第15話 VS 勇者 クライマックス

黒龍の鱗のうち小さい物を2枚貰った。


聖剣ですら傷がつかない鱗だから、体に晒しで巻き付ける位しか出来ない。


けど前と後ろに巻き付ければ、強力な一撃も防げる。




冒険者カードには沢山のお金がある。


これで街に戻って、教会で良質のポーションを買えば準備OKだ。




教会に来た。


ローアン大司教は顔色が悪い。


そうだ..


「ローアン大司教、良かったら聖都まで旅行に行くと良いですよ」


「剣聖様、それは一体どういう事でしょうか?」


「運が良ければ教皇に成れるかも知れないよ」


「それは何かあるのでしょうか?」


「今は言えないけど、チャンスはあるよ? 信じるかどうかはローアン次第さぁ、じゃぁね」



そのまま、ポーションを大量に買い込み、僕ちゃんは聖都に向った。



聖国ユーラシア。


文字通り、女神を信仰する国で王では無く教皇が治める国。


魔王討伐の際はこの国の判断が優先される。


此処に、勇者達は一回赴き、教皇に挨拶をしてそれから正式に魔王討伐の旅にでる。


今迄が未熟な勇者が己を鍛える期間だとすれば、この儀式の後は一人前の勇者として扱われる。


世界中の国や重鎮が集まる、恐らくは世界で1番重要な儀式と言える。



ソードが言った


「僕より偉いのは 神、勇者、聖女、賢者、そして教皇、王様だけだよ?」これは正しい。


だが、この儀式の前ならまだ勇者達の序列は教皇や王様よりは下になる。


剣聖の位は、三大ジョブとは違うが、魔族と戦う重要なジョブ、そしてソードは実績もあるから、大国の公爵以上王未満。


そんな扱いだ。


だから、何処でも基本顔パスで入れる。




ふぅ、勇者達より早く着く事が出来て良かったよ、遅れたらと思ったら僕ちゃん焦っちゃった。



到着したのは、勇者達が到着する僅か前だった。


急いで僕ちゃんは、聖都の大広場に向った。


小規模なら王城で行うが世界中から人が集まる為、民衆が見れるように此処で行うのが通例だ。


問題は起きるのか?


まず起きない、此処で問題を起こせば、重罪になるからだ。


勿論、一般人は此処まで来れない。


此処に居られるのは上位貴族だけだ。


僕ちゃんは顔を隠しながら此処に来た。


普通に考えて怪しいが、注意を受けたら顔を見せる..それだけで問題は無かった。


「剣聖様ですか」


多分、僕ちゃんが追い出された事を知っているのか、複雑そうな顔をするだけだった。



壇上には既に 教皇やアカデミーの統括、幾つかの国の国王が待っている。


そこにゆっくりと、セト達、勇者パーティー銀嶺の翼の面々が現れた。


三人はゆっくりと壇上へ歩いて行く。



「教皇様や王お待ちください!」


「何奴だ! このセレモニーを妨げるとは..何、剣聖ソードだと!」


帝国の皇帝ルビス3世が声を荒げた。



セトをはじめ、ルシオラにユシーラは驚いた顔でこちらを見ていた。


だが、流石に此処で声を出す訳にはいかず、立ち止まった。




僕ちゃんは黙っていた。


聴かれるまでは、相手は王達だ声を出せない、さっきの一言も重大な違反だ。


それは勇者達も同じ、「まだ教皇や王より身分は下だ」



「何があったのか知りませんが、セレモニーを止めて迄の事発言を許します」


この場で一番偉い、教皇が許可を出した。



「感謝致します、私はそこの勇者パーティーを追放された時に違和感を覚えたのです! 魔王と戦うには優秀な前衛が必要な筈、それが何故追放なのか?」


「それは素行の悪さと聴いていますよ?違うのですか?」


「違います、これは大きな陰謀だったのです! 教会、アカデミーの上層部迄が魔族とグルになり、偽の勇者パーティーを仕立て上げたのです」


「それは..にわかに信じられません、何か証拠はありますか? もし、無いのであれば如何に剣聖でも死罪は免れませんよ!」


「あります、それを証明する前に、彼らの弁明を、偽の勇者パーティーは悪くありません、恐らくは教会、アカデミー関係者から洗脳を受けた可能性もあります、その事は頭に置いて下さい」


「解りました、ならば、早速、証明してみせて下さい..出来なければ..」


「はい、勇者パーティー全員対私で決闘をします、本物の勇者パーティーなら遅れをとる事はありません、勿論、聖剣や聖なる武具を使って構いません! その状態でただの剣聖に勝てないならそれは偽物です」


「成程、聖剣の加護や聖なる武器の加護を受けた状態の勇者パーティーなら万に一つも無いでしょう..確かに証になります、認めましょう..但し違っていたら」


「死を持って償います! 私の見立てでは聖剣すら偽物の可能性もあります」



セト達は驚きを隠せないでいる。


《ソード、お前は馬鹿なのか? せっかく命を助けたので自分から捨てるのかよ!》


《私がどんな思いで送り出したか貴方は知らないのでしょうね、貴方が生きる事が私が唯一残せる生きた証だったのに》


《何で戻ってくるの? 生き残るチャンスなのに、人の気持ちを》



「勇者パーティ銀嶺の翼よ、信じてはいますよ! ですが、剣聖であるソードが命を懸けての訴えです、聴かない訳にはいきません、今直ぐ立ち会いなさい」




「ソード、そこ迄腐ったか、今直ぐ成敗してくれる!」


《人の気持ちも知らないで》



「本当、貴方って最低だわ!」


《貴方には生きて欲しかったの、だけどこれじゃ...恩赦で死刑だけはさせないわ》


「馬鹿..」


《はぁ..どうしようか? 死刑になんてさせられないわ》




「僕ちゃんに恐れを抱いているのか? さっさと掛かって来て」



「本当に馬鹿につける薬は無いな..命だけは助けてやる」


セトは疾風の様に斬り込んできた。



やっぱり遅い。


剣だけじゃ無く、力その物が僕ちゃんには及ばない。


簡単に躱せる。




「聖剣が力を貸した勇者の一撃を剣聖が交わしたぞ」


「そんな訳あるか? あれは小手調べだ」




「大口叩くだけあるなソード! 行くぞ」




「それなら、僕ちゃんはそろそろ、偽の聖剣の破壊を行うとします」



僕ちゃんは「斬鉄斬」を放った。


これは技術でも剣その物が上回っていなければ成功しない。


セトの聖剣は真っ二つに折れた。


だが、これでは終われない、そのまま勇者の右腕を斬り落とした。


「うわあああああああっ」


《ごめん》


悲鳴を聞きながら、そのままルシオラに接近して聖なる杖を叩き切り、そのまま右手を切断。


「きゃあああああああああっ私の右手が」


《ごめん》


そしてユシーラの破魔の杖も切断しそのまま左手を切断した。


「手が無い..痛いの」


《ごめん》


これしか皆を助ける方法は無かった、僕ちゃんは死ぬ程考えたんだ。


聖剣を壊しても、セトはSSS級で他の2人はS級冒険者だから、この薄汚い奴らに利用されてしまう。


それを終わらせるには「能力を落とすしか方法が無かった」これならA級位だ替えがいる状態になる筈だ。


痛い思いさせてごめんね..


僕ちゃんは君達が大好きだ、だから、「これは一緒に死んでくれ」そう言ってくれなかった僕ちゃんの復讐。


君達は僕ちゃんにそれを言わなかった、だから僕ちゃんと一緒には死なせてあげない。


僕ちゃんは三人の切断した手を放り投げると聖剣で細切れにした。


《手を奪ってごめんね..だけど死の運命や嫌な運命は終わらせてあげたよ》




「素晴らしい、ソード! これでそこの銀嶺が偽物なのは解りました、それで本物の勇者達は何処に!」




《此処からが第二ラウンドだ》


「多分、死んでこの世に居ません、だからこそ、次の勇者には私が選ばれました」


「成程、あの偽の聖剣を折ったのは本物の聖剣だったからですね..ソード、いやソード様を勇者として認めましょう」



「有難うございます」


《勇者パーティーが偽物だった、ここで彼を取り込まないと立場がなくなります、更にあの戦力が人々には必要です》



「それで銀嶺の翼ですが」


ふざけるなよ、治療位直ぐにしてやれよ。



「即刻、死刑にします」


「教皇、勘違いしないで下さい! 彼らは洗脳されて利用されただけです、直ぐに手当てをお願いします! それに私と一緒に勇者の様に戦ったのです! 処罰でなく褒美が必要だと思いますが如何でしょうか?」


「褒美ですか..それが勇者様のお気持ちなら、それで何を与えれば良いのでしょうか?」



「そうですね、帝国の外れにリアスの街があります、セトはそこのギルマスにしたいと思うのですが、ルビス3世如何でしょうか?」


「勇者、ソード様の意向ならお聞きします」


「それじゃ、それで」



どうやらちゃんと治療して貰えたみたいだな。



「セト、僕ちゃんの慈悲でギルマスにしてやったぞ!小物のお前にはふさわしいだろう! ちょっと耳貸して」


「お前は」


《そこで、メグちゃんは冒険者をしているってよ! まぁ彼氏が居たり結婚してても僕ちゃんは知らないけどね》



「うぬぼれないでね! 適材適所って言葉知っているよね? セトにはギルマス位がお似合いだよ!」


「剣聖様、いや勇者ソード様、感謝します」



だけど、ソード、お前は死んじゃうじゃないか?




「勇者ソード様、謝礼を頂けるんですか?」


「まぁ、それなりに役に立ったからね、ルシオラは何か望む物はありますか」


「私は、ソード様にこのまま仕えたいです!」


「それじゃ意味が..」


「ソード様、ちょっと耳貸して下さい」


《私は教会にしか居場所が無いのよ、今の私が教会に帰れるわけ無いでしょう? 乙女の手まで奪ったんですから責任とってよね?》


《ううっ解った》


「教皇、本物の聖女は居ないからルシオラを引き取っても構いませんか?」


「教会的には、そんな者より優秀な者を用意したい所ですが、勇者様がそれで良いなら、それで構いません」




「ユシーラは何かありますか?」


「私もルシオラと一緒、このままソード様に仕えたい」


「それは褒美にはならない」


「耳貸して」


《私もアカデミーに席がなくなる、行き場のない私を見捨てるの? この手じゃ研究もできない》


《本当に良いのかな》


《当然》


「アカデミー的には問題ありませんか?」


「特に問題は無いが、勇者様の方こそ良いのでしょうか? 望むなら優秀な者に変えますよ!」


「それなら貰い受けます」




「色々ありましたが、まだ時間はあります、今日を逃すと儀式が」



「まだ、終わりじゃありません」


「勇者様、何があると言うのですか?」


「まだ、教会とアカデミーの魔族の内通者を罰していません」


「何と、勇者様にはその内通者が解るのですか?」



「ああ解るよ、お前だよ教皇!」


僕は、聖剣で教皇の首を跳ねた。


そして、その足でアカデミー総括の首を跳ねた。



皇帝ルビス3世が声をあげた。



「勇者様一体何をするのだ、乱心したか!」




「違います! 先程言いましたよ? 内通者がいるって」


「確かに」


「聖剣のすげ替え、勇者達の入れ替え、そんな物が出来る人間は上層部の人間しか居ないでしょう!」


「それが2人なのですか?」



本当は違う、僕が彼らを殺したのはゲスな人間だからだ。


「愛し子」「人工勇者」 死を決して戦う女の子..ただでさえ幸せを捨てている女の子の尊厳を踏みにじった。


こんなゲスな事をやらせる人間が僕ちゃんは許せなかった。


「ローアン大司教」


「勇者様?」


「貴方の話では、偽の聖女が優秀だと解ると、その聖なる力を奪う為に恐ろしい計画を練っていた..そういう話でしたよね」


《「愛し子」の話を聖女の「聖なる」を抜き出して解釈したのですね..これがチャンス、そういう事でしょうか》


「はい女性相手に本当におぞましい話でした」



「これは本当に非道な話なので、此処では口に出しません、ですがその件に関わった者は全て責任を取らして下さい、ローアン大司教お願い致します」


「はい、アカデミーにも話して必ずや対処させて頂きます」



ローアン大司教は教会のナンバー2だ、これで教皇になる筈だ。


「愛し子」に関わった人間は教皇派だから喜んで粛清するだろう、アカデミーにも顔が聞くからそちらもどうにかするだろう。



結局、儀式は一番の大国、帝国の皇帝ルビス3世が行った。


セトもルシオラもユシーラも「勇者達」では無いから壇上には上がらず僕ちゃんだけが上がった。


こうして長かった僕ちゃんの戦いはひとまず終わった。


救えたのはセトだけ..二人とも何を考えているんだよ。


僕ちゃんの好意を...



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