見えてますよ小倉さん

岡田リメイ

第1話 ひょっこり熊さんこんにちわ



 さんざめく蝉の鳴き声。

 身を焦がすような熱気。


 教室の外からは野球部とサッカー部の練習音が聞こえてくる。


 こんな暑い日はクーラーの効いた部屋でダラダラとしていたい所であるが、それは許されないようだ。


 机に置かれた山盛りの課題を見る。

 そうオレ 岡田朝日おかだあさひは夏の補習を受けていた。

 こんな猛暑にわざわざ学校に来なければいけないなんて一種の拷問だ。

 しかも補習を受けているのはクラスでオレを含め二人。

 教室の中は空席ばかりで何とも寂しかった。


 めんどくさいが、時折顔を向ける扇風機に癒しを感じながら課題をこなしていた。


 しかし、今現在一向に課題が進まない。

 その原因は一匹の熊にあった。


 熊と言ってもリアルな熊ではなく、デフォルメされた可愛らしい熊だ。

 熊さんと言った方が良いのかもしれない。


 そんな熊さんがじっとこちらを覗いているのだ。


 夏の熱気にやられ熊さんも汗ばんでいる。

 暑いのにご苦労な事だ。


 そんな熊さんに何故か目が離せない。

 オレは何かの魔法をかけられているのかもしれない。


「課題多すぎ~。朝日終わったー?」


 オレの名前を呼び振り返る少女。


「いや、全然進んでねぇな」


 茶色のポニーテールに白い肌。

 とても整った顔立ちで、自信に満ち溢れた表情。

 クラスの中でも絶大な人気を誇るカースト上位の女子生徒 小倉美香おぐらみかの姿があった。

 クラスで高嶺の花の様に扱われているが、幼なじみのオレからするとただ顔が良くて、スタイルが良くて、話しやすい普通の女の子だ。

 あれ?もしかして結構すごい?


「朝日全然進んでないじゃん。何やってたの?」


「ん、あぁ。ちょっと熊さんの事を考えてたんだ」


「熊さん?」


 ヤベッ。


「いや熊さんと言うか熊だな。生物のワークに熊は何類か分類せよって問題が出てて考えてたんだ」


「そんな問題あったっけ?私生物のワーク終わらせたはずなんだけどな」


「あー隅の方の問題だったから覚えてなくても仕方がないと思うぞ」


「ふ~ん」


 よし!どうやら誤魔化せたようだ。

 このまま熊さんの話を続けているとボロが出てしまいそうだった。

 熊さんの事はしっかりと目に焼き付けておいて、墓まで持っていこう。そうしよう。


「で、何でさっきから目合わせてくれないわけ?」


 ギクッ!


「い、いや、美香が美人だから恥ずかしいな~なんて...」


「昨日まで普通だったのに今さら?朝日って昔から都合が悪くなると目をらす癖があるよね」


 ヤバい!

 彼女は完全に人を疑う目をしている。

 もう正直に話した方が良いのだろうか?


「スッキリしないから何かあるんだったら言ってよ」


 いや言えない。言ってはいけない。

 言ってしまえばオレの生命に関わるだろう。

 親しき仲にも礼儀あり。

 きっとこれはそういう類いのものだ。


 何と言われようと目を背け続けるぞ。

 だって















 熊さんパンツが見えてるなんて言えるわけないだろ!








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