第32話 約束

「はぁはぁはぁはぁ..ようやくついた」


殆ど休まずに、隣町まで走り続けた。


聖都と違いここはまだ平和だった。


街中探し回った、大通り沿いでガンダルさんを見つける事が出来た。



「はぁはぁはぁ、ガンダルさん!」


「どうしたんだ坊主! 聖都に行ったんじゃ無かったか?」


「ガンダルさん、お母さんが、お姉ちゃんが..」


「何があったんだ、急ぐ話か!」


「はい!」


「金はあるか?」


「あります!」


ガンダルは少年の様子から「急ぐ」話と判断した。


盗賊などに襲われたり、連れ去られた時は一刻を争う。


詳しい話は馬で聴けば良い。


そう考えた。


これは、通常なら正しい判断だった。


ガンダルは馬を借りに行った。


「この馬で良い、1週間借りる聖都で返す形で大丈夫か?」


「ああ構わない」


「それじゃ、支払いは坊主頼んだぞ」



「解りました」



ガンダルと一緒に少年は馬にまたがり聖都を目指した。


ガンダルはソードの推薦でB級に上がる事が決定している。


だから、ギルドを通してギルドで実績を上げても暫くはランクは上がらない。


だから、直で受ける事にした。


その方が相手の財布にも優しいだろうから...




馬上にて話を聴く事にした。


「それで坊主一体何があったんだ」


「お母さんとお姉ちゃんが殺されたんだ..だから敵討ちをして欲しい..僕じゃ勝てないんだ」



何てこった、急いできたが最初から間に合わない話だったか。


だが、相手は誰だ?


盗賊団か? 人数が多いなら対処できないな。


「それで、相手は何人なんだ?」


「一人です」


1人ならどうにかなるな、様子を見て勝てないなら逃げれば良いだけだ。


「どんな相手なんだ」


「少女です、見た目はかなり若い年齢の魔族です」



子供の魔族?


何かの間違いだろう?


魔族何て滅多にいない筈だ、だが本当に魔族ならこれはチャンスだ。


魔族は人間領には殆ど居ない。


居たとしても大人の魔族しか居ない。


1人はぐれた子供の魔族なら俺でも狩れるだろう..


「解った、引き受けよう! それで報酬だが幾ら払えるんだ」



「これでお願いします」



マジか、金貨迄入っているな。


だが、此奴にはもう親も居ない..これで良い。


俺は金貨1枚だけ取ると残りを返した。



「これで充分だ!」


弱い魔族を狩るだけだからこれでも貰い過ぎだ。



「ありがとう、おじさん」


「おじさんは辞めてくれ、お兄さんにしろ」


「解ったよ」




しかし、聖都で一体何が起こっているんだ?


子供の魔族が居たとしても聖騎士が沢山居るんだ直ぐに狩られて終わるだろう。



「なぁ、所で何で俺に助けを求めたんだ? 近くの衛兵所かギルドに行けば良かったんじゃないか?」


「それが..」


「どうしたんだ?」


「衛兵も、冒険者も皆殺しにされました、恐らく貴族街から外の人間は皆殺しにされたかも知れない..」



此奴は何を言っているんだ?


聖都だぞ! 


そう簡単に落ちるわけが無い..



「何があったんだ詳しく話してくれ!」



駄目だ、これじゃ俺の手に負える話じゃない。



「なぁ少年、それで何で俺なんだ?」


「だってお兄さんは剣聖ソードが認めた唯一の剣士、勇者達を除けば最強な筈です..だから敵を討てるのはガンダルさんしか居ません」



「弱った」かと言ってお金を貰ってしまったから遣らない訳にはいかない。


相手は子供だ置き去りにすれば良い。


いや、お金を返して断れば良い。


幸い報酬は金貨1枚、キャンセル料に金貨1枚足して2枚返せば法律的にも問題が無い。



だが、それで良いのか?


此奴は俺を頼ってきたんだ..


偽勇者のセトはどうだった?


勇者でも無いのに、人々の為に剣を振るってきたんじゃないか?


剣聖で勇者のソードはどうだ?


同じ様に剣を振るっていた筈だ。


俺はメグを諦めなければいけなかった。



この剣を貰ったからか?


金貨に推薦を貰ったからか?


違う、俺は逃げたんだ。


メグはあれで情が深い女だ、あの場で泣いて縋れば俺の方に来た可能性はある。


だが、そうした場合はどうだ?


死ぬまで、セトと比べられるんだぜ。


才能に恵まれ後ろ盾のあるセトと..


そして、何時か言われる時が来る「セトを選べば良かった」「幸せになれなかった」と。


だから、俺は逃げたんだ。



それだけじゃ無い..魔族と戦う為に命がけで戦っていた男から女を奪う最低男にもなりたくなかった。



いずれにしても「メグ」からも「セト」からも俺は逃げ出すしか無かった。



だが、そんな俺に剣聖ソード様はこれを寄こした。


これは勝手な思い込みかも知れない。


だが、「チャンス」はくれてやった...そういう風に俺はとった。


ランクも貰った、武器も高級な物になった。



その俺が逃げて良い訳が無い。



「その魔族は入口近くに居るんだよな?」


「はい」


「流石の俺も、複数の魔族は相手に出来ない、だからそいつを狩ったら、即離脱それで良いか?」


「はい、それで構いません」



「解った」



この選択が今後二人を地獄へと陥れた。




そいつは門の前で待っていた。


どう見ても綺麗な大人っぽい少女..但し体が青い事を除けば。



「あらっ本当に連れて来たのね?」



「此奴で良いんだな?」


「はい..」



ガンダルは門の外から聖都を見た。


聖都の街に人間は居ない様に見えた、その代わり魔物が闊歩している。


そこには絶望しかなかった。



「それが私を殺せる強い人なのかしら?」


「そうだ、この人こそが剣聖が認める男..」



「はぁー馬鹿みたい..もう死んじゃったじゃない!待って損したわ」



少年が見た物は首が無いガンダルだった。



「これは羽虫以下だわ、それにしても馬鹿だわ、貴方は母親とお姉さんが自分の命と引き換えに助けてくれたのに」



「ああああああっ」


「その命をこんな虫けら以下の男に掛けるなんてね、本当に馬鹿だわ..それじゃ約束は守ってね」



少女の可愛らしい笑顔、それが少年が見た最後の光景だった。




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