぁわぁ騒ぐのを流石に静かにしろと叱り、ロナが治癒魔法をかけてくれた。立ち上がるのも億劫だった足が少し軽くなる。


「わぁ、魔法だなぁ」


 ツカサの自然な感想に笑い声が上がり、ダンジョン内に月が昇る。

 

 テント内でたらい風呂に入り、簡易ベッドで体を休める。

 

 順調に進み、ボス部屋に辿り着いたのはそれから五日後だった。





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