第25話 会社訪問(2)〜社長キャラってここぞって時に意味深なこと言うよね〜
「やぁ、待ってたよ。ほらそこに座ってくれ」
部屋に入ってすぐ、そこに立っていたのは40代半ばくらいの女性だった。十中八九この人が社長なのだろう。
俺たちは促された通りに彼女の対面のソファに座る。奏と渚さんはいつの間にか部屋から退出していて、部屋の中にいるのは俺たちだけだった。
「まずは自己紹介からしようか。私はバーチャルファンタジアを運営するインタレスティングエンターテイメント株式会社代表取締役の
そう言いながら俺たちにそれぞれ名刺を手渡してくる。
おー!すげー!なんか大人って感じがする!
名刺を受け取った俺たちはそれを財布の中に仕舞うと次は自分たちが自己紹介しようと、最初に雪が口を開いたのだが……、
「えと、私は————」
「あぁ、そんなのいいから、知ってるし」
あっさりと遮られてしまった。
お、おい、雪睨むなよ……。たしかに俺もすこしイラッときたが相手は取締役だぞ……?
そんな様子の雪を見ながら赤羽さんは面白そうにニヤリと微笑むと言葉を続ける。
「さっさと本題に入ろうか。……単刀直入に言おう、君たちVファンに入る気はないか?」
「せっかくのお誘いですが、遠慮させていただきます」
「ほう?即答か」
「はい、元々決めていましたので」
雪と赤羽さんの視線が重なる。なんか二人の間に火花が散っているように見えるが、はたして本当に気のせいなのだろうか。
「それは何故かな?ウチに入ればもっと登録者を伸ばすことができるだろう。それに機材の提供やマネージャーだって付く。コラボや企画だってやりやすくなる。他にもサムネや税理士などのメリットは数えきれないだろう。たしかに縛りだってできるし、君たちの場合この調子で伸びればはウチに入るより儲けは良くはなるだろうが、そもそも君たちは高校生、お金にそこまで執着はなかろう。全体的に見てもメリットの方が大きい、それでも入らないのか?」
「それでも、です」
またもや雪は即答する。
「……理由を聞いても良いかな?」
「……足枷が出来るからですよ」
「足枷?」
「そうです。……たしかにVファンに入ればもっと伸びることができるでしょうし、楽に楽しく活動することもできるでしょう。……しかしそれ以上にとても大きな足枷ができてしまうんです」
「それはコンプライアンスだとかそういうことじゃなくて?」
雪は赤羽さんの質問に小さく首を横に振ると、一拍置いてその足枷の名前を告げた。
「責任ですよ、それも個人でやっているのとでは比べ物にならないほどの。少しのミスや軽率な判断をすれば、企業に、同僚に、私たちの全く知らない先輩方や裏方の人まで多大の損害を与えてしまう。ただの個人であったなら自分たちだけである程度処理できますし、飛び火するとしてもよっぽど仲の良い人までしかしません。1人2人なら私のキャパの範囲内です。余裕を持って収めることができるでしょう。しかしそれ以上、ましてや企業までとなるといくら私でも責任を負いきれない、なので私たちが企業に属することはVファンであろうとなかろうと金輪際絶対にあり得ません」
雪の言葉に俺も赤羽さんの方を向いてしっかりと頷く。
……これは元々俺たちがVtuberになる前に決めていたことだ。
俺たちは正直に言ってしまえば、自由奔放で気分屋だ。Vtuberになったのだってその場の気分だし、いまだにそれを続けているのだって、たまたま今この瞬間にやる気になっているからである。そんな俺たちがこれからも大きな責任を背負ってVtuberを続けられるか?と問われたらYESと言える確証はどこにもない。
「こちらとしては、それだけのことを理解しているのなら大丈夫だと思うがね。それにある程度のことはこちらでカバーできる」
赤羽さんは俺たちの言葉に納得したように頷いていたが、それでも勧誘をやめなかった。……まぁ、ほとんど諦めてはいるんだろうが……。
「それでも私達はその話を受ける気はありません」
「そう、か」
先程の予想通り、その後に勧誘の言葉が続くことはなく、赤羽さんは諦めた様子で小さく嘆息した。
「ならもう諦めよう。ただ、もし少しでも興味が出たらいつでも連絡してくれ。私は君たちがVtuberを続けている限り、いつでも君たちを受け入れよう」
「……全然諦めてないじゃないですか」
「金のなる木はそう簡単に逃せないんだよ」
そうして、堅苦しい大人な話は終わりを告げた。
★★★
雪視点
それからは幾らか世間話をした。赤羽さんも思いの外気軽な人だったようで、先程までのことが嘘のように和やか雰囲気だった。
……まぁ、私と赤羽さんが話してるだけで先輩は置いてけぼりだったんですけどね。
ちょっと可愛かったですね、さっきの先輩。
そして入室してから約1時間後、私たちは社長室を去ることにした。荷物を纏めて部屋を出ようと、ドアノブに手をかけた時突然赤羽さんに呼び止められた。
「……なぁ、今回はいつまで続けるんだ?」
「……何のことですか?」
いきなり的を得た質問をされ、自分でもびっくりするぐらい低い声が出た。どうにかいつも通り愛想の良い風に振る舞おうとするが、全く思い通りにならない。
「別に隠さなくて良い。私はそれを攻める気はないからな。今日話してて分かった、お前は《天才》だよ、紛れもなく、私が会ってきた誰よりも。……そして、私が会ってきた誰よりもお前は残酷だ」
「……何が言いたいんですか?もしてかして白鳥奏とのことですか?」
「……自覚はあるんだな」
「…………経験したので」
変わらず背を向けたまま、顔を伏せて私は答えた。
「……さっきも言ったが別に私はお前を責めようなんか1mmも思ってない。白鳥奏とのことだって私は詳しく知らない、何となくこんなことがあったんだろうな、とは予想はできるが本人から全部聞いたわけじゃない。……まぁ、自覚があるなら分かってるんだろ?」
「……何をです?」
「惚けんなよ。お前このままじゃ手遅れになるぞ、何もかも。両方取ることは出来ないんだよ、問題を先送りにしたままじゃな。……唯一の救いは一つを解決したらもう一つも解決すること、か。そういう意味だとまだ両取りはできるのかもな」
「……うるさいですね。貴方に言われることじゃありません」
私の言葉に先輩と赤羽さんが息を呑んだのが分かった。
……私自身もこんなに取り乱すなんて思わなかった。なんとか取り繕おうとはした……、しかし止まらなかった。
———あまりにも赤羽さんの言葉に私の深層心理が見抜かれていたのだから。
「……まぁ、お前がそれで良いなら良いよ。……最後に私が言えることはお前自身の自分勝手で才能を潰すなってことだけだ。もちろんお前のためにも、な」
「……そうですか、それでは失礼します」
「あっ、ちょっ、おい雪……!」
私はそれだけ返事して、先輩の静止も聞かず足早に部屋を出ていく。先輩は部屋に置いて行ってしまったが、今は誰とも会話したくない気分だった。
廊下に出た私は、渚さんたちと顔を合わせないように裏口の方から外に出ると、そこに誰もいないことを確認して、その場でしゃがみ込んだ。
“このままじゃ手遅れになるぞ”
……分かっている。
このままだとまた中学の時の二の舞になるのは分かっている。
————そして、もしそうなってしまえば私の大好きだった先輩の人生をまた壊すことになってしまうかもしれない、ということも分かっている。
全部そんなこと、言われなくても分かっていた。
……だとしても、だとしても、
「しょうがないじゃないですか……。だって……」
私は、誰よりも自分勝手で誰よりも無自覚な天才なんですから。
私のそんな呟きは春の風にかき消され、音にならずに溶けていく。
……私はどうするべきなのだろうか。
……いや、分かってる。1番良いのは私がVtuberを辞めることだ。
だけど……、もしかしたら、もしかしたらできるかもって思ってしまう。先輩との和解ができるのじゃないか、って。
「……先輩、私はどうしたら良いんでしょう……」
何が何だか分からなくなった私は、ここにいるはずもない人に縋るように呟く。当然返事はない。私がさっき置いてきたのだ、当たり前だ。分かってはずなのに縋ってしまう。
そんな自分自身の行動に嫌気がさした私は、大きなため息を吐くと、
「……戻ろ」
それだけ呟いてビルの中へ入っていくのだった。
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すいません、また遅くなりました……。
ずっとコメディーしか書いてなかったので知らなかったのですが、シリアスって難しいですね……。文字数も多くなってしまったので、読みにくかったらすみません……。
あとタイトルってどうなんでしょう……。こういう時って、いつも通りのふざけたタイトルじゃない方が良いんですかね……?
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