第2話 生物のワークあいつは良いやつだったよ

 



 懐疑的な瞳でこちらを捉える幼なじみの美香。

 椅子の背もたれにキレイに引っ掛かっているスカート。

 そして丸見えになったパンツ。

 熊さんのつぶらな瞳が何とも切実だ。


 普通スカートが椅子にかかったらスースーしたりして気づくのではないだろうか?


 こちらに振り返った時に気付いてくれるだろうと思ったが、どうやら期待通りにはいかないらしい。


 もしかして気づいてやっているのか!?

 いや、美香がそんな大胆な事をするはずがない。

 くそ!考えれば考えるほど迷宮入りするぞ!

 見てないで助けてくれよ!熊さん!


「いや、何もないぞ。気にしなくて大丈夫だ。課題もまだまだあるし早くやらなくちゃな。美香も一緒に頑張ろう!」


「あたし朝日に気を使わせるような事しちゃった?気になるじゃん。言ってよ...」


 オレのテンションとは裏腹に落ち込んだ表情を見せる美香。

 美香の事も考えて黙っていたが、何だか悪いことをしている気分になってきた。

 これ以上隠していても良いことはないのではないか?


 オレは熊さんを見る。

 熊さんは悟りを開いたような表情だった。

 あぁ、分かったよ。そうだよな。


 彼女を不安にさせてまで隠すことじゃないないよな?

 案外笑って許してくれるかもしれない。

 

 よし!包み隠さず話そう。


 パンツ見えてるって指摘するのひよってるやついる?いねぇよなぁ!


「怒らないで聞いてくれてるか?」


「うん」


「本当に怒らない?」


「怒らないって言ってるじゃん。教えてよ」


「大変申し訳にくいのですが」


「焦らさないでよ」


「パ、パ、パ」


「パ?」


「パンツ見えてる」


「えっ」


「椅子に引っ掛かってる」


「ひゃっ!」


 素っ頓狂すっとんきょうな声をあげる美香。

 彼女は凄い勢いで椅子に引っ掛かったスカートを直した。


「朝日見た?」


「み、見てない」


「絶対見たでしょ?」


「絶対見てない!熊さんなんて見てない!知らない!」


「うわーん、見てるじゃーん!」


 顔を真っ赤にさせて悶える彼女。

 オレは間違ってない。そうだよな熊さん?


「もっと早く言ってよー!」


「ごめん。今気づいたんだ」


「う~ん。あれ?でも熊さんの事考えてて、課題進まないって言ってたよね?」


 グッ!


「そんな事言ったか?それよりも課題進めようぜ。もうすっきりしただろ?」


「誤魔化さないで。本当は前から気づいてたんでしょ」


「いや、違う」


「ずっと私のパンツ見てたんでしょ」


「美香、違うって」


「私の熊さんパンツ見て笑ってたんでしょ!!」


「ちがっ」


「朝日のエッチーー!!!」


「ナンデェー!!」


 生物のワークを両手で掴み思いっきりオレの頭に叩きつける美香。

 パチーンとキレイな音が教室に響き渡る。

 彼女はこちらを恥ずかしそうに睨み付け教室を出ていってしまった。



 話が違う。話が違うじゃないか。

 オレは善意で彼女の事を思って正直に話したと言うのに。

 そこにやましい気持ちなんてなかったはずだ。多分。


 ミーンミーンと蝉の嘲笑う声が響く教室で、頭を押さえるオレとくの字に曲がった生物のワークだけが取り残されたのだった。


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