第27話 流行りのゲーム実況〜バナナの黒色の斑点はシュガースポットって言うんだって〜

 あれから俺たちは定期的に配信を重ねて行き、それに比例して登録者はどんどん伸びていった。今では登録者は17万人、なんでこんなに人気が出たのか俺には良く分からないが、掲示板やまとめ動画では『カップル』という単語が良く出されるのは知っている。……何とも解せん。


 ……さて、そんなこんなで今も配信をしているわけで、今日はゲーム配信ということでバナナゲームをやっていた。最近流行りのフルーツを重ねていく落ちゲーで、フルーツをどんどん大きくしていき高スコアを目指す。


 このゲームはソロプレイということもあり、理不尽の少ないゲームだ。チーターの多いFPSや、押しても降りても負ける麻雀とは違い、穏やかな感情でプレイすることができるのだ。だから今日俺はこのゲームを選んだ


 ——————はずだったんだが……、


「先輩そこですそこ!」

「はぁ?代名詞で言われたら分からねぇよ!」

「あっ!何やってるんですか!そんなメロンの上にデコポンなんて置いたら……。ほら!転がって邪魔なところに柿ができちゃったじゃないですか!……先輩、次はあそこです、ほらあそこ!……あっ!何やってるんですか‼」

「だから代名詞じゃわからないって‼」


 お手本のような指示厨をする雪が俺を存分に苛立たせていた。


 やるならもっと細かく指示しろよ!ソコだのアソコだの言われてもどこかわからねーよ!せめて指でさせや‼


 ・メアちゃん指示厨草

 ・うーん、かわいそう

 ・メアちゃんひどすぎるwww

 ・まぁ他人のやってるゲームを隣で見てるだけってのはつまらないし……

 ・俺もこんな可愛い子に支持されたい

 ・漢字違くて草

 ・未来の政治家ニキかな?

 ・俺だけ税率下げてくれ、頼む!

 ・それはもはや脱税で草


 コメント欄が楽しそうにコントしている間にも雪の指示厨は続いていった。


「あー!もう!うるせぇーー‼そんなに指示廚するなら自分でやれ!」

「いや私がやったらただのつまらない配信になるでしょう?さっきの私のプレイ見てましたか?」

「くっ!これだから天才は……!」


 実はコイツも配信開始と同時にこのゲームをやったのだが、いとも簡単にダブルバナナを作ってしまった。それで雪曰く『私事故が起きない限りミスる気しません』と言うので、結果的に俺がバナナを作るのに永遠と挑戦する配信になってしまった。


「ほら、うだうだ言ってないでさっさとやりますよ!」

「はぁ、分かってるよ……」


 俺はそんな風に返事しながら桃を落としてメロンの横にパイナップルを作る。


 おっ、これは……!


「良いですね先輩、あとはパイナップルの上の桃を重ねるだけですよ!」


 メロンが右端にあり、その左にはパイナップル、そしてそのパイナップルの上には桃が一つ乗っている。


「勝ったな風呂入ってくる」

「フラグ作るのやめてください!そもそも先輩が風呂に行ってら誰が操作するんですか……」

「……分身体?」

「先輩はごく普通の一般人ですよ」

「ちょっと封印の書盗んで来るわ」

「多重影分身の術を習得しようとしないでください!そもそもあれ禁術ですからね?」

「大丈夫、僕最強だから」

「ジャ〇プ違いじゃないですか。そこは作品合わせてくださいよ!」

「無理だな、俺エゴイストだから」

「もはや掲載誌すら違いますよ!」


 ・ジン君激おこで草

 ・指示厨に自分でやれは全くもってその通りで草

 ・*しかしメアちゃん意外に限る

 ・まぁ、メアちゃんうますぎたもんな

 ・まさか最初からダブルバナナは流石に天才すぎwww

 ・でもメアちゃんが指示厨してるおかげでコメ欄に指示厨湧いてないのホント草

 ・ジン君そこだそこ

 ・そうだ、そこでメアちゃんを押し倒せ!

 ・いやそっちの指示厨かよwww

 ・ワロタ

 ・あれ?めっちゃ作れそうじゃね?

 ・おー!いける!ジン君頑張れ!

 ・あー、ジン君フラグ立てちゃった

 ・だめだこりゃ

 ・風呂行ったらクリアできないの草

 ・分身ってお前……。忍者かよ

 ・あの禁術一般人が使ったらチャクラが足りなくて死ぬだろ

 ・そもそも盗むな定期

 ・うーん、流れ変わった?

 ・額当て目までズレ落ちてて草

 ・〇条の目隠しは額当てじゃねぇよwww

 ・その次はエゴイストかよwww

 ・第一セレクションで脱落してそう

 ・QBK!!


 気を取り戻して俺たちはゲームに戻る。


 次に落とすフルーツは柿、か。


 ……これマジで流れきてるぞ?


 それからも何個かいい感じに果物がツモッていき、ついにあとはデコポンを重ねれば連鎖でバナナが作れるであろう形までできていた。


「よっしゃー!マジでこれあるって!」

「先輩、油断禁物ですよ?」

「分かってるって!」


 俺は雪の言葉に適当に返事しながらも、続々とフルーツを落としていく。……そしてついに———、


「うっしゃぁぁぁ!ついに来た!これで作れる!」


 画面右上の『ネクスト』と書かれている枠の中、そこには俺の求めていたデコポンが確かに存在していた。


 ・きたぁぁぁぁ‼︎

 ・これで行ける‼︎

 ・ついに完成するのか……

 ・よし!やっちゃえジンサン!


 俺は手元のさくらんぼを適当に下に投げ捨てると、即座に元々計画していた位置にデコポンを落下させた。


「これでバナナ完成じゃぁぁぁ!」

「先輩何やってるんですか‼︎」

「は?何って……、もう完成だろ?デコポンの位置もミスってないし……」

「デコポンの話じゃありませんよ!さくらんぼですって‼︎」

「さくらんぼ?」

「そうですよ!あんな位置に置いたら……!」


 俺は雪の言葉に釣られて再度画面を見る。


 俺の落としたデコポンはもう一つのデコポンと繋がり柿となり、続けてリンゴ、梨、桃、パイナップル、メロン、そしてバナナになった、


 ——————かに思われた。


 事件が起こったのはメロンになる瞬間。


 ちょうどパイナップルとパイナップルの境に置いてあったさくらんぼがメロンができた衝撃により大きく飛び上がったのだ。


 さくらんぼはそのまま止まることなく、まるでホームランボールのように突き進んでいき……、ついには箱を飛び出して行った。


 そして、それと同時に出てくるリザルト画面。……1974のスコアな見えたのは箱内のメロン同士がくっ付く直前であり、俺の儚い夢は無惨に散っていたのだった。


「はぁぁぁぁ⁉︎」


 ・草

 ・知ってたwww

 ・ホームラン!

 ・めっちゃメンタルにきそうコレwww

 ・かわいそうやな……w

 ・上のやつ笑ってんじゃねーか


「だから言ったんですよ……、油断しないようにって」

「油断も何も……。……これはおかしいだろ⁉︎」

「おかしくないですよ……。先輩のプレーミスです」


 俺の言葉に雪の正論がブッ刺さる。しかし怒り狂っている今の俺は伝説の野菜人ブ◯リー状態、たとえ俺が悪くても何かのせいにして暴れ狂ってしまう。


「……いや、そもそもこのゲームが悪くね?」

「先輩一旦119呼びます?」

「そうだよ、俺は悪くない‼︎フルーツ落とすだけのゲームの何が面白いんだよ‼︎」

「何でそこに文句言うんですか……。それに先輩だってさっきまで楽しそうにやってたじゃないですか……」

「うるせぇ‼︎それに柿とデコポンもおかしいだろ‼︎何でアレが柿なんだよ‼︎オレンジだろ!どう考えても‼︎俺に何度言い間違えさせれば気が済むんだ‼︎デコポンはマイナーすぎ‼︎」

「全国のデコポン農家に謝ってください」

「あとバナナって何だよ‼︎何でバナナなんだよ‼︎アレ丸くねぇだろ‼︎何でわざわざそれを丸くしたんだよ‼︎だったら丸いフルーツ元々選べよ‼︎スイカとかで良いじゃねーか‼︎」

「……大人の事情でもあるんでしょう……」


 ・激おこで草

 ・確かに何でこんなに人気なのかな?フルーツ落とすだけなのに

 ・薬物でも入ってるんじゃね?知らんけど

 ・割と危ない発言なのに無責任すぎるwww

 ・画面から摂取する薬物とかテロすぎるだろ

 ・柿の件は分かるがデコポンは別にええやろw

 ・デコポン理不尽すぎて草

 ・バナナは確かにそうだな

 ・言われてみれば確かに、何でバナナ?

 ・知らね

 ・というか、何で今までそれに疑問持たなかったんだ……?

 ・俺たちは何者かに思考を操作されている……?

 ・陰謀論者で草


「落ち着きましたか?」

「……おう」


 一通り文句を言い終わった俺は息を整えながら雪の言葉に返事をする。


 それからは雪やコメントと少し雑談をし、ふと時計の方を見ると配信開始から約1時間半経過した夜9時半となっていた。明日も学校のことを考えればかなり妥当な時間である、……のだが、


「じゃあ、続きやりましょうか」

「え?……まだやんの?」


 雪はまだ続ける気でいるらしかった。


「先輩がバナナ作り終わるまでやるんですよ?」


 何を当たり前のことを、と言うように俺を見てくる雪。


 は?マジで言ってんの?


「そもそもお前いつ帰るんだよ。もしこれ以上続いたら補導時間になるぞ?」

「いや、私今日泊まるので」

「え?ダメだけど?」

「でも私家に帰れませんよ?姉に連絡しましたし、友達の家に泊まるって。鍵も持ってません」

「は?」


 マジで何やっくれてんの?俺泊めるしかないじゃん。


「制服は?」

「持ってきました」


 ……最初から全て計画されていたわけらしい。何という罠だろうか、やることがぼったくりバーと同じである。


「でも、お前の姉は俺が男だって知らないだろ?バレたらまずいんじゃないか?」

「あ、それなら伝言がありますよ。私は見るなって言われてましたから見てませんが」


 そうして雪の手渡してきたスマホの画面にはこう書かれてあった。


『避妊はしっかりね‼︎』


「…………」


 ……もっと妹を大事にしてくれませんかね?


 ……何はともあれ、もう俺の抵抗の手段は無くなってしまった。


「じゃあやりましょうか……。今夜は眠らせませんよ?」


 世界一嬉しくないそんなセリフを受けたのを最後に諦めた俺は、バナナを目指して真っ暗な夜の世界へ飲み込まれていくのだった。


 ……あぁ、明日は遅刻コースかな……。


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すいません、ちょー遅れました。理由としては新作を書いていたのもありますが、一番の理由は一度書いたデータが消えて萎えていたことです。本当にすいません。

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