第26話 会社訪問(3)〜名古屋のソウルフードと言われているスガキヤは割と賛否両論〜

「……少し大人気なかったんじゃないですか?」

「……そうだな。すまなかったと伝えておいてくれ」


 雪が去った後、取り残され俺は赤羽さんを少し睨む。


 まぁ、赤羽さんの気持ちも分からなくはない。はっきりとした性格の彼女には雪の曖昧な態度に言いたくなることがあるだろう。


「……それでは僕も失礼します」


 開けっぱなしのドアから外に出て、雪の行った方向とは逆方向、つまり来る時と同じ方向に歩いていく。


 ……雪は一人にしておいた方が良い。俺が行っても逆効果だろうし、また逃げられるだけだ。


 しばらく歩いていくとベンチに座って仲良さそうに話している二つの人影が見えた。


「あっ、面談終わったんだ。で、次はいつコラボするの⁉︎明日?明後日?明々後日⁉︎」

「いやしねーよ。そもそも俺はVファンに入らねぇし」


 もう俺が入った気でいる奏に俺はしっかりと否定の言葉を返した。


「え〜〜、入ってくれても良いじゃん!ほら、もし入ってくれたら渚が何でもしてくれるって!」

「いや、お前じゃないのかよ。……ほら渚さんも困惑してアワアワしてるし」

「大丈夫だよ渚、御影は優しいから」

「え、えと、はい……。がんばります」

「いやそういう問題じゃねーよ。あと渚さんは頑張らないで否定してくれ……」


 海に捨てられたペットボトル並みに流されやすいじゃん。


「んー、じゃあ私ってこと?」

「違うよ?」

「へ〜、御影は私のことを好きにしたいんだ〜」

「だから違うよ?」

「しょうがないな〜。それでどんなお願いをしたいのかな?」

「だから違っての!あと、雪みたいな絡み方するなよ」

「せ~んぱい♡」

「やめろやめろ!最後に♡つけるな!お前からそう呼ばれた瞬間ぞわっとしたわ!」

「えーん傷ついた~。渚なぐさめて~」 

「え、えーと、よしよーし……?」


 嘘泣きをしながら抱きつかれた渚さんは困惑しながらも、なんとか奏のノリについて行こうとする。


 いや優しいかよ。


「それはそうと、雪は〜?」

「……あー、トイレだって」

「う〜ん、なんか怪しい間。相変わらず嘘吐くの下手だね〜」

「うるせぇ、トイレだよトイレ!」


 逃げたことを言ったらどうしてそういう経緯になったか聞かれることになりそうだし、そもそもアイツはこいつに逃げたことを知られたく無いだろう。


「ふーん、まぁいいや。じゃあ、帰ろっか」

「ナチュラルに雪を置いてこうとするなや」

「そ、そうだよ奏ちゃん、流石に悪いよ……」

「むー!何で渚までそっち側なの!」

「い、いや、だって……」

「うるさーい!言い訳は聞きたくなーい!」


 奏はまたもや渚さんに抱きつくと顔をすりすりし始める。


 こいつ抱きつきすぎじゃね?……まぁ、気持ちは分からなくもないが。


 ……なんか渚さんって可愛いんだよな。いや、恋愛的な意味とかそういうことじゃなくて……。何というか、犬とか猫みたいな可愛さがあるんだよな。奏がやたら抱きつくのも愛犬を抱いて愛でる感覚と同じだろう。


 ……いや、別に俺がしたいわけじゃないけどね?


 そうして、俺が渚さんを眺めながら色々考えていると、


「何やってるんですか先輩?」


 後ろから聞き慣れた後輩の声が聞こえた。


 おっと、一旦まずいか?


「……何にもやってないぞ?」

「渚さんを見ながら、何を考えているんでしょうね?」

「…………」


 俺は無言で両手を頭の上にあげた。雪の手で作られた銃の銃口が俺の頭に押し当てられていたからである。


 ……なんという殺気……!


「くっそ!胸ポケットに六法全書入れてくるの忘れてた‼︎」

「先輩の胸ポケットはどれだけデカいんですか。しかも、胸ポケットだと頭は撃たれても防げませんよ」

「勘違いするな、六法全書の角は人をも殺せるんだよ」

「六法全書で刑法第199条に違反しようとしないでください!」


 うるせぇ!例え六法全書で銃弾を防いだとしてもそっちは刑法261条だぞ!


「あ!やっと来た!遅いよ‼︎」

「だ、大丈夫でしたか?」


 俺たちが茶番しているうちに2人とも雪に気付く。それにしたがって俺は命の危機から解放されて、鋭い殺気も消えていった。


「大丈夫ですよ。心配ありがとうございます、渚さん」


 当然のように奏を無視する雪。しかしそんな二人の間では視線のみの猛烈な戦いが繰り広げられていた。


 ……いや、お前ら仲が良いのか悪いのかどっちなんだよ。


「さて、じゃあ帰りますか。先輩、夜ご飯にスガキヤ寄って帰りましょう」

「アレそんなに美味しいか?名駅めいえきだったら一蘭行こうぜ、あっちの方が美味いぞ」

「良いじゃないですか、食べにくいスプーンかありますよ?」

「いや、そのためだけにいくところじゃねーから!」


 しかもアレ結局使わないし‼︎箸とスプーンの方が便利なんだよな。


「まぁ、いいや。スガキヤ行くか。たまに食べたくなるし」

「あ、二人だけずるい!私も行く!……もちろん渚も行くよね?」

「え、えと、うん。お邪魔じゃなければ」

「大丈夫ですよ、お邪魔なのはこの女だけですから」

「あ!ひっどーい!そんなに私と食べたくないんだったら一人で帰れば?」

「うるさいですね。貴方こそ一人で帰ったらどうです?ぼっちが良くお似合いですよ?」


 少し目を離した隙に喧嘩始める二人。


「おいお前ら、んなことしてると日が暮れるから早く行くぞ」

「待ってください先輩!まだ————」

「うるせぇ、誰の要望で行くと思ってんだ」


 そうして俺は雪を、渚さんは奏を無理矢理引きずりながらスガキヤを目指していく。


 さて、不穏な気配がした会社訪問だったけど無事に終わって良かった。雪の方もそこまで気落ちしている様子は無いし、取り繕っていたとしても、まだそれだけの余裕があるということだ。


 これからも変わらずこんな関係が続けば良いな。


 俺はそう考えながら夕陽の方に向かって進んでいくのだった。


 ……あれ?そういえば道合ってるのかな?


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 僕は別にスガキヤは嫌いじゃないですよ?


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