第37話 勇者絶対主義

「もうおしまいだ...」


城の中は絶望に染まっていた。





「女神よ..我々を見捨てられたのか!」




ローアンは見捨てられても仕方ない。


そう思っていた。


折角、女神が神託で選んだ人間に何をさせていたのか?


そう考えたら当たり前だ。


我らが信仰する女神は処女神だ、聖女に対してあの様なおぞましい事をさせた者を救おうと思うだろうか?


奇跡の存在の勇者を人工的に作ろうとした我々を救いたいと思うだろうか?



私の祖父は女神絶対主義、勇者絶対主義だった。


「良いかローアン、勇者とは絶対の存在なのじゃ、この世の全ての者は勇者に全てを差し出さなくてはならぬのじゃ」


「何故でございますか?」


「ローアンよ勇者とはどんな者だと思う?」


「はい、この世で一番勇気のある者です」




「違うぞ! 勇者とは魔王すらも殺せる最強の兵器なのじゃ」



「兵器?」



「そうじゃ! 人間がどんなに努力しても敵わぬ魔王すら殺せる兵器、だがこの兵器は心を持っておる」


「....」


「その心を満たす為には、人間は全てを差し出さなければならぬ!」


「全てでございますか?」


「そうじゃ、王女が欲しいと言えば差し出す、抵抗するなら裸にひん剥き勇者様の部屋に放り込めば良い..王妃であるなら王を殺しても渡すのじゃ」



「それは神の御心に背くのでは無いですか?」



「良いか? 大好きな王女に振られて落ち込めば、その落ち込んだ気持ち分勇者が弱くなる可能性がある、それに勇者は命すら掛けてこの世の天敵と戦うのじゃ..全てを差し出すのが正しいのじゃ」


「そうなのですか?」


「そうじゃ、聖女に賢者もそうじゃ、決して平民の為に、いや王に対しても魔法など使わせてならぬ」


「何故ですか?」


「勇者という最強の武器に罅が入った時に治すのが聖女じゃ、そして勇者という武器を守るために魔法を使うのが賢者じゃ、もし誰かを救った為に勇者の治療が遅れたら、大変な事になる..勇者にだけ使えば良い」


「それは」


「今は別に良い、だが、勇者達は女神様達の次に偉い、そして世界で一番強く、他の誰も敵う敵から守ってくれる存在..欲しい物は何でも差し出す..それは当たり前の事、それを忘れるで無いぞ」



「はい」




あの時は、ただ聴いただけだった。


だが、今この時を迎えて初めて解った。


弱い勇者ばかりで忘れていた。



彼らは、この恐ろしい敵に3人、ないし4人で何時も戦ってくれていた。


英雄でも敵わないから、女神様が勇者を遣わしてくれている。


人間が勝てるなら、そんな存在は要らない。


これほど犠牲を出しても敵わない敵をたった数人で倒す存在、それが勇者達だ。


430万の命と同等、そんな存在は居ない。


もし、それをやってのける存在が居るなら、世界中の人間は欲しがる物を全て差し出すべきなのだ。



勇者ソード様..もしこの窮地を貴方が救うのであれば、このローアンは「勇者絶対主義」を掲げ、この世の全てを差し出させます。



ローアンは女神像に祈りを捧げた。

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