第4話 教材の屍を越えていけ
「キャッ」という美香の短い悲鳴と共に倒れこむオレ。
背中には床に衝突した時の鈍い痛みがあった。
首の回りは何かに押さえつけられるような感触。
口はハンカチで塞がれたように息苦しい。
しかし、鼻腔に入り込む僅な空気は柔軟剤の柔らかな香りがする。
階段から滑って落ちた美香はどうなったのだろうか?
彼女が心配なオレはすぐに目蓋を開いた。
するとそこに暗闇だった。
見渡す限りの黒。
オレはどうなってしまったんだ?
未知の状況に困惑する。
美香の無事を確かめるため、声を荒げた。
「美香!大丈夫か!?」
「んんっ///」
美香の甘美な声が鼓膜を刺激した。
「どうしたんだ美香!どこにいるんだ!」
「ダメ!朝日...喋っちゃダメ~!」
首回りの圧迫が一瞬強くなる。
それに加え、今まで聞いた事のないような美香の猫なで声に唖然とする。
美香に言われた通り口を閉じると、首回りの圧迫が緩くなり、視界に光が差し込んできた。
オレは眩しい光に目を背ける。
少しずつクリアになってきた視界に映ったのは何とも神々しいウサギさんの姿だった。
ウサギさんが少しずつ空へと上っていく。
ああっなんて神秘的な光景なのだろうか。
オレは心の中で手を合わせる。きっと凄い瞬間を目の当たりにしているのだろう。
「朝日...」
美香の声でハッとする。
よくよく見ればウサギさんはチェック柄のオーロラに包まれているではないか。
そこから伸びるような2本の柱は肌色で何とも艶やかだ。
まるで女子生徒のスカートの中をローアングルから眺めているような。
あれ?
「朝日...見た?」
美香の地を這うような低い声。
心臓をギュッと捕まれたようだった。
「見て...ない」
「見てないわけないよね?」
嫌な汗が額を伝う。
もしかすると今日はオレの命日かもしれない。
オレの全身がヤバいと叫んでいる。言い訳をしろ!何か言わなきゃ!何でも良い!頑張れオレ!
「見てない!絶対に見てない!ウサギさんなんて見てないから!」
「うわーん!見てるじゃーーん!」
「待ってくれこれは不可抗力で...」
「朝日のスケベオタンコナスーーー!!」
「ナンデェー!!」
オレの脇腹を軽く蹴りあげて、泣き声を上げながら逃げていく美香。
なぁウサギさん。オレ悪いことしたかな?
美香を助けようとした気持ちに嘘はなかった。
だからパンツをクンカクンカもしてないし、ローアングルの光景を脳に焼き付けようともしていない。
スカートの中に顔を突っ込んでいたなんて知らなかった!
そこにやましい気持ちなんてなかったんだ!......多分。
ヒューヒューと優しい風が吹き込む階段の踊り場では、脇腹を押さえるオレと乱雑に散らばった教材だけが取り残されたのだった。
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