第22話 お絵描き配信(4)〜『薬』の意味は訓読みと音読みでかなり変わる〜
「先輩、行きますよ?」
さて、俺たちのアルバムがそれぞれ終わり、いよいよ俺たちの勝負の開幕となるわけなのだが……、
「まぁ、お題はな……」
「大体想像つきますよね……。回って来たお題同じようなものしかありませんでしたよ」
俺たちはゲーム中に回ってきたお題を思い浮かべながら二人して大きなため息を吐く。
正直、俺たちにはそこら辺はもう諦めている節がある。なんかいちいち構うともっとアレになりそうだし。……まぁ、いくら諦めても気になるもんは気になるんだけど。
「……とりあえず始めますか」
雪のその言葉と共にアルバムが始まる。
『結婚式を挙げるジンメア』
「あっ、これ最初に私のところに来たやつですね」
「まぁ、当然のようにこういう方向だよな……」
「しょうがないですよ、なんかファンアートとかもこういう系しかないみたいですし」
「……そういやそうだったわ」
ここ数日で登録者と同時にファンアートなども大きく増え、俺たちも一応チェックしてリポストするようにしていた。
様々な絵があったのだが、どれも俺と雪がイチャイチャしているような絵であった。
……というか、配信の一シーンって書いてるやつ多かったけど、俺たちあんなバカップルみたいなことしてないんだが?
「……もうそれは良いんですよ。……それで?どうでしょう先輩、かなり力入れて書いたんですけど」
俺はその言葉で画面に目を移し、雪の絵を眺める。
……上手い。
雪の絵は教会の中で真っ白なウエディング姿の雪とタキシード姿の俺が向かい合ってキスをする直前の絵だった。
所謂誓いのキス、というやつだ。
しっかりとした線で描かれており、ウエディングドレスとタキシードといういつもの服とは違っていても二人がちゃんと誰か分かるようになっている。特に俺の顔はあまり特徴がないというのに、だ。教会も小物や机、神父を描くことでちゃんとわかりやすくしてある。
「上手いな。ただ……」
「そうでしょう?頑張ったんですよ、少ない時間で小物とか色々足して————」
「いや上手いんだけどさ……」
俺は長くなりそうな雪の言葉を無理矢理切って、上手さ以前の思っていたことを言う。
「……お前自分で描いてて恥ずかしくなかったのか?」
「…………」
急に押し黙る雪。どうやら本人も思っていたらしい。
「だってしょうがないじゃないですか!私もこれ描いてる時、”あれ?教会の外観と私達二人描けば終わりなんじゃ……?”なんて思ってましたよ!でも勝負なら本気で描くしかないし、しかも時間ないし!最初にキス姿を描いて、”いや、流石にキスはないかな……、いやでも……”とか思いながら唇を付かなかった私を褒めてくだないよ‼︎」
まるでドラマの犯人がどうしようも無い犯罪の理由を告白するかのように迫真の表情で雪は言う。
……雪は雪なりに葛藤があったんだな……。
「お、おう、大変だったな。……だとしても許されざる罪だ。ちゃんと罪は償うんだぞ?」
「何言ってるんですか。薬物ですか?自首します?」
「……リアルに炎上しそうだからやめてくれ……」
・うめー!
・あの短時間でこんだけ詳しく分かりやすく描けるとか天才かよ
・マジでうますぎる
・ウエディングメアちゃんふつくしい
・もうこれ実質結婚だろ
・自分で書いてるわけだからね、うん、その通りだ
・唇の部分を何度も描き直しながら悩んでるメアちゃんには流石に笑ったわw
・でも内心キスの方にしたそうだったw
・こんなこと言ってるけど、描いてる時ちゃんと楽しそうだったしね、とくにジンくんの時
・ジンくんいきなりどうしたw
・薬か……?
・『スピード感マックスのホワイトチョコアイスX Sサイズ〜ドラゴンのエクスタシーを添えて〜』ってこと……⁉︎
・上のコメントだけに8個の隠語あってマリファナ
・ドラゴンのエクスタシー無理矢理すぎだろw
・何でお前らそんなに隠語知ってるんだ……?
・まさか……?おっと宅急便だ……
・お前は知りすぎた
・俺殺されててマリファナ
・なんで生き返ってんだよ
・ナチュラルに現世に戻ってこないでもろて
・成クレ〜
「さて、それじゃあ再開しますか」
一通り話終わった俺たちは再びしりとりを再生させて次の絵を見ていく。
それから雪の絵はちゃんと繋がり、次の絵の人もそれなりに上手く描いたことで遂に俺のところに辿り着いた。
「よし、じゃあ俺の絵を見せてやるか」
……俺の絵にコメント欄も混乱していることだろう……。ふっふっふっ、俺が絵の説明をしたらびっくりすること間違いなしだな。
「あの絵を見た後にどこからその自信湧いてくるんですか……?自分で言うのも何ですけど私の絵かなり上手いですよ?」
「ふっふっふっ、確かにお前のは上手かった、というか元々絵の上手さでお前に勝つつもりはない」
雪に絵の上手さで勝てないというのは最初から理解していた。俺は雪の絵を見たことはないが、雪の絵の先生の絵は見たことある。
……アイツの書いたオリキャラの絵めっちゃ上手かったし、アイツに習ってたってことはちゃんと美術的な絵以外も上手いってことだし。
「だから俺は巧さで勝負したんだよ」
「巧さ?」
「そうそう、俺が美術の先生に認められた才能は絵の上手さじゃなくて巧さだから」
「……もったいぶってないで早く見せてくださいよ」
「おい、もうちょっと格好つけさせてくれよ」
「……なんか面倒臭くなっちゃって」
「分からんくもないわ……」
しょうがないよね。どこまで行っても俺たちはこういうものなんだもん。
・お、ついにジンくんの絵が来るのか
・ジンくん何であの絵を見て自信あるの……?
・なんか前振り始めたぞ
・巧さ……?
・あの絵のどこに巧さがあるのか
・うーん、締まらないな〜
・面倒臭くなっちゃったんならしょうがない
なんか締まらない感じで終わってしまった前振りを俺は気にせず、そのまま絵を表示させる。
そこに表示された絵には、真っ黒なフォルムに数え切れないほどの足、オレンジ色の触覚を体から生やし、体が大きく曲がっているソイツが描かれていた。
案の定、表れた絵を見た雪は困惑の表情をしながら呟く。
「ムカデ……?」
そう、そこに描かれていたのはムカデだった。どこからどう見てもムカデだ。別にミスではない、俺は意図を持ってちゃんとムカデを描いたのだ。
・うーん、やっぱり分からん
・風刺画か……?
・ムカデで何をどう風刺したら結婚している図になるんだよ
・どこからどう見てもムカデにしか見えん
・というか、なんでムカデ?
コメント欄も俺のムカデの絵に困惑しているようだ。当たり前だ、これを初見で分かったらかなりすごい。美術の先生でさえ初見では分からなかったのだ。
雪はまだ画面を睨みつけながら頭を捻っている。
……さて、もったいぶってもしょうがない。そろそろ解説といきますか。
俺はまだ正解が出ない様子の雪とコメント欄を横目で見ながら、答え合わせのため口を開くのだった。
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無事テストが終わったので投稿ペースを戻していけるように頑張ります。
補足
マリファナ→草
本文中のマリファナは草と読みます。
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