第29話 血狼のフォング 子供にすら勝てない
門が破られるまでそんなに時間は掛らなかった。
オーガの攻撃には耐えられたものの、小型の龍種の一撃で門は簡単に破壊された。
そればかりか、城壁迄あちこちで悲鳴をあげるように罅が入り始めた。
城壁の上からはメイジが攻撃するが数が多い為に一向に敵が減る様子が見えない。
ゴブリンがあちこちで梯子をかけ始める。
それを壊したり、登ってくるゴブリンにファイヤーボールを投げかけての攻防が始まった。
教皇になったローアンは勇者を呼ぶためにオーブを使ったが、何時もは光り輝くオーブが光らない。
魔王軍が張った結界は通信さえも遮断する物だった。
世界各国の王は教皇を含み城への籠城を決めた。
高位貴族もこぞって籠城する中、1人外に残る王が居た。
帝国の王、ルビス3世その人だ。
帝国は強者を好む国だ。
その長である自分が逃げる等もっての他、そう考えた。
「血狼のフォングよ、目障りな魔物を駆逐しろ! 相手は魔物だ何をやっても構わん」
「王よ! 本当に良いんだな! 血に飢えた俺たちは相手を殺し尽くすまでもう止まらねーぜ!」
「血狼のフォング」率いる疾風騎士団。
彼らは変わった経歴を持つ。
本来彼らは騎士等には成れない。
何故なら、その殆どが血に飢えた犯罪者なのだから。
特に隊長を務めるフォングは盗賊のリーダーの義理の息子だった。
沢山の犠牲を出し捕らえた盗賊大蛇の牙、その全ての人間の死刑が決まっていたが、フォングは命乞いをしてきた。
「俺はこの盗賊に世話になり子供の様に育てて貰った、だから助けてくれないか!」
確かに、フォングは盗賊の子供であって盗賊行為はしていない。
だからと言ってその親を許す事は出来ない、盗賊なのだから。
ただ、此処は帝国、強者は尊敬されるそんな国だった。
また、帝王は更にその中でも脳筋だった。
「ならば一か月の期間をやる、もしその間に龍種を1体狩って来たらお前の仲間の命を助けよう! 出来なければお前にも死んで貰う! どうだやるか?」
これは、諦めさせる為にいった方便であった。
だが、フォングはそれをやってのけた。
倒した龍種はポイズンドラゴン、小型ではあるが毒を持ったドラゴンだ。
こうして、フォングは命を助けられ、そのまま仕える事になった。
フォングの仲間はその時の父親も含む盗賊たち。
勿論、礼儀も何もあった物じゃない..盗賊なのだから。
だから、帝王は彼らを使う時は「相手に何をしても良い」そういう時にしか使わない。
慈悲など一切与える必要がない敵、そう言う相手にしか使わない。
疾風騎士団、またの名を残虐騎士団。
彼らは敵に対しては一切の慈悲は無い。
女であれば犯して殺す事や、気に入らない敵は四肢切断の拷問を加えて殺す事さえある。
だが、それを許される理由は、今迄殺せなかった相手が居ない事。
確実に全てを殺してきた。
今、その血に飢えた獣が野に放たれた。
彼らの裏の顔を知らない帝都の住民は歓喜の声をあげていた。
「騎士団が来てくれた」
「屈強な帝国騎士が来たんだ。これで大丈夫だ」
門を破られ中に入ってきたとはいえ、入口で衛兵がくいとめている。
だから、民衆はまだ、恐れていなかった。
ここは聖都、魔族に等蹂躙される街では無い。
安心しきっていた。
そこに、帝国の騎士団がきた、その安心感から見物する者まで現れた。
「何だ、これじゃただ殺すだけしか楽しめねぇ―な、魔族の女もいやしねぇ」
「流石に、いねえだろう? だけど殺し放題じゃないか?」
「まぁ良いや、倒していれば、何処かで出会うだろうよ」
門から入って来る相手をただ殺す。
アルガードと違い一方向に集中すれば良いから虐殺も難しくは無い。
ウルフ系の魔物とゴブリン系の魔物を狩っていたが、一向に数は減らない。
そんな中に魔族の女が歩いてきた。
「さっきから女、女煩いわね? そんなに相手にして貰いたいのかしら?」
「いい、女だな殺してしまうのが勿体ないな..だが魔族は殺す..ただその前に少し遊ばせて貰おうか?」
「へぇー貴方がね..良いわ」
「違うぜ、全員だ」
「いたいけな女に酷いのね!」
「魔族は人間じゃねえからな、お前ら全員で掛かるぞ、魔族はそう簡単に死なない、手足を切断して楽しもうぜ」
「「「「「「おおおおおおっ」」」」」」
「そう、出来るかしら?」
フォングは自信があった。
過去に何人もの魔族を殺してきた。
そしてこっちは沢山の人数が居る、万が一は無い。
しかもこの魔族の女はスタイルが良く面が良い、既に戦う事よりも、慰み者にして楽しむ事を考えていた。
風の様に戦う、それがフォングの戦闘スタイル。
このスピードには帝国の他の騎士で追いついた者は居ない。
そして、部下たちも同じように素早い。
この陣形になったら、なます切りになって死ぬ運命しかない。
ただ、今回は...直ぐに命まではとらない、そうしたら弄ぶ事が出来ない。
「この陣形からは逃げられた魔族は居ない」
「そうかしらね? 本当なのかしら!」
魔族の女は自らその陣形に突っ込んでいった。
そしてつまらなそうに手を数回振った..その瞬間、幾つかの腕と首が飛んだ。
「羽虫を潰すみたいな物ね」
魔族の女を囲んでいたうち仲間の数人は悲鳴をあげずに死んでいった。
「何が起きたんだ..」
「貴方は魔族を殺した事があるの?」
「ああ、何人もな」
「何処で?」
話を聞いた魔族は笑い出した。
「あはははははっ可笑しいの? それ魔族じゃないわよ?」
「嘘だ」
確かにあいつ等は魔族のはずだ..
「本当の魔族は魔族領から滅多に出ないのよ! 他で出会ったならそれは魔族であって魔族で無いのよ」
「何を言っているんだ」
この女が何を言っているのか俺には理解できなかった。
「もし人間の領地に魔族が居るとしたら、それは魔族領で生活出来ない程弱い魔族なのよ!..つまり弱すぎて魔族と認められない者なのよ」
淡々と話すなか、仲間が次々に殺されて行く。
「俺の名前はファング、疾風のファングだ! お前が魔族だと言うなら名前を名乗れ!」
「あたし? あたしはミルクよ」
「ふぅ、俺は此処で死ぬのか? お前の様な強者と戦って死ぬなら本望だ..」
「えっ..私の事? 私は只の子供だよ、人間で言うなら、そこで怯えて泣いている女の子と同じ」
「何だと!」
「魔族領に居る一番弱い魔族だと思うな? ワンコを殺す人間がムカつくから来ただけなのよ..まぁ淫魔の血が入っているからセクシーに見えるのかしら?」
「そんな馬鹿な」
「それじゃ死んで..」
魔族とは此処まで種族の違いがあるのか..
失意の中でフォングは死んでいった。
「エサには丁度いいわね」
ただの少女が犬にエサを与えているような光景にしか見えない。
だが、その光景に希望は一切無かった。
自分達はそのエサなのだから....
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