第17話 リグレット先立たず〜後悔って後で悔いることを言うんですよ?〜

「......じゃあ先輩、また今度......」


 私は自分の家の前まで送ってくれた先輩と目を合わせずそう言うとそのまま家に入る。


 先輩は「お、おう」と、若干キョドリながら返事をすると足早に家に帰っていった。


 いつもの私なら「あれ?先輩どうしたんですか~?もしかしてさっきのことまだ引きずってるんですか~?」とでも言って先輩をからかうところなのだが、......残念ながら今の私にそんな余裕はない。


「おかえり〜雪ちゃん。ごはんいる?」

「......いえ、友達の家で食べてきたからいいです」

「ん、分かった〜」


 家に入るとお姉ちゃんがそんなことを聞いてきたが、私は適当に返事すると二階の自室にかけこむ。そしてベッドにダイブして枕に顔をうずめると私は......、


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 全力で叫んだ。それはもうこの世の終わりなんじゃないかと思うくらいには。幸いなことに私の叫び声はショップジャ〇ンのトゥルー〇リーパー(枕)によって吸収されていき、鈍い声が部屋に反響した。......ちょっと前までいっぱいCMやってたよね。ほら、ラッコが寝っ転がってるやつ、......じゃなくて‼


「はぁ、流石に調子に乗りすぎました......」


 私は先ほどの配信のことを思い浮かべながら後悔をする。


 先輩のことをハグして胸を押し当てて......、それから嘘とはいえ告白をして......。


「う〜、恥ずか死にそうです……。いくらリスナーのリクエストとはいえやりすぎました」


 いくら何でもあそこまでやる必要はなかったし、そもそも私たちはカップルチャンネルとして売ってるわけじゃないんだし。あの女もわざとあのムーブをやっているだけで常識がないわけではない。ちゃんと頼めばその辺は配慮してくれるだろう。......多分、おそらくは。


「明日からどんな顔して先輩に会えば……」


 私は先輩と会う時のビジョンを思い浮かべるが、平常心で会える気がしない。絶対顔が赤くなってしまうし、目も見れない気がする。


「あ~~~~~~~」


 そもそもして、最初の先輩の言った”愛してる”で終わらせとけば良かったのだ。実際アレで辞めても多少の文句が出たとしても何とか切り抜けられただろう。


 今から過去に行けるとしたら私の顔を思いっきりぶん殴ってやりたいくらいだ。


「あ〜〜、私のバカー!いつも後悔するって分かってるのにどうしてやるんですかー!少しは反省しましょうよ‼︎」


 私は枕をポスポスと殴りながら叫ぶ。そして、再び枕に顔を埋めて思案に暮れる。


「明日はとりあえず先輩の家に朝から行って……、いや明日行っても喋れる気しないし明後日でも……、いやいやいや、もし私がいないことをあの女が知れば絶対先輩に会いに行くだろうし……」


 もう、何がなんだか分からなくなってきた。我ながら何時から私の脳のスペックはここまで低くなってしまったのだろうか。


 それからもしばらくいろいろと考えていたが、結局結論は出ず、私は自分で結論を出すことを諦める。


「はぁ、こういう時は……」


 私はベットから起き上がり部屋を出る。そして一階に降りると———


「お姉ちゃ〜ん、助けてくださいぃぃぃ!」


 姉に泣きついた。


 情けないことだということは私も分かっている。あれだけ先輩の前で余裕そうに見せといて姉に泣きつくのは。


 だとしても————


 私にはキャパオーバーなんです‼︎


「どうしたの、雪ちゃん?」


 突然抱きついてきた私を豊富な二つの果実で包みながら姉は優しそうに私に問いかける。


 天音夏鈴あまねかりん———私の実の姉である。おっとりとした性格、そして大きな胸が特徴で常にニコニコしている。


 ————もう一度言おう。大きな胸である!その大きさ、なんと白鳥奏を超えたさらに一つ上のG!


 大好きなお姉ちゃんへのただ一つの恨みは私の養分を全て奪って行ったことです!


 と、まぁそんなことは置いといて、私は今日会ったことを全てお姉ちゃんに打ち明ける。

 話の最初に、友達の話だけど、ってつけて。


 ……へ?意味ないって?うるさいですね!知ってますよそれくらい‼︎でも、最初にお姉ちゃんに相談した時そう言っちゃって、いくら相手が気付いているとはいえ引っ込みがつかなくなっちゃったんですよ‼︎


 まぁ、そんなお姉ちゃんの返答は……


「う〜ん、それはお姉ちゃんあんまり気にしなくても良いと思うけどな〜?」


 私の期待はずれの答えだった。


「いやそんなの無理ですよ!ハグして嘘とはいえ告白しちゃったんですよ⁉︎どうやったら気にしないなんてことできると思ってるんですか!」

「うーん、でもそれって所詮嘘でしょ?」

「……まぁ、そうですけど」

「なら、そこまで気にしなくて良いと思うよ〜?それにほら、もし相手が気にしてないで普通に話しかけてきたりして、逆にこっちだけ気にしてたらそれこそアレでしょ〜?」

「……確かに」


 なんなら先輩の場合その可能性は全然ある。普段何でもないことでキョドッたりしてる先輩だが、なんか変な所でその基準がズレてたりする。


 今回もその基準がズレてた場合、私だけ先輩と目を合わせられず、変に思われるだろう。


 ……というか、その場合私の告白を全然意識されてないってことになるわけで……。


 ……なんかムカつきますね。


 いやでも、意識されすぎると次の会話がスムーズに運ばないし……。


 う〜〜、なんか複雑な気分ですけど……、まぁ、その場合は先輩を存分にからかってあげましょう!


 これで解決……あっ、でも。


「告白の方は分かりました。でもハグは?ハグはどうしたら……?」


 そう、ハグだ。告白は嘘だから良いとしても、ハグは嘘とかそういうことじゃない。……いや、そもそもハグに嘘とかないんですけどね?


 しかし、私のそんな必死の質問にお姉ちゃんは私の顔を不思議そうに眺めながら答える。


「え?ハグくらい別に良いじゃない」

「は?そんなことないですよ!」

「だって雪ちゃん、前もハグしてたじゃない。あの後はこんな事になってなかったし別に大丈夫なんじゃない〜?」

「え?何時ですかそれ?」

「ほら、初配信の日に」

「初配信の日?そんなこと無かっ———」


 …………………


 ……いや、ありました。そういえば配信の最後にハグされました。ケーキで完全に忘れてましたけど……。


 いやでも確かにあの時はこんなことにはならなかった。ケーキで紛れたとはいえここまではなかった。


 つまり————


「雪ちゃんの思い込みね」

「…………」


 微笑ましそうに私を見ながらお姉ちゃんは言う。


 ……なんか余計に恥ずかしくなってきました。いつも通りのことを無駄に恥ずかしがって。う〜、私馬鹿みたいです……。


 しかもよく考えれば軽く冗談程度に告白も言ってたし!なおかつまぁまぁの頻度で!


「はぁ、ありがとございます」


 私は自分のバカさ加減に一つため息を吐いて、お姉ちゃんにお礼を言う。


「ふふふ、良いのよ〜?あ、でも今度その子連れてきてね?お姉ちゃん気になるし〜」

「分かりました……。いつか連れてきますよ」


 全くその気のない返事だけ返す。


 ……だって姉に好きな人見られるのって恥ずかしいじゃないですか。それは友達的な意味でも恋愛的な意味でも。


 こうして、私の悩みはなんと簡単に解決したのであった。


 御影君side


「明日からどうやってアイツに会えば良いんだ……」


 御影くん揶揄われること、確⭐︎定!




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