第5話  【閑話】 無様でも良い お前は生きろ! (勇者セトサイド)

これで彼奴は生きる事が出来る。


これで良い..


恥辱にまみれようと生きている方が良い。



俺の名前はセト、勇者だ。


だが、実質は無惨な死が確定している、棺桶に片足突っ込んでいる男。


恐らく世界で一番怯えている男。


それが俺だ。



俺はクンドルム王国の伯爵家の四男に生まれた。


貴族の次男以降は、長男のスペアだ。


長男が死んだ場合以外は基本必要とされない。


長男のカインは疫病になる事は特に無く無事成人した。


次男のアベルは寄り子である騎士爵の家に養子入りが決まった。


そして三男のミールはカインの副官になった。


これは当人の希望によるものだ。


俺は四男、何も貰えない代わり自由がある。


ミールの様に学問が得意でなく体を動かす事の好きな俺は「冒険者」になる道を選んだ。


政略結婚の話も特になく、自由ににして良いと許可を貰った俺は、同じく冒険者を目指すメグと付き合っていた。


成人したら一緒にパーティーを組み、ゆくゆくは結婚を考えていたが..



「セト様、貴方は女神様の啓示で勇者に選ばれました」


女神の啓示で俺は勇者になってしまった。


聖剣を手にしたら光り輝いた、間違いないな。



父上や母上も表向きは喜んでいたが、実際は違う。


俺の事を心配している。


特に母上は泣いていた。


今の魔王は歴代最強と言われている。


20年前に戦った勇者をあっさり殺して、その首を晒しものにした。


しかも、それから更に強くなっていると聞く。



そう、この旅はただ死ぬだけの旅になる。


簡単に言えば、絶対に勝てない相手に女神と人類の意地で戦う..それだけだ。



勇者に選ばれた俺はメグと別れなくてはならなかった。


「勇者様になったんじゃしょうがないね..」


彼女は泣いていた。


別れの事で泣いていたんじゃない、俺が死んでしまう未来を考えて泣いてくれたんだ。



こうして、死での旅立ちに俺は行く事になった。


行く先々で「勇者様万歳」と歓迎を受けたが俺には「私達の為に死んでください」そうとしか聞こえなかった。


1人が3人になった頃。


聖女のルシオラとも良く話した。


彼女は教会で育ったから外の事は知らない女だった。


聖女のジョブを授からなければシスターとして一生を終える人間だった。


話を聞けば彼女も捨て石..そう言う事を解っていたようだった。


簡単に言えば「愛し子を産んで、その後は魔王と戦って死ね」..それが彼女の使命だった。



今回のパーティーは魔王には絶対に勝てない。


だから、負けた後の希望として「勇者と聖女の子供、愛し子 という神に愛された子」という名目の子供を作り、次の勇者が決まるまでの希望にするのが教会の方針らしい。


実際は勇者も聖女も遺伝はしない。


「絶望時代の希望の神輿になる人間を作れ」そう言う事だ。



彼女は教会で育ったせいか男を知らないし、興味も薄い。


だから、男女の営みも作業的な物だ。


俺は残念な事に本当の男女の営みを知っている。


メグとしていた物とは別物だ。


こんな「子供が必要だから仕方なくしている物」とは絶対に違う。


ルシオラも良く


「義務を果たして子供を作って、万が一魔王に勝てたら、ちゃんとした女の生き方がしたいわ」


そう言っていたから多分同じだ。


つまり、これはお互い只の義務だ。





賢者のユシーラは俺たちの中で唯一戦う意思があった。


「私達が勝てないのは解っています、だからアカデミーでは人工勇者を考えています」


「何だ、それは」


「勇者のホルムニクスを量産出来れば..そう考えています」


「それは実現できるのか?」


「無理ですね..でも未来に希望は繋ぎたいのです!」


此処にも愛はない。


あっても俺はまだメグに気持ちがあるから困る。


結果、精液を搾取してアカデミーに送る。


その手伝いをした。


勿論一線は超えていない。


彼女にあるのは幼い頃に殺された家族の復讐..それだけだ。



俺のパーティーをハーレムパーティー何て呼ぶが..中身はこれだ。


誰も想像がつかないだろう。




この三人に後から剣聖のソードが入ってきた。


暫く、様子を三人で見ていた。


「僕ちゃん」と気持ち悪く話すがなかなか良い奴だった。


だから、虐めて抜けさせる、そう決めた。


ルシオラもユシーラも同じ意見だった。



「剣聖」は強いジョブだが三大ジョブと違う。


過去に勇者と一緒に戦っただけで、絶対に必要ではない。



「嫌いな奴なら一緒に死ね、良い奴なら逃がしたい」最初からそう思っていた。


だが、剣聖を辞めさせるには理由が必要だ。



その一つが「俺たち三人に嫌われる」だ。


三人に嫌われ連携の妨げになる、大きな理由になるだろう。



ソードには一切手柄を与えない、そうして悪口を周りの人間に吹き込む。


勇者パーティーに相応しくない、そういう評価も必要だ。



お金に困っているのも知っていた。


素材さえ敢えて与えない。


そんな生活をさせれば逃げ出すだろう。


逃げ出せば、「捨て置けば良い」。


その後に「逃げ出すような奴は俺のパーティーに要らない、追う必要も無い」


そう言えば、終わりだ。



お前には実力がある、此処でどれだけマイナスを背負っても実力で取り返せる。


だが、命は取り返せない。


お前は最後まで逃げなかったな。



だから濡れ衣を着せる事にした。


お金の流れも女と合意だという事は解っていた。


だが、知らない事にした。


ルシオラもユシーラも協力してくれた。



ソードお前がどう思っているかは俺は知らない。


だが、俺にとってお前は弟のような唯一の男友達なんだ。


だから、恨まれても、嫌われても良い..お前には生きていて欲しい、そう思ったんだ。


魔剣を残したままならお前は追ってくるかも知れない..だからお前の宝物の魔剣も取り上げた。


俺はお前を死の運命から逃がしてやる。


無様で、罵倒され情けない人生がお前の再スタートかも知れない。


だが、死ぬよりは良いだろう?


これからお前は自由に生きて、愛する女を見つけて結婚するんだな..


俺が出来なかった楽しい人生の中で...生きろ。



じゃあな..親友 ソード。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る