第24話 会社訪問(1)〜東海圏民あるある、金時計は人が多すぎて集合しにくい〜

「あれ?先輩何でここに?」

「え?お前こそ何でここにいるんだよ」


 ある快晴の土曜日、駅の中の金時計の前で俺たちは鉢合わせた。


「私はあの女に呼び出され……、あっ、まさか先輩……」

「あぁ、お前もか、あいつ何のためにお前まで……?」

「何ですか、私はいらないってことですか?」

「ちげーよ、意味を探してるんだ、意味を」


 そう言いながら、いつも通り雪の頭にチョップしようとして————、直前で手を止める。


「どうしたんですか先輩?」


 雪は心底不思議そうに眼前で止まった手を見つめる。


「いや、なんというか……」

「何ですか?」


 俺は綺麗に整えられた前髪といつもと違うポニーテールを見ながら答える。


「……髪崩れちゃうかもしれないだろ」

「…………」

「お、おい、どうした雪、大丈夫か?」

「……何でもないです」


 顔を少し赤らめてそう言う雪。


 あっ、これ突っ込んだら俺も恥ずかしくなる奴だ!


「そ、そんなことよりですね!先輩、私あの女と出かけるなんて聞いてないんですけど?」


 なんだその束縛彼女さながらの言動は。


「そりゃあ言わないだろ、別に彼女というわけでないんだし……」

「ふーん、付き合ったら言ってくれるんですか」

「そういうことじゃねーよバカが」


 今度こそ俺は軽く雪の頭にチョップをし、雪から少し距離をとる。


「あ!さっきは控えてくれたのに……!」

「俺は仏ほど優しくないから1回が限度なんだよ」


 俺の言葉に不満そうな視線を送ってくる雪。まぁ、髪が崩れたことに対して怒っているわけではなさそうだが。


「はぁ、んなことしてないで行くぞ」

「へ?行くってどこへ?」


 俺は雪の疑問にエレベーターの方向を指さすことて答える。


「あぁ、なるほど。……金時計は集合場所としてあまり適してないのは本当ですね。人が多すぎます」

「……まぁ、向こうは気付いてたみたいだがな」

「こっちが気付かないのは不公平です!」

「集合場所に公平性を求めるなよ……」


 そうして俺たちはエレベーターの近くまで行くとその人影に話しかけた。


「よお、遅かったな」

「む~、何でちょっと遅れただけでこんなに見せつけられなきゃ……」


 俺たちに不満そうな目を向ける奏。俺たちを呼びだした張本人だ。


「うるさいですね。遅れた方が悪いんですよ!」

「……でもその言い方だと見せつけてはいたんだ?」

「………………それで?何のために私たちは呼ばれたんですか?」

「あっ、逃げた!……まぁ良いけど。私も早く連れてこいって言われてるし」

「連れてこい?俺たちを誰かに会わせたいのか?」

「んー、まぁ、とりあえず行けば分かるし……、それじゃあ行こっか!」


 奏は俺の腕と自分の腕を絡み合わせると、そのまま駅を出て街の方へ歩き始める。


「何ナチュラルに腕組んでるんですか!離れてください!」


 それに続いて雪も俺のもう片方の腕を引っ張りながらついてくる。


 ……あの、引っ張るなら奏の腕にしてくれませんかね?腕と周りからの視線が痛いよ……。


 俺は左右から引っ張られながらもなんとかバランスを保って名古屋の街を歩いていくのだった。


 ★★★


 駅を出てしばらく歩いた後、一つのビルの前で奏は止まった。


「ここだよ〜、ほら入ろ入ろ」


 奏は俺の手を引きながら躊躇なくそのビルの中へ入っていく。


 ……なんかちゃんとしてそうなビルだけど大丈夫か?俺たち今クレープ食べてる途中なんだけど……。……一応今全部食べておくか。


 クレープを丸呑みした俺は不安になりながらも奏に続いてビルに入って行く。一方雪の方はまだ呑気にクレープを食べている。なんとも緊張感のない奴だ。


「なぁ、ここはどこなんだ?なんか店ってよりは会社っぽいんだが……」

「え、先輩気づいてなかったんですか?」

「は?お前知ってんの?ここ」

「当たり前じゃないですか、正直来る途中に気づいてましたよ、なんかいちいち連絡きてたみたいですし」

「ヘ〜?雪ちゃんすご〜い!それでここは何処なの?教えてよ!」

「おちょくってるんですか?表出てやりましょうか?……あと、貴方に雪ちゃん呼びされると気持ち悪いのでやめてください」

「……じゃあ、メアちゃん?」

「それは流石に洒落ならないですよ!」


 ……おい……あの、俺の質

 問無視するのやめてもらっても良い……?……あのさ、俺いつまで経ってもここがどこか分からないから心臓バクバクなんだけど……。


「あ、いたいた奏ちゃん!」


 俺が内心不安に思いながらも引き続き歩いていると、前方から奏を呼ぶ声がした。


なぎさ!」


 その声を聞くと奏は先程までの雪への態度が嘘だったかなのように顔を明るくし、そちらに走っていく。そしてそのままその少女に抱き着いた。


「も、もう奏ちゃん辞めてよ、ほらお客さんたちが見てるから」

「良いじゃん、良いじゃん!渚の可愛さをみせつけてあげよう~!」


 渚と呼ばれたその少女は奏に体ををそこら中触られて、くすぐったそうに体をうねらせる。


 ……なんかちょっとアレだな。……エロい————痛っ‼


「おい雪、足踏むなよ」

「先輩が渚さんを見て鼻を伸ばしてるからじゃないですか」

「……別に伸ばしてないけど?」

「ふーん、なら良いですけど」


 雪はその言葉とは裏腹に、俺の足の上に乗せたままの足をぐりぐりと回す。


 痛い痛い痛い!


「嘘です!ちょっとエロいなって思っていました!」

「そうですか」

「おい、正直に言ったのに何で力強めるんだよ!」

「別にー?」


 俺は何とか雪から距離を取り、苦痛から逃れる。まったく、ナチュラルに心を読んでこないでほしい。あれで理系志望ってマジかよ。文系行けよ!心理学部行けよ!


「えと、話しかけても大丈夫、かな?」


 俺がいろいろ拷問を受けている間に奏のお楽しいタイムは終わったようで少し顔を赤くした渚さんが俺たちに話しかけてきた。


 いや、奏は奏で何したんだよ。渚さん呼吸も少し乱れてるんだけど。


 っておい、足を踏むな雪、今のは違うだろ!


「……私は天草渚あまくさなぎさです。Vtuber迷子犬まよいこいぬの中の人です」

「うぇ?Vtuber?」


 何でここにVtuberの人が?しかもたしか迷子犬って雪と同期のVtuberだった気が……、あっ、まさか……⁉


「なぁ奏、ここってもしかして……、Vファンの事務所か?」


 たしかVファンの事務所は名古屋にあるって聞いたことある気がする。Vtuber事務所にしては珍しいって。


「んー、もしかしたらそうかも~」


 おい、何だその適当な返事は!お前の勤めてる会社だろ!


「はぁ、先輩やっと気づいたんですか……。察しが悪すぎますよ」

「わ、わたしはてっきりもう教えられているんのかと……」


 やっぱりか。しかし本当に今さらなんだがこの格好で大丈夫だろうか。超ラフな服だぞ。というか、雪はそれ把握した上で堂々とクレープ食べてたのかよ。メンタルアズキバーじゃねーか。


「なるほどな。それで?奏が合わせたい人ってのは渚さんのこと?」

「うーん、別に私が合わせたいわけじゃないけど……。まぁ、それはともかくとして御影たちが会うのは渚じゃないよ」


 あれ?違うのか。俺たち二人を連れてきたってことは絶対にVtuber関連だし、コラボなどの準備として渚さんに会わせたのかと思ったが……。


 となるとまさか……、それに奏が自分が合わせたいわけじゃないって言ってたし……。


 俺は嫌な予感を感じながらも続けて奏に質問した。


「じゃあもしかして……?」

「うん、そのもしかしてだよ」

「つまり……」

「今から会うのはこのVファンの社長だよ」

「あー、やっぱりか……」


 ということは要件も大体わかる。はぁ、何で一高校生が社長と仕事の話をしなきゃならんのだ。


「まぁ、そもそも奏とのコラボが決定した時点でこれは決まった運命だったってことか」

「大丈夫ですよ先輩、その辺の話は全部私がやりますから任せてください。そもそも先輩はこういう場面で役に立たないですし」

「おい、散々な言われようだな」


 まぁ、事実だから何も言い返せないんだけどね。なんとも情けないことである。


「先輩は波風立てず私の後ろに隠れといてください」

「……なぁ、一応俺の方が年上だよな?」

「精神年齢が低いんですよ、先輩は」


 なんか俺すげー馬鹿にされてね?


「まぁ、いいや。もう全部お前に任せるわ」

「最初からそうしてれば良いんです」


 そう話した後、俺たちは一際大きい部屋、つまり社長室に足を踏み入れるのだった。



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 すいません、最近新作に取り掛かっているので、今回みたいに更新が遅くなる時があるかもしれません……

 

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