第43話 逆転..勇者に全てを捧げるのは当たり前...

ローアンや各国の王は遠見の鏡で様子を見ていた。


世界が終わる、この世の地獄絵を見ている..殆どの人間が絶望しかなかった。


「聖歌姫ことロザリア」率いる癒し手部隊の結界が終わる時、それが自分たちの命が終わる時だ。


だれもがそう考えていた。



だが、門の方で土煙があがった。


そして、そこには剣聖いや勇者ソードがそこには立っていた。



それを見て、希望を見出した者は..少なかった。



勇者程では無いが、英雄級の者や上級冒険者もあそこには居た。


それがなすすべも無く死んでいった。


430万人、それをこうも簡単に殺す様な敵に..ただ1人の勇者が勝てるとは思わなかった。



それでもローアンは大きく声を張り上げる。


「勇者様だ、勇者様が来てくれた」


それでも絶望は消えていかない..


だが、戦いが始まると様子が変わっていく。



帝国の王、ルビス3世は驚きを隠せない。


血狼のフォングが簡単に殺した相手を一瞬で倒し、子供扱いしていた。


あの恐ろしい魔族が、ただの無力な少女にしか見えない。


お尻を叩かれ泣いている姿はただの母親にお尻を叩かれて泣いている子供だ。



「あれが勇者か..最早人間とは思えない..」


あれと張り合おうと思っていたのか..人間の強者等、比べられるわけが無い。



「弱い勇者ばかりで、忘れていた、勇者とはああいう者を言うのだ」



当たり前だ、誰もが敵わない相手だからこそ、勇者が必要なのだ。


人が敵う相手なら勇者など必要が無い。



その事を彼らは忘れていた..


勇者が剣を振るう度に魔族が大怪我をして逃げ出していく。


ただの剣はその力に耐えきれず簡単に折れる。


だが、幾らでも変わりはある。


聖剣を使って無い..それなのに魔物は真っ二つ..魔族は次々と敗退して逃げ出す。



「オルトルよ、もし勇者と戦うとしたらどう戦う!」



「不謹慎ですぞ! マロウ殿!」


「不謹慎なのは承知の事..だが、魔族に本当に対抗できるのかそれを余は知りたいのだ..オルトル」



「はっ、どうにも出来ません!」


「それはどういう事だ!」



「今現在私の率いる暗黒魔術師団300..それを30万人に増やして、私と同等の魔術師1000人居れば..それでも無理..そうですね..あれじゃ」



鏡にはまるで玩具の様に魔族や魔物が飛んでいく姿が映っていた。


あの中の一体ですら騎士団等皆殺しにされる相手だ。


戦いにもなって無い。


ただ、剣を振るうだけで、簡単に弾き飛ばされていく。



「あれは、人では無い..そういう事だな」


「一番近いのは..」




「魔王..では無いですかな?」




「ローアン殿、それを聖職者の貴方が言うのですか?」



「今、思い出したのだ..私の祖父は勇者絶対主義でして」


「勇者絶対主義..」



「勇者とは何か? それは勇者とは魔王すらも殺せる最強の兵器なのです」



「それは」




人間がどんなに努力しても敵わぬ魔王すら殺せる兵器、だがこの兵器は心を持っている。


その心を満たす為には、人間は全てを差し出さなければならない。


王女が欲しいと言えば差し出せ、抵抗するなら裸にひん剥き勇者様の部屋に放り込めば良い..王妃であるなら王を殺しても渡せ。


大好きな王女に振られて落ち込めば、その落ち込んだ気持ち分勇者が弱くなる可能性がある、それに比べれば王女など幾らでも渡せ、王女など只の女なのだから、それに勇者は命すら掛けてこの世の天敵と戦う、その対価には些細な物なのだ。


だからこの世の全てを差し出して当たり前なのだ。


聖女に賢者も同じだ、決して平民の為に、いや王に対しても魔法など使わせてならない。


勇者という最強の武器に罅が入った時に治すのが聖女、そして勇者という武器を守るために魔法を使うのが賢者。


もし誰かを救った為に勇者の治療が遅れたら、大変な事になる..勇者にだけその能力は使えば良い



勇者達は女神様達の次に偉い、そして世界で一番強く、他の誰も敵わぬ敵から守ってくれる存在..欲しい物は何でも差し出す..それは当たり前の事。




「今思い出しまして..ソード様こそが、勇者の本質だ..あれこそが魔王すら殺せる最強の兵器..それ以外の何者でもない」



「全てを差し出せと言うのか..王である私達が?」



「逆らえるのですか? 430万を簡単に滅ぼせる相手をたった1人で戦える者に..あれは1人で一国所じゃない」



「認めるしかないだろうな、ドラゴンが蟻を助けてくれるんだ、蟻は砂糖でも何でも差し出すべきだ」



「ルビス3世殿?」



「帝国は強い男が好きだ、勇者がこの世で一番強いなら膝磨づくのも悪くは無い」



「私もそう思いますよ」



「教皇であるローアン殿までがその様な戯言を..」



「教会は女神に仕える物、その女神の使者は王より偉い、当たり前の事ですよ」



「それは建前であって..実際は、勇者は象徴みたいな物.そういう不文律があった筈だ..」



「誰が、その様な事を..あの勇者達を陥れた不穏分子たちと同じ考えなのですか? 教会から破門しましょう..」



「帝国はその様な建前は知りませんぞ」


「オルトも同じだ」



「解りました..私の勘違いだった」



「賢明ですな」





教皇や王たちがこんなに余裕があるのには理由がある。



それは遠見の鏡で、見るソードが無双しているからだ。



次々に敗走する魔族、それを見下ろす勇者ソード..最早勝敗は勇者側に傾いた。


このまま..行けばもう勇者側の勝利は固い。


そう思っていた。


既に敵は..王城ではなく全て勇者ソード側に向っていっている。


こちらには必要最低限の包囲する者しか居ない..





だが、次にローアンが鏡越しに見た光景は..




「流石に僕ちゃんも疲れた..帰る」


魔族に宣言して帰って行くソードの姿だった。


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