第21話 お買い物と素直な気持ち

セトの幸せそうな笑顔に見送られて僕ちゃん達はギルドを後にした。


これから引き継ぎをしてセトは此処のギルマスになる。


その引継ぎをセトは少しだけ後に伸ばした。


まぁ、此処まで戦い漬けの毎日だったから少しは休みたいのだろうと思っていたんだが


違っていた。



「もう最後だから、お前達と過ごそうと思ってな」


それもいいかも知れない。


2日間位は此処にいるし、場合によっては更に数日位なら問題は無いと思う。


戦いが始まる前には出て行けば良い。


「そうだね僕ちゃん達には少し休む時間が必要だね」


「そうだな」



「私は余り休日という物を楽しんだ事はありません..」


「そう言えば私も研究ばっかりで無かったな(今世はね)」



「無理をしないで好きな事を自由にすれば良いだけだよ」



今日はこれでセトとは一旦お別れ。



何故か、ルシオラとユシーラはセトに金貨を渡して何かを頼んでいた。



メグとの時間を取り戻す(笑)時間が必要だろう。


絶対、僕ちゃんは明日「昨夜はお愉しみでしたね」って言ってやる。




「それじゃどうする? 二人がやりたい事があるなら付き合うよ?」


「やりたい事ですか? 困りました、私は聖女たれと言われていたので楽しみ方が解りません」


「私は本が見たいな、最もこんな所の本屋に欲しい物は無いと思うけど」



リアスの街には本屋は1件しか無く見てみたが、ユシーラの目に叶う本は無かった。



2人とも他は見たい物がないらしい、困った。


仕方なくブラブラと街を歩いた。


僕ちゃんは昔なら武器屋だが、聖剣がある今、行く必要は無い。


二人の聖なる武器は破壊したが、教会とアカデミーが聖なる武器以外では最高の物を用意しているので必要ない。


そう考えると僕ちゃんの頭では、洋服屋と宝石屋しか思いつかない。


2人を連れて洋服屋に行った。


「あの当店は高級店に御座います、お買い求めは難しと思いますよ? 古着屋なら」


うん、舐められた。


確かに僕ちゃんは服に無頓着、ルシオラは聖女だったから質素、ユシーラは僕以上に無頓着だ。


確かに見た目からお金があるようには見えない。



無視して話した。


「ルシオラはどんな服が欲しいかな? ユシーラは?」


「私はこういうのは不得手でして、ソードが好みの物で良いです」


「私も任せるよ! ほら本来研究者だから、苦手だから」



「そんな事言うと結構セクシーな服にしちゃうよ? 下着だって知らないよ?」


「わわ、私は生涯ずっとソードにお世話になるのですから構いません、不本意ですが良いですよ」


「私も良いわ! この後、沢山お世話になるから良いよ」



「あのお話を聴いていましたか? 当店は高級店でして」


「あのさ、僕ちゃんがこの店で買えないなら誰が買うの?」


「当店は、大商人、貴族の方でも子爵様や伯爵様までもが買う一流のお店です、貴方じゃ無理でしょう?」


「それじゃ高級な物で幾ら位」


「そうですね金貨2枚位しますよ? 諦めがつきましたか?」


これで諦めがついたでしょう。


「それなら、金貨100枚あげるから僕たち三人に10枚ずつ作って、彼女達に似合う様に可愛らしくて綺麗な服、それでいてセクシーで清楚な感じで、あと下着も上質な物でお願いするよ」


「はぁ冗談はよして下さい..怒りますよ」


流石に頭に来たから勇者の身分証を出した。


「僕ちゃんは勇者ソード、この支払は各国の王が払う、さらに僕ちゃんの地位は教皇より上なんだけど? なんでお前は伯爵や子爵より下に見るんだ?」


顔色が見る見る青くなっていく。


「ゆゆゆ勇者様..お許し下さい」


「良いよ..ただ罰として明日までに30着を用意してさっきの条件の物をね..僕ちゃん達は戦づくだから、今みたいに思われてしまう、だからそう見られない服をお願い」


「そんな明日まで何て無理です」


「あのさぁ、僕ちゃんの知り合いにルビス3世っていう人がいるんだけど知っている?」


「はい皇帝様ですよね、知っております」


「頼んだ軍服を期日に間に合わせなかった服屋がいてさぁ、どうなったと思う?」


「どうなったのでしょうか?」


「家族事死刑だって」



「ひぃ」


「貴方は僕ちゃんにこの店は一流だと言ったよね? 聖都や帝都のお店なら王様に頼まれたらこれ以上の注文も受けるんだ、出来ないじゃ済まさない」



「明日のお昼までお時間を下さい、必ずや仕上げます」


「良く言った、それなら約束通りに仕上げてきたらルビス3世やローアンにも良い店だって紹介してあげるね、あと会議の時に着て行って貴族や王族に聞かれたら、この店で作ったと紹介してあげるよ」



これは凄い話だ、絶対に失敗は出来ない、お金の問題じゃない、成功すれば本当の一流店だ、それこそ王都や帝都、聖都に進出できる。


だけど失敗したら、全部無くす。


そう言う事だ、今から作り始めて、この街の職人全てに頼めばどうにかなる。


やるしかない。


「それではこれから採寸します」


凄いスピードで採寸していった。


ルシオラやユシーラは目を丸くしていた。


よく考えてみたら、僕ちゃん達は急ぎの旅だったから服は古着ばっかりだった。


もしかしたら二人とも採寸は初めてかも知れない。


折角なので今展示してある服で三人が着られそうな服を見繕ってもらって簡単に寸法を直して貰って着替えた。


「綺麗だ」


それしか僕ちゃんには言えなかった。


古着や質素な服を着ていても綺麗なんだから、その彼女達が綺麗な服を着ていたら綺麗なのは当たり前だ。


「そう?ソードにとってそう見えるならこういう服も良いかも!」


「そう、少しは身だしなみも気をつけるわ」


2人とも顔が少し赤くなった気がする。


以前の旅ではこんな顔をした二人を見た事が無い。


セトも含んで全員死んだ顔をしていた。


これからは、彼女達には何時でもこういう顔をしていて貰いたい、そう思った。




「あの、ソード貴金属店に行く前にちょっと話を聞いてくれますか?」


ルシオラが真剣な顔をしていた、悲しそうにも見える。


断る理由は無い、重要そうな話なので近くにカフェがあったので入った。


店員に聞いたら別料金で商人が使う個室があり、空きがあったのでそこを借りた。



部屋に入ってからルシオラは黙ってしまって話さない。


ユシーラも黙ってしまった。



暫く待つとようやくルシオラは話し始めた。



「私の両親は小さい頃に死んでしまって、教会で育ったの!」


黙って聞く事にした。


「だから、自由が無くて外の世界の事は何も知らなかった、そんな私がようやくシスターになり少しだけ自由が貰えるそういう矢先に聖女になってしまったのよ....私にとっては本音で言うなら、貧乏くじだと思ったわ、ようやく自由が手に入る、そう言う時に聖女? これからの時間を束縛されて死ぬ運命に変わってしまったのよ..」


頷くしか無かった。



「それだけなら、まだしも聖女なのに、本当は聖なる女なのに、魔王に勝てない聖女だからって教会はもう一つ私に命じたの、さっきのが人としての人生の終わりなら、今度のは女としての人生の終わり、本当に笑っちゃうわよね..だけど、世界の為だと言われて教会しか行き場のない私は断る事が出来なかったの! その時は私まだ、本当に人を好きになるそういう事も解らなかったのよ、だから凄く悲しくて、寂しくて、辛くても我慢できた、自分を愛してない男にお願いして、自分も愛してない男に抱いて貰うのよ! 最低だよね」


僕には何も返せなかった。



「私が知っている世界に男は2人しか居ない、貴方とセトだけなのよ! それで私はね貴方にあって気づいてしまったのよ! 私が好きなのはソード貴方の方だって、だから、貴方が私の手を斬り落とした時につけ込んだのよ、責任取りなさいって、本当は私の命を助けるためにしてくれたのに、最低だよね、散々貴方の親友に毎日の様に抱かれていて、そんな資格私にはないのにさぁ..こんな汚れてしまった体なのに..」



「もう、私は聖女でも無い、只の回復魔法が使える女、そして貴方の親友に抱かれていた女、気持ち悪いでしょう..だから捨てても良いよ」


《そしたら、死ねるもの》



「あのさぁ、僕ちゃんの事をルシオラは好きだって事で良いんだよね? だったら別れる気はないよ! だって約束したよね!思い出して」



「何の事?」



《私は教会にしか居場所が無いのよ、今の私が教会に帰れるわけ無いでしょう? 乙女の手まで奪ったんですから責任とってよね?》


《ううっ解った》



「あれはルシオラだから言った事だよ、もし他の人だったら解ったって言えなかったと思う、僕はあの時からルシオラの手になろうと思っていたんだ、手は死ぬまで絶対に離れない物だよね..それに僕ちゃんはルシオラの為に教皇まで斬っちゃったから..」


「今、何と言ったの?」


「あれはルシオラだから」


「違うわ、教皇様を私の為に斬っちゃったって言わなかった?」


「言ったよ! 魔族と通じているだけなら国外追放でも良かった筈じゃない!だけどルシオラに酷い事をした元締めが教皇だと解っていたから裁判送りじゃなくて殺しちゃった」


「そうなんだ、ソードはこんな私の為に..そんな事までしてくれていたんだね..」


「ルシオラが汚れているって言うなら、僕ちゃんの手だって血で汚れているよ! 教皇にアカデミーの総括に盗賊、剣聖の僕ちゃんは血で汚れている、ルシオラ達と違って人間も殺すのが剣聖だから」


「ソードは汚れていないわ」


「なら、ルシオラも汚れてなんていないよ! もし汚れたってシャワー浴びたら綺麗になる、それで良いんじゃない?」


「ソードはそれで良いのね?」


「うん」


「ありがとう..ソード、本当にありがとう!」




「あー、ちなみに、ルシオラの心はずうっと、ソードだけの物だったわ! だってセトに抱かれている時もソード、ソードって言っていた位だからね、あとセトは、メグ、メグって見ていて気持ち悪かったわ」



「ちょっとユシーラ 」


「まぁソードが気にしないなら、ずっとルシオラの心はソードの物だった! それで終わりで良いんじゃない!」


「はぁ、そうね...」




「それで、今度は私の番ね、私はルシオラみたいに最後まではしていないけど、精液の採取はしていた、だけど私は研究家だから気にはならない、だって研究の為に豚や牛、場合によってはオークやオーガの精液まで使うんだから..だけど、男は気にするんじゃないかな」



個人的には、ルシオラと違ってセトが被害者に聞こえてしまうのは何でだろう? オークやオーガと同じ、可哀想だ。



「そういう仕事だって考えるなら気にならないよ、だって僕ちゃんは剣聖、さっきも話したけど人殺しが半分仕事なんだから」


「そう言って貰えると思ったわ、だったら私も気にならない! 私もソードが好き、二つの意味で好き!」


「二つの意味で?」


「そう、一つはルシオラと同じ意味、男性としてね、もう一つは母親みたいな気持ちで何故か好きなのよ!」


「母親?何で?僕ちゃんが子供? 何で年下なのに?」


「それは解らない..だけどそう言う事ね!」



今思えば、思い当たる節がある。


やたら僕ちゃんを膝枕したり、頭を撫でたりしていた、こういう意味だったんだ。



「ユシーラって変な性癖があったのね」


「ルシオラ、これは性癖じゃない、愛よ ちゃちゃ入れないで、それで、ソードは孤児だったんでしょう、だから私はお母さんを兼ねるわ、良いわよね」



「チビで胸無しなのに?」


「ルシオラ、覚えてなさい」



「良いよ、だけど僕ちゃんは家族を知らないから、お母さんって解らない、それで良いなら良いよ」


「充分だわ」



「僕にとって大切な人は世界に4人しか居ない、そしてその中の2人はルシオラにユーシラだよ! 自分の命より大切なんだ、余り恥ずかしいから言いたくないけどね」



解っているわよ..それじゃなくちゃあんな事しない。


うん知っているよ。



だけどさぁ、だけどさぁ..


だけど




《未亡人は要らないわよ》


《未亡人要らない》



「「ありがとう」」


「どういたしまして」



三人は初めて素直になれた気がした。





僕ちゃんは仲間の為なら「世界なんて」幾ら犠牲にしても良い..本当にそう思えた。

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