第14話 始めよう
早速と言わんばかりに扱かれた。
体の柔軟をやらされて股が裂けるかと思ったし、短距離のダッシュを何十回もやらされた。
へとへとのところに鞘を着けたままの短剣を構えさせられ、隣のラングを見よう見まねで振り回した。
ラングも腰の後ろに着けていた短剣で同じように両手を慣らしていた。
疲れると食事が億劫になるが、追加で銅貨を支払ってツカサの分は二人前になっていた。
それでもぺろりと入るから怖い。
そして僅かな小休止、部屋に戻り装備を整える。ツカサは胸鎧だけで終わるが、ラングはそれ以上に着ける物が多い。それでもいつも通り装着すればツカサより早いのだから驚いた。長年の動きの慣れがあるのだろう。
その日、初めてラングが装備をつけるところを見せてくれた。前日に武具屋で装備の着け方がわからなかったこともあり、見ておおよその構造を学べと言われた。これも弟子特権なのだろうか。
ラングは最初だからかゆっくりと着けて見せてくれた。
薄い革に鉄板のようなものがくっついている防具を胸に、両足の太ももに腰から続くベルトを巻いてそれぞれにナイフが一本ずつ刺してある。腿のベルトが落ちないように、腰からのベルトが留めているのだろう。見えない武器がここにもあった。
ここでいつもの上着を着る。横側で腰までいくつかのボタンで留める。肘から先が切れ目が入って袖が開いているのでひらひらしていて、裾は
その上からまた腰にベルトを着けて両腰に二本の剣、ラングは双剣と呼んでいるらしいそれを装備する。腰の後ろには短剣を着けた。それから指ぬきグローブの感触を確かめる。
最後にアイテムボックスであるポシェットを確認し、しっかりとベルトを巻く。マントを羽織り、首元からもう一枚、正面を隠すようにマントと同じ素材の布を着ければいつものラングだ。
ラングの装備はこのマントを含めてなのだろう。相手の視覚を惑わせることで、マントの下でどう動いているかを見せないようにするのだ。
武器は双剣、短剣が一本、ナイフが二本。
ふと思いついて装備全体を覗き見ようとしたら【鑑定阻害】が出たので、許可を得て【鑑定眼】を発動する。
頭から
――
――防音の宝珠(右)。任意、周囲三メートルの音を遮り、指定距離内の音を漏らさない。
――浄化の宝珠(左)。常に清潔を保つ。水に入れて使えば飲料水に変えられる。
――
――収納のポシェット。百種類のアイテムが収納できる。使用登録済:ラング。使用者限定の
――謀略のマント。リーマスから譲り受けたマント。見せたくない物を、見せないようにする力が付与されている。
――ロングブーツ。ハリファに作らせた特注品。仕込みナイフが入っている。
――エトヴィンの守護剣(
――ジョーカーの短剣。リーマスから譲り受けた短剣。長年使われた為一撃必殺の効果が付与されている。
――ジョーカーのナイフ。リーマスから譲り受けたナイフ。毒が染み込んでいる。
足の先まで。
正直、金級冒険者らしいと言えばらしい、不可思議で良い装備のオンパレードのように感じた。最終装備で合流した仲間というのは恐らくこういう感じだろう。
突っ込みたいところが山盛りの鑑定結果に、ツカサは着席して質問をする時間をもらった。
ただこれが面白いもので、ラングがそういうものだろうと理解していたのと違うものや、新しい機能を知ることにもなった。
『
『ほう、そういう種類の石が使われていたのか』
『知らなかったの?』
『師匠に押し付けられた物だったからな。自動修復などという機能があったのも初めて知った。壊れても直ると言ったが、そういう機能なのか』
『ええと、粉々にならない限り、元に戻るみたい。そう書いてあるよ』
『便利だな』
持っている本人が他人事で感心している。
『防音の宝珠はラングに使ってもらったからわかるけど、浄化の宝珠がすごく使えそうだね』
『身綺麗になる程度だが』
『いや、それ水に入れると飲料水に変えてくれるっぽい』
『飲料水』
『飲める水ってこと』
『もっと早く知っていたかったな』
むう、とラングの気配が拗ねている。ツカサは苦笑してラングの腕を叩いた。
きっと今までに水を必要とするシーンがあったりしたのだろう。どのくらいの量を一度に飲料水に変えられるのか、ツカサは検証したくなったが我慢した。それはまた今度試そう。ラングに提案をしたら頷かれたので、検証をしたいのはラングも同様のようだ。
『収納のポシェットは、この世界で言うアイテムボックスだね。所有登録者がラングになってるな』
『所有者登録をすることで、私だけが出せるアイテムボックスだ』
『オッケー、百種類まで入るらしい。今は空っぽなんだけど、大金諸々どこ行ったの』
『お前の言う空間収納というものにある』
『え!?』
ラングがツカサの前に手を差し出し、何もない場所から薬瓶を取り出して見せた。
『お前が使っているものがどういうものなのかと考えていたら、ふと体の中に空洞を感じて、出来た』
『なん、ちょっとまって』
ラングのスキルを開き、再鑑定を行なう。
【ラング・アルブランドー(48)】
職業:
レベル:358
HP:2,201,000
MP:0
【スキル】
オールラウンダー
鑑定阻害
追跡妨害
威圧
空間収納
スキルが増えている。
ピンと来て
――
『ラング、空間収納欲しかったの?』
『あぁ、持ち運びが要らなくて楽だなと思った。アイテムボックスは何だかんだ無くした時に困るからな』
『三つ授ける、になってるから、ラング、他に良いなって思うスキルあったらあと二個はもらえるみたい、チートだなぁ。でも言語はなんで取らないんだ?』
『お前がいるだろう』
それは通訳として、という意味だろうか。ツカサはやれやれと肩を竦めて見せた。
『習える者がいるのに、なぜ欲しがらねばならない?』
竦めた肩を元の位置に戻した。
ツカサは言葉の意味を理解する必要があった。もらえるならもらった方が早い、がツカサの考えだからだ。なぜと言われても、すぐに得てしまえば楽だろうと思った。
『努力すれば得られる物を、わざわざ欲しがる必要はない、ということだ。お前が手間であれば望んでみるが』
通じていないとわかったらしいラングがもう少し噛み砕いて説明をした。
努力や時間を掛けることを厭わないその姿勢が、今のラングを作った気がした。
ツカサは尊大に腕を組んだ。
『いいよ、頑張って覚えて』
『あぁ、語学は得意だ』
あっという間に覚えられても寂しいなと感じたのは、我儘だろうか。
『それから、そのマント。謀略のマントだって』
『目くらましの
『だね、リーマスさんから譲り受けたんだ』
『そこまで見られるのか』
『その前部分のところもマントの一部なんだね』
『あぁ』
ラングの手がマントを撫でる。握り締めようとしてツカサの手前止めたことも分かった。
ラングにとってのリーマスは思い入れのある人らしい。いつか話して聞かせてくれることを期待した。
『靴には仕込みナイフがあるんだ、ハリファって人に作らせた?』
『そうだ。腕の良い防具職人だ』
『いいね』
ツカサもいつか自分のためだけにそう言ったものを作ってもらおうと決めた。
そしてここからが本命だ。
『武器がほとんど譲り受けたものなんだね。ラングのことだから特注かと思ってた』
『どういうことだ?』
『双剣がエトヴィンの守護剣のペア、腰の短剣はジョーカーの短剣、腿のナイフは二本ともジョーカーのナイフ、ってなってる。毒つきで』
ラングが言葉を失っている。
前に名前を読み上げた時と似ているが、それよりも呆然としているように見える。
『ラング?』
『詳しく、説明を読み上げてくれるか』
『わかった』
ツカサは先ほど見たものを全て読み上げた。
――エトヴィンの守護剣(
――ジョーカーの短剣。リーマスから譲り受けた短剣。長年使われた為一撃必殺の効果が付与されている。
――ジョーカーのナイフ。リーマスから譲り受けたナイフ。毒が染み込んでいる。
ラングはシールドの中に手を入れ、恐らく目頭か額を抑えているのだろう。
膝に肘を付き、じっと動かなくなってしまった。
声を掛けない方が良い気がした。ツカサはカチコチと時計の音だけがする空間で、唇をぎゅっと結び呼吸を静かに心がけた。
『いつか』
ぽつりと零したラングの声が、微かに震えている気がした。
『いつか、話そう。これだけの真実を教えてもらっては、真実を対価に返さねば釣り合わん』
ラングは自身の拳を強く握りしめたあと、ツカサの手に手を重ねて心からの言葉を紡いだ。
『ありがとう。お前から聞いた今の話しだけでも、私はここに来た甲斐があった』
ありがとう、ともう一度伝えられ、ツカサは訳も分からないまま小さく頷くしかなかった。
ツカサの手に触れたラングの手がわずかに湿っていて、シールドの中、黙って泣いていたことがわかったからだった。
―――――
十時頃、改めて身支度を整え宿を出て、ツカサはやる気に満ち溢れた様子でラングの前を歩く。
ラングはその後ろをゆったりと歩いている。賑わいだした街は人が行き交い慌ただしい。
ひとまず大通りに出たところで、ツカサは歩きながらラングを振り返る。
『ギルドに行ってこの世界の依頼の取り方とか、報酬の受け取り方を確認しようと思う』
『ほう?』
『サイダルのやり方は間違ってた、なら、ここで正しい知識を身に着けないとジュマで浮いちゃうだろ』
『そうだな』
『あと、本屋があるかも探さないと。やることいっぱいだな』
『時間はあるぞ。滞在を一ヶ月にした』
驚いて足を止め、ラングを注視する。マントの中で肩を竦め、人の邪魔にならぬようツカサを促し、再びのんびりと街を行く。
『サイダルの件が片付くまで、ここに居た方が良いと判断した。ドノヴァンが監査を入れさせると言っていただろう』
『あぁ、うん、そういえば叫んでたね。潰すって』
『サイダルから灰色級が逃げて来る可能性がある』
『あー、確かに。マブラに入ってくるのかな?』
『迂回しそうだがな、その場合ジュマまでの途中で鉢合わせる気がしないか?』
『するね』
『街に入ってくる分には問題ない。マブラのほぼ全員が知っている事件だからな』
それもあり、マブラに滞在を続け、問題の冒険者たちを避けるのだという。
マブラにいることでラングは銀級として知られているので、立場の保障もされるのだとか。
『あ、そうだラング。昨日手帳ありがとう、日記、今日から書くよ』
『あぁ』
『その手帳が売ってる場所はどこ?本はあった?』
『大通りから一本西にあった。雑貨屋だな、読書できる物はない様子だった』
『じゃあノート…書き込みがしやすそうなのを何冊か買ってきて。ペンもあればいいな』
『何に使う』
『ラングの勉強用』
ふむ、と考えた後思い至ったらしい。そう、読み書きだ。言語は会話だけではないのだ。
『わかった。そちらの情報収集は任せていいんだな?合流は?』
『あの美味しい串焼きのところ。アバウトだけど昼頃でどう?』
『アバウト、文脈からして【おおよそ】ということだな?わかった』
後ほど、と人ごみに音もなく紛れ込んで行くラングを見送り、ツカサはギルドへ足を運んだ。
先日来た時と同様、ギルドには冒険者がごった返していた。
手続きをするために並ぶ冒険者の列に並び、カウンターの人と会話できるタイミングを待つ。
「次の方、ってあら!団長さんと一緒に来てた子ね?」
ハキハキとした女性がバンダナの中に髪の毛を直しながらきょろきょろした。
察した。
「いや、一人なんだ」
「あら残念!ところでどうしたの?噂のジャイアントベアーハンターのお兄さんもいないの?」
すっかり情報が回っているらしい。別行動を伝えるとそれにも残念そうな顔をされた。
「婚活ですか?」
「やだ、はっきり言うじゃない!」
朗らかに笑って、ギルド嬢は右手を差し出してきた。
「ティアヌよ、みんなティアって呼ぶわ。ティアとティアヌ、変わらないのにね」
「ツカサです、よろしくティア」
「どうかしたの?マブラには灰色級がとれる依頼は採取系だけよ」
「今日は依頼じゃなくて、教えてもらいたくて来たんです」
ふぅん、とティアは考えたあと、カウンターに【隣へどうぞ】のミニ看板を出した。ここにもこういうものがあるのか。
「相談コーナー行きましょ、ここじゃ後ろに怖いおじさん方が並んでて話しにくいでしょ?」
「そんな年じゃないぞ!」
「はいはいお兄さま方、良い子だから隣行ってね」
適当にあしらいつつさくさくと場を離れるティアに慌ててついて行く。
銀行の相談コーナーのように衝立で区切られたところに対面で席がある。促されて座り、ティアが羽ペンと紙束を持ってくる。
「はい、お待たせしました。それで教えてもらいたいことって?」
「冒険者のルールとか、依頼の取り方、報酬のもらい方。ギルドの口座の使い方と、あと本屋はありますか?」
「あー、そっか、君はサイダルから来たんだったわね」
ぽんと手を叩く様子が漫画のようでくすりと来た。ティアは書棚にいくと冊子を持って戻って来た。
「じゃーん、サイダルから来たまともな冒険者向けの手引き!」
文字は読める?と聞かれ頷く。
「月に数人とは言え、全員に説明してたら終わらないからね、担当が書き写して量産してるのよ。こういう時はお隣の印刷技術が羨ましいわ。これ、紙代もあってお金かかっちゃうけどいい?」
「いくらですか?」
「一万リーディ、結構大変なのよ、書き写すの」
「大丈夫です」
ツカサは銀貨一枚を差し出し、ティアが頷いてお金を金庫に入れに行く。
「そういえば、お兄さんは教えてくれなかったの?」
「自分で調べるように、と。弟子入りしたので厳しくて」
「なるほどねぇ」
座り直し、ティアがページを捲る。
「この大陸の冒険者ギルドは共通のルールで動いているわ。
「やり取りはないんですか?」
「アズリア王国のギルド総本部ならわからないけど、うちとはないわね」
ツカサは鞄から地図を取り出す。
「あら、大陸図ね、いいじゃない。アズリアはここよ」
今いる大陸の東の海沿い、ひときわ大きく国土を取っている国がアズリア王国。ティアの指がそのまま東に海を渡ってちらりと書いてある大陸の端に辿り着いた。
「ここが
「
「そうよ、悪魔の国ですって」
「いろいろ聞いても良いですか?」
「もちろん、でも情報料は掛かるわよ」
とんとティアが出したのはメニュー表だ。
三十分、一時間、一時間半、拘束料がかかるという訳だ。ここはしっかりと聞かせてもらおう。そこまで時間がかかるとも思わないが、金払いが良ければオマケの情報も多くもらえるだろう。
「一日分払います」
「太っ腹ね!候補に入れてあげるわ」
「それは、遠慮します」
そばかすの可愛い顔がにこっとしたが、あまりの肉食系にツカサの顔が引きつる。
けたけたと笑ってティアは冗談よ、とツカサの頭を撫でた。
「坊やは趣味じゃないから平気!先払いよ、2万リーディ」
「はい、お願いします」
「お任せください、じゃあ説明するわね」
それからティアに冒険者のルールと、仕事の取り方、報酬受け取り。口座の利用方法。
わかる範囲の国の話しを聞かせてもらった。
依頼の受け方はギルドボードから受けたい依頼紙を持って、カウンターに渡せばいい。
ギルドカードと依頼紙を魔道具に入れるとカードが記録してくれるらしい。紙はそのまま持って行って良い。
納品なら納品物が必要だし、討伐ならギルドカードに記載がされるのでカードのみで良い。
「ただ、素材が欲しかったらアイテムボックスかバッグか何かを持つことをオススメするわ。お兄さんがアイテムボックス持ちなら問題ないと思うけど。ボアとかお肉も美味しいし、結構良い値段でギルドが買うわよ。出来るだけ魔獣は持って帰って来てね」
冊子をめくると魔獣の特徴と名前も記載がある。すごいものをもらったかもしれない。
「報酬は必ず依頼を受けた場所で受け取ってね、でないと支払われないわよ」
「受けた場所で報告、わかった」
「ギルド内での喧嘩はご法度、騒ぎを起こしたらいろいろ面倒よ」
「起こさないよ!」
ティアが面白そうに笑う。本当によく笑う人だ。
「あとはパーティね、ギルドカウンターでパーティを組む全員で来てくれれば登録ができるわ。ギルドカードに記載されるからね。君は灰色級、お兄さんが銀級だとランクが離れすぎてるから、同じ依頼を受けたいなら必須よ」
これはあとでラングと来なくてはならない。
「あ、そうだ。依頼を受けてないけど狩った魔獣とかは持ち込めるんですか?」
「もちろんよ、マブラは街道から少し逸れて森に入ると結構な数がいるから、お兄さんにどんどん取ってくるように言っておいて。それがここの収入源なんだから!」
「つ、伝えます。あと、口座ってどうすれば?」
「十万リーディからすぐ作れるわよ。引き出しにはギルドカードと血が必要で、結構しっかりした感じ」
「どこのギルドでも引き出せるの?」
「もちろん、ただねぇ、あんまり大きい金額だと困っちゃうわ」
「どのくらいならいけるの?」
「二百万リーディくらいなら、たぶん」
とすると、今ツカサが持っている全財産は預けない方が良さそうだ。ラングから預かった二百二十万リーディは限度を超えてしまうし悪目立ちしそうだ。
自身で稼いだ二十五万四千リーディから、冊子代、情報料を差し引いて残り二十二万四千リーディ。その内十万四千リーディを渡して口座を作ってもらう。空間収納にしまっておけば預ける必要もないが、念のためだ。
所持金は十二万リーディになった。
冒険者の多くは飲み過ぎに使わないように、報酬の半分を口座に、もう半分を現金が多いらしい。
「
「うーん、ごめんね、わからないわ」
そもそもギルド自体が別物と考えておいた方が良さそうだ。
あと聞いておくことは、とツカサは冊子を捲っていく。採取する草花のスケッチも乗っていて、一万リーディの価値を感じる。
後ろの方のページにマブラの街の案内図があった。
「ティア、本を売っている場所ってありますか」
「マブラで本は売ってないわね、ところで敬語いらないわよ」
地図を見ながらそれっぽい場所を探していたが、だめそうだ。
「ギルドで読めるものとかはある?」
「あるけど、だいたい採取とか魔獣の情報とかよ。本の閲覧は本が傷むから、あまりやっていないのよ。その代わりそれにできるだけ初期情報書いてあるわ」
「なるほど、確かにこれあればかなり出来そうだもんな」
「本、好きなの?」
「旅記を、好きで」
「なるほどねぇ、それならジェキアに行って探した方がいいわ。ジュマはダンジョン都市だから誰も本なんて読まないし」
ダンジョン都市というのも気になる。
「ダンジョンの入り方は、どういう感じなの?」
「サイダルでは入ってなかった感じ?」
「入ってない」
「そんなに心配しなくて平気よ、ダンジョンの出入りには手続きは必要ないの。レベル上げ、依頼のため、目的がいろいろあって然るべき場所だから管理は面倒なのよ。強いて言うなら、入り口にその街の自警団が立ってたり、付近で地図を売ってたり薬草を売ってたりとかそういう感じ。でも、冒険者狩りには気を付けてね」
「やっぱりそういうの居るんだ」
「そうなのよ。ダンジョンで死ぬと、一日くらい放置すれば装備以外残らないから、所持品狙う悪い奴も中にはいるみたい」
吸収型という訳だ。宝箱があるとしたら、死んだ冒険者の持ち物なのだろうか。聞いてみた。
「それが不思議なのよね。未だに解明した人もいないけど、安心していいわ、死んだらそこで朽ちて行くだけで宝箱には入らないから」
よかった。この短剣もそういう曰くではないということだ。
ツカサは右腰の短剣を撫でて息を吐く。
そうだ、ダンジョンと言えば。
「ティア、魔石ってどうしたら手に入る?」
「あら、まぁ、そうよね、サイダルでダンジョンに入っていなかったら、知らないわよね」
よしよしとツカサを撫でて、ティアは生暖かい眼差しで見て来る。
好きにさせておいた方が面倒じゃない気がした。
「魔石はダンジョンでだけ出て来るわ。ダンジョン内の魔獣は不思議なことに、素材と魔石だけ落とすのよ。お肉もドロップするわ。もし、もしね、内臓だとかそういうのが欲しければ、手に入るのはダンジョンの外だけ」
「じゃあ、ダンジョン外では魔石は出ないってこと?」
「その通り、ダンジョンから出た魔獣は魔石は出さないの」
「え、ダンジョンから出ることあるの?」
「今その辺にいる魔獣は全部、元はダンジョンにいたと言われているのよ」
もう少し詳しく話しを聞いた。
今は森や山に当たり前のようにいる魔獣は、はるか昔はいなかったという。
ある時突如として現れたダンジョンから魔獣が溢れ、それが世界中に散らばったと伝えられているのだという。
ダンジョンの入り口に自警団を置くのは、
「
「よく知ってるわね、まさしくそうよ。十年前にジュマで起きたときなんて、冒険者と自警団と王国軍、全部総動員よ」
かなりの被害を出して溢れ出た魔獣を討伐し、ダンジョン内で山ほどの魔獣を狩ったという。
結局その原因もわからないまま、街周辺に魔獣を増やす結果だけで終わったらしい。
「ダンジョンは最下層まで行ったの?」
「構造は知っているのね?ジュマは層がかなり深いみたいで、今は78階までしかわかってなかったと思う」
「ほかに攻略済みのダンジョンは?」
「そうねぇ、隣の国になるけど、フェネオリアなら攻略済みのダンジョンが多いはずよ」
つまり、このヴァロキアの国は踏破されたダンジョンが無いということになる。
ゲームやラノベ的には、
そんなことを考えながらもらった冊子の街の地図ページを眺める。
ふと地図を見ていて気になった。
「ここは何?」
「そこは教会、こっちはおやつ屋さん」
「おやつ!?」
「そう、ちょっと高いんだけど、クッキーとか売ってるのよ、給料日の楽しみなの!」
絶対に行こう。それから教会という言葉に首を傾げる。まさかここでセーブするわけではあるまい。
「教会では何を?」
「あー、サイダルにはなかったわね。魔法の穴をあける場所よ」
「魔法の穴?ってなに」
「君、マナはある?」
「一応、でもサイダルで上手く使えなくて」
「それを使えるように穴を開けてもらうのよ。先天的に出来る人もいるけど、後天的な人は大きめのマナをどかんと流してもらって穴をぶち抜くの」
ティアがシュッシュと拳を振ってジェスチャーを込めて説明する。ツカサはふと思い至った。
もしかして使えなかったのも、穴が開かなかったのも、試してくれた人のマナが弱かったのだろうか、と。
教会にも行く必要がありそうだ。自分の可能性にどきどきし始めた。
「いくらかかる?」
「五万リーディだったはず」
「ちなみに、
「時々いるみたいね」
「そっか、ありがとう、一旦聞きたいことは全部聞けた」
「お昼前に済んじゃったわね。あと4時間分つけておいてあげるから、追加で聞きたい事あったら私に声かけてね」
「わかった、助かるよ」
冊子をショルダーバッグに入れ、中で空間収納にしまう。
ティアに挨拶をしてツカサはギルドを後にした。
ラングはMPを持っていない。もしそのラングが魔法を望んだらどうなるのだろうか?
本人が求めないと得られないものではあるが、非常に気になった。
ラングと合流したら、昼を食べて教会へ行こう。
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