第18話 野生のVtuber好きが現れた!→逃げる→しかし回り込まれてしまった!
「ねみぃ......」
俺はあくびを噛み殺しながら通学路を進む。
いつもはあそこまでメンタルの強いやつではないのだが……、何かあったのだろうか?
まぁ、何があろうと今の俺には関係ないが。
そんなこんなで日曜日が終わり今日は月曜日、もちろん善良な学生である俺には学校があり、先ほどの通り重い体を動かして学校に行っているのだ。
まったく、どうしてこんなに朝早くから学校に行かなきゃならんのだ。せめて昼前くらいからにして欲しいものである。
俺がそんなことを考えながら歩いていると、突如として肩に大きな重圧な乗っかって来た。
「なんだ彼方か」
振り返ると、俺の気分に似ても似つかないほど眩しい笑顔で彼方が俺の肩を掴んでいる。
「やぁ、悲しく1人登校かね?御影くん?」
「うるせぇ、お前もだろ」
「ふっ、残念ながら俺は彼女と待ち合わせ中なのだよ」
は?なんだこいつ
「マーライオンに食い殺されて爆発しろよ」
「流石に酷くね⁉︎あと日本語おかしいわ!」
出会って早々マウントを取ってくる彼方。
全く、これだから彼女持ちは……。人のことを見下しやがって……!さっさと爆発しとけよバーカ!バーカ!
「んで?その自慢の彼女さんはいったい何時来るんだ?」
俺は辺りを見回すが、彼方の彼女はどこにもいない。
今の時間は8時15分。ここから学校までは10分くらいなので、まだ来てないとしたら確実に遅刻である。
......まぁ、そんなことを余裕そうに言っている俺ももちろん遅刻なのだが。
「あー、あいつデートに時間通りきたことないしな。まぁ、だとしても今日は特に遅いが」
「ちなみに集合時間は?」
「7時50分」
「......終わってはいないか?」
「いや、これも遅れるのを考慮してこの時間にしてるんだぞ?いつもは8時10分くらいには来るし」
それでも20分の遅刻はやばくない?よくこいつはそんな時間待てるな。俺だったら確実に置いて行くわ。それとも、これが愛の力とでも言うのであろうか。
……いや、こいつ限定か。
「あ、彼方おはよ」
と、俺たちがそんな話をしていると、突然隣から声がした。噂をすればなんとやら、だ。
俺がそちらに目を向けるとそこには眠そうに目を擦りながら歩いてくる少女がいた。
「お、やっと来たな、
「ん、さっき起きた」
「そっか、ほら寝癖ついてるぞ」
「む、それは大変、彼方直しといて」
「はいはい」
この少女は
膝まである長い髪が特徴で、本人曰く切るのがめんどくさい、という理由だけで数年間前髪等だけ切っていたらこんなに長くなっていたらしい。身長は140センチと高校2年生にしては小さめで、彼方と並ぶとまるで兄弟である。
......本人たち曰くカップル限定の店等に行くと変な目で見られるから大変らしいが。
「あ、御影もいたんだ」
「......どちらかといえば俺の方が彼方より近くにいたが?」
「関係ない。私は彼方にむちゅー」
「……幸せそうで何よりだよ」
さて、そうして俺たちは伊吹が来たことで学校に行くことになったのだが、今急いで行ってもどうせ間に合わない、ということで歩いてゆっくり行くことになった。
俺は二人の邪魔をしないように二人の後方でスマホを突っつきながら歩く。しかし、かといって今すべきことは特にないので軽く前の会話にも耳を傾ける。
「そういや舞香。昨日夜更かしでもしたのか?いつもはこんな遅くないだろ」
「ん、昨日面白いVtuber見つけてアーカイブずっと見てたら遅くなっちゃった……。」
Vtuberか、そういえば伊吹はそういうサブカルチャー系に強いやつだった。万が一にも俺らを知ってることはないとは思うが、奏のことは知ってるかもな。
……そういえばアイツ結構有名なのだが身バレとか大丈夫なんだろうか?いや、俺が気にすることではないんだろうけど。
と、俺がそんなことを考えていると、
「なぁ御影、どうなんだ?」
「ど、どうしたいきなり?」
彼方が急に話を振ってきた。
「いやさ、舞香があるVtuberにハマったらしくてな?お前たしかVtuberとか詳しかったじゃん?知ってんのかなーって」
「いや、別に詳しいわけじゃないが……」
俺が元々知ってたのは奏とその周りのVtuberだけなのだが......。
しかし俺も伊吹がどんなVtuberにハマっているかは気になる。彼女の性格的にイケボな男性Vtuberというよりは可愛い女性Vtuberの方が好きそうだが、一体どんなVtuberを見てるのやら。
そんなことを考えながら俺は伊吹のスマホを覗いて————驚愕した。
なぜかって?
だってそこには———
「———ジンメアチャンネル⁉︎」
俺のよく知るチャンネル名が表示されていたのだから。
「知ってるの⁉︎」
驚きのあまり大声を出してしまったせいで、息吹に知っていると思われてしまった。
伊吹は趣味を共有できる、と思ったのかキラキラした目でこちらを見てくる。
「い、いや、知らないぞ?まさかジン・ノービルとメア・ホワイトなんて知らないぞ?」
「そっか……」
俺の答えに少し悲しそうに返事する伊吹に、良心が痛むが、ここで知ってると言うほど馬鹿ではない。下手にバレれば大変なことになるし、雪が俺の後輩ということを知ってる彼方には相手もすぐにバレるだろう。
「なんだよ、いきなり大声出すから知ってるかと思ったぞ」
「い、いや……、ちょっと視界の端に虫っぽあーのが見えてな」
「なるほどな。んで舞香、そのVtuberはどんなやつなんだ?」
「それはね————」
なんとか知らないことにはできたが、ピンチはまだ続く。彼方が興味を示してしまったため、この話題がまだ終わることなくそのまま続いてしまったのだ。
さて、もしここで彼方が好奇心を爆発させて流しでもしたら————。あっ、やべ。
「よし、それじゃあこれ切り抜きっぽいし見てみようぜ‼︎」
……うん、知ってた。俺も思った瞬間気づいたもん。あっ、これフラグ立てたかもなー、って。まさか本当にそうなるとは思わなかったが。
って、そんな冷静に分析して場合じゃなかった!何としても止めなければ……!
「お、おい彼方、学校遅れちゃうぞ?」
「もう遅れてるだろ」
「あ、えーと、あっと、あっ!しりとりしよう‼︎しりとり!リンゴ!」
「はぁ?お前いきなりどうしたんだよ。……まぁ、別に良いけどよ。ゴースト」
「あ、えーと、
「負けじゃねーか、何がやりたかったんだお前は」
やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎
しりとりに誘導することに必死になりすぎてしりとりの答え、昨日の晩御飯に使ったもの答えちまった‼︎
「んじゃあ流すぞ」
「あ、ちょっ、待っ———」
俺は何とか最後の足掻きで静止させようとしたが、抵抗虚しく動画再生された。動画からは二つの声が流れ、片方は明らかに俺と分かるような音声だった。
「へぇ、なるほどね、この2人がイチャイチャしてるって感じか」
「うん、すごくてぇてぇ。Vtuberにこういうジャンルなかったし、私カップルチャンネル大好きだからすごく好きになった。つい最近デビューしてもう登録者6万人」
そんな風に動画を見ながら二人は感想を言い合う。その間、俺はバレるかもしれないという緊張と、喋ったら確実にバレるという思いから黙秘を決め込んでいた。
というかお前らどこに目がついているんだ‼︎俺らはイチャイチャしてねーぞ‼︎
「面白いなこれ!」
「でしょ?私は昨日の夜SNSで流れてきてから深夜4時までアーカイブ全部見ちゃった」
わぁ、立派なメアンデルタールジンだー。
……でも、あれ?この感じ……、もしかして、もしかしてだけど……、これ気づかれてなかったり——————
「うーん、でもさちょっと気になったんだけど……、声といい喋り方といい性格といい、なんか……御影に似てね?」
「ん、確かに言われてみれば」
しないですよねー。うん、そんなことないよね、ついさっきまで聞いてた声が流れればそりゃあ気づくよねーって話で。
二人の視線が俺に集まる。やばい、今普通に喋ったら十中八九気付かれる!
くっ、こうなったら‼︎
「ソンナコトナイヨー」
「なんで裏声なんだよ」
「イヤ、イマトッバツセイノコエノビョウキニカカッチャッテ(いや、今突発性の声の病気にかかちゃって)」
「だったら尚更裏声じゃない方が良いだろ」
「ソンナコトナイヨー」
疑惑の視線が二人から俺に向けられる。俺は二人の視線から逃れるようにスイッと目をそらす。
そんな様子の俺をさらに怪しいと思ったのか鋭い眼光で睨んでくる二人。
くっ、どうすれば……。もうここまで来たら神頼みしか……!
……お願いします!お願いします!釈迦様仏様ゴータマシッダールダ様!(圧倒的仏教思想)
どうか!どうか!コーランを覚えて1日5回お祈りしますから‼︎クリスマスもバレンタインもイースターも盛大に祝いますから‼︎どうか気づかれないでください‼︎
俺は必死の思いで天に向かってお祈りをする。……なんかいろいろ混ざってる気がするが気のせいだろう。
そんなこんなで睨み続けられて数秒後———
「……まぁ、御影がこんな仲の良い女の子見たことないしな。違うか」
「ん、確かに。御影は非リア」
俺の祈りが通じたのか無事二人からの疑いは晴れたらしい。……理由はなんとも納得いかないものだったが。
くっ、自分たちがリア充だからって……!
こうして、俺は危機を乗り越えた。しかし、このままのペースで人気になればバレるのも時間の問題だろう。俺はそのために解決策として一つのメッセージを雪に送るのだった。
次の配信から俺裏声でやるわ、と。
もちろん答えはNoだった。
解せん
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神頼みのところを書いてるとき宗教的に大丈夫かな……、と不安に思いながら書いてました。不味そうなら後で編集します。
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