第18話 戦わないで済んだ

僕ちゃんたちはリアスに向って旅立つ。


パレードや見送りは遠慮して貰った。


だって、僕ちゃん以外は、偽物扱いなんだから嫌がらせがあるかも知れない。


だから、こっそりとした旅立ちだ。



門を出て暫く歩くと森が広がっている。


《物凄い数の魔族や魔物が居る、こっち側にこれ程居るという事は、確実に聖都を攻めるんだろうな》



「どうしたのよ? ソード何か勘づいたの?」


「何か感知したのか?」


「魔法要る?」



「魔法は要らないよ、ただ考え事してただけだよ!気にしないで!」



そのままやり過ごした。



《お払い箱の勇者様~田舎の街に逃げ帰り、魔族相手に戦わないで イチャコラとー》



ワザとおちゃらけた歌を歌った。


恐らく、あの森の魔族が聴いたら、流した噂と重ねて、勇者がお払い箱になった。


そう考えてくれるかも知れない。


準備はあるとはいえ、僕ちゃんは怪我なんてしたくないのだ。



結果は..見逃されたようだ。


これで、用意したポーションも使わないで済むし、誰も傷つかない。


良かった。



「ソード! 今の歌は俺の事だよな?」


セトに頭を小突かれた。


「うん、セトそれで良いんだよ? 僕ちゃんとセトは親友だろう!」


「そうだな、うんそうだ」



「私の歌は無いの?」


「わたしのはありますか?」



「無いよ? だってルシオラもユシーラも怒らせたら怖いからね」


「別に怖くないわよ」


「わたしだっていきなり殴ったりしませんよ」



「それじゃ、今度考えておくよ」



この三人は僕と違って凄いお人よしだ。


多分、聖都がこれから襲われると知ったら、必ず戻ろうという筈だ。


だから、気がつかれない様にやり過ごさした。


もし、戦う事になっても魔族が来た方向に向かうように誘導するつもりだった。



魔族もまだ包囲網を完成させる前なのかも知れない。


だったら、此処で知られない方が良いと判断したのか戦闘に成らなかった。



お払い箱になった勇者より、自分達を襲ってくる者の方を優先したのかも知れない。




僕ちゃんの第三ラウンドはこれで無くなった。


ポーションは無駄になったけど腐らないから良いや。


どのタイミングで戦いが始まるかは解らない..どのみち早くここを離れた方が良いだろう。


リアスにセトを送り届けてた後、リアスを離れて連絡がつかない場所で過ごす。


森でも迷宮でも構わない。


そうすれば結果は出ているだろう。


【IFの世界】 ダラダラと生きて行こう (短編で終わらした場合のエンディングでした)もう関係ありませんが

無事セレモニーは終わった。


だが、その後の会食等の行事は中止となった。


それは僕ちゃんが辞退した事もあるが、大きく変わった魔王軍との戦いについて練り直す必要があるからだろう。


勇者になってしまった僕ちゃんも出席を促されたが、辞退した。


「教皇と総括が魔族と通じていました、だからそちらの粛清を終わらせてから私が加わった方が良い」


そう僕ちゃんは伝えた。


これで、「愛し子」「人工勇者」の話に加わった者は、無罪の罪だが教皇の仲間として粛清されるだろう。


ローアンとしても反勢力の教皇派を粛清するチャンスがあるのだ殺さない訳はないだろう。


宗教者はお金には汚く無いが、権力と名声には汚いからな。


もう既に吟遊詩人に、僕ちゃんとの出会いの歌を作らせている。


「運命に導かれ、真の勇者と出会った」だって嘘じゃん。


そして、僕は時間がたっぷりあるので元のパーティーのメンバーと話している。



「ごめんなさい」


僕ちゃんは謝る事にした。


事情は事情だけど、片腕を全員から奪ってしまったのだから。




「気にする必要は無いぞ! 此処までしなければ多分俺はまだ戦い続けさせられただろうからな!」


「見抜かれてたのかな!」


「ああ、聖剣が壊された後だが、あそこからお前が俺を攻撃する理由はこれしかないな、俺もお前を追放で無く片腕を斬り落とせば..遅いな、俺はこれで良い、まさかお前に助けて貰えると思わなかった、そしてすまない、お前達はまだ死の運命から逃れられないのに俺だけが」


「うん、平和に暮らせるね、大体可愛い女の子とイチャイチャしていたのに苦しい顔をしているなんて僕ちゃんは気にくわない、書類もあるんだからさっさと行っちゃえよ! まぁ可哀想だから、リアスの街まで送っていくよ、これがセトと過ごす最後の時間だからね」


「俺の方こそすまないな!」


「謝る事は別に無いよ? 僕ちゃんは剣聖で勇者だからセトと違って いつかは魔王を倒すからね」


「お前なら出来るさ」


《馬鹿だな、それでも勝てないのはお前が一番知っているんだろう!》




「私は責任をとって貰えれば良いわ!」


「ルシオラ、さっきも言っていたけど、責任って僕ちゃんは何をすれば良いのかな?」


「私は手が使えないし、本物の聖女なのに偽物にされたかたら教会には居場所が無くなってしまいました!だから死ぬまで面倒みて下さいね!」


「死ぬまで..」


「当然でしょう? 私食事も旨く食べれないのよ? しかも住む場所にも困りそうだからね..その代わりちゃんと面倒見てくれるなら、お返し位はするわ!」


「お返しって何?」


「余伽..馬鹿じゃないの? お返しはお返しよ!」


「まぁ良いやルシオラと一緒に居るのは苦痛じゃないし楽しそうだからね」


「そう? 楽しそうね、うんそうかもね」




「私もルシオラと同じで良いわ、似たような物だからね」


「そう? だけど研究はしなくて良いの?」


「どの口が言うの? 片手が無くちゃ薬品も併せられないわ、少し落ち着いたらソードに助手をして貰うわ」


「それで良いの?」


「それで良い」




「ただ、2人とも僕ちゃんと一緒に居るという事は魔王と戦うという運命が待っているんだよ? そこには当然死もあるんだ」


「ソードばかりに押し付けられないって」


「そうだわ」



「俺だけすまないな」



「セトは気にしないで良いよ!本当に僕ちゃんにとって大切なのは此処にいる3人とルビナスさん位しか居ないからね」


「お前、今そんな事言うと、ほら」



「破廉恥ですわ、あの未亡人がそんなに良いのですか? へぇーそんなに!」


「未亡人でロリ、あれは可笑しい」



「あのさぁ..二人とも幼い子って言って無かった?」



「知らないわ」


「私も知らない」


これは確実に知っていたな..まぁ良いけどさ。



「まぁ良いや、だけど僕ちゃんにとっては大切なのは4人しか居ない、そう考えたら案外魔王との戦いも楽だよ」


「俺も加えてくれているんだな?」



「まぁ僕ちゃん変わり者だから、男の友達はセトしか居ないからさぁ」


「そうか、ソードは変わっているからな!」


「勇者なのに友達が居ないセトに言われたくないな」





ローアンとルビス3世に、肩慣らしでセトをリアスの街まで送っていく話はしてある。


「ゆっくりされたら如何ですか?」


「そうですぞ、ここ暫くイレギュラーばかりお疲れでしょう?」



「うん、だから半分は旅みたいな物だよ、ルシオラもユシーラも片手だから何処まで戦えるか様子を見たいんだ、それにセトとはもうお別れだしね!あれでも友人だからさぁ」



「偽物に勿体ない、ですが、それなら良いでしょう? 気分転換と連携の練習をしたい、そう言った事ですな」


「その通りです」


「まぁ、勇者様は本来は王や教皇より既に上です、「やる」そう言えば良いだけです」



「ありがとう、それじゃ3か月程出てくるよ、その頃にはこの騒ぎを治めて置いて下さいね?」


「「任せて下さい」」


教皇と統括が死んだんだ、正常に戻るまで1か月位は掛るだろう..そこから、まぁ良いや。




セトを送って行ったら、一度、聖都に戻ってから旅に出かけよう。


「魔王討伐」という名目の楽しい旅。


僕ちゃんより強いのは魔王だけ、そして魔王は滅多な事が無い限り魔王城からは出て来ない。


ならば、魔王城に近づかなければ良い。


ダラダラと楽しく旅を続けながら魔族を倒していく。


国がお金を出してくれるから、一番良いホテルに泊まって、見たい物を見て、ルシオラやユシーラには欲しがる物を全部買ってあげよう。


あそこ迄の事をさせていたんだから、それも良いだろう?


とりあえずは、リアスでダラダラしよう、肉料理が美味しいというから食べて温泉に浸かろう。


それが終わったら、北の大地にでも向かおうかな。


あそこは四天王最弱のルーダルが居る。


四天王討伐という名目なら誰も文句は言わない。


あそこは海に近いから魚が美味い。


適当に弱い魔族を倒しながらダラダラと人生を楽しめば良い、お金なら各国が全部出してくれる。


僕ちゃん気が付いたよ!


魔王は居るから僕ちゃん達は価値がある。


なら、魔王を出来るだけ倒さないでいた方が楽しい時間が続くんだ。


世界が僕ちゃん達に死を押し付けるなら、僕ちゃん達も他の人の事なんか考えなくても良い。


何人死のうが何万人死のうが気にしなくて良い..


義務として魔族を倒していれば良いんじゃないかな?


沢山楽しい時間を過ごして、満足したら魔王に戦いを挑もう。


勝てないようであれば、人が滅多に来ない魔族領の近くで暮らせば良い。


もう無理をする必要は無い。


これからの人生は「魔王討伐」ではなく「自分達が楽しむ」時間を過ごす。



「それじゃ行こうか?」


「そうね」


「うん」


「そうだな」


ダラダラと楽しい人生は続く。



FIN

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