第94話 伝説の真実①
獣王ライズムニタル様に呼ばれ僕は
「今回の件、誠に助かった。俺が話した奴隷組織もゴリフラード商会が主に取り仕切っていたようだ。そして生贄問題も解決した。そなたらは感謝しかない」
ゴリフラード商会のトップは自殺してしまったけど奴隷組織と生贄問題の解決で獣王ライズムニタル様の信頼を得ることに成功したようだ。
「そして魔王復活の際は全力で俺たちも協力しよう。歴代の獣王たちの名に誓って」
と約束してくれた。
これにて新人研修のミッションは無事完了した。ゼルニシティ王国に帰って獣王様から協力してくれるとの約束を取り付けましたと報告すればそれで終わりになる話だ。
けれども、この件には実は裏があると僕は思った。もやもやした原因は初めからあったのだ。例えば生贄の件だ。ウサギの魔物がでてきてウサギを退治したなら伝承の通りだったんだ。ウサギの怨念が原因で呪いだったんだと話の筋は通る。
でも、実際に生贄の現場にきたのは人間だった。獣人族の子供を奴隷にして売りさばいていたならば、それは何者かの手が加わっている証拠ということだ。
誰か伝説を利用した奴がいる。それは誰で何のためなのか?
「ちょっと長い話になりそうなんですけど、僕が発言をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
と僕は発言の許可を獣王に求める。
「おう、構わぬが何かあるのか?」
「この獣人の国の伝説と今回の事件の核心です」
と僕は獣王に話した。
「ふむ、面白いな。この事件にまだ何があるというんだ? 話してみるがよい」
「ありがとうございます」と僕は獣王にお辞儀をして話しだす。
「まず、狐族が存在しないことを証明するのは不可能です。でも現在の獣人の国に狐族がいると報告されたことはない。けれども知恵の狐族と伝説には残っている。であれば伝説の当時に実在していたのは間違いない。狐族は何者かに絶滅させられたと考えるのが自然でしょう」
僕はまず大前提を話す。
「けれども狐族を絶滅させた者は狐族がいたこと自体を消したかった。存在していないことにしたかったんです」
「伝説に残る狐族か? 狐族が存在したことに何か問題があったのか?」
と獣王は問う。僕は続ける。
「狐族を絶滅させた人物には問題だったんです。けれども、狐族が存在した伝説は獣人族の全てに伝わってしまった。そいつは狐族が実在した事実を消すことができなかった。だから仕方なく時間をかけて少しずつ改変したんです」
僕は宝物庫で見つけた巻物を見ながら本当の伝説の内容をみんなに話す。
「本来の伝説はこうだった。『知恵の狐族が考え作り出した数多のアイテムは旅をする獣人族の長の3匹を何度も助けた。獣人族の長の3匹は狐族に感謝した。そして狐族を信頼した』」
「『そして最後の火山の火口のマグマを防ぐアイテムすら狐族は用意していた』とこの巻物は語ります。本来ならば感謝されるべきだったのはウサギ族ではなく狐族だったんです」
一人一人の目を見ながら僕は話を続ける。
「ウサギ族が命を犠牲にしたということはなかった。マグマの中に飛び込み死んだと思われたウサギ族も、実は無事に黒い珠を手に入れていた。みんなが無事に獣王の試練をクリアした。けれども、この伝説を改変し悲劇を演出した奴がいる」
「なんでそんなことをする必要があったんですの?」
とシャルリエーテ様がもっともな疑問を呟く。
「そいつが狐族のアイテムを恐れたというのもあると思います。だから狐族のアイテムが悪用されればいずれ世界を滅ぼす良くないものだ。試練を楽々クリアするほどの脅威的な力を持つアイテムを恐れるように誘導した。狐族のアイテムを見て、恐れを感じるようにみんなを信じ込ませたものがいた」
「そんなことをする奴のメリットってなんなんだ?」
とカガリ先輩も疑問を
「自分の思い通りに獣人の国が動くように信頼を得るためです。そして狐族への不信を
「そこまで伝説を大きく改変できる方法ってあるのかしら?」
とシリス先輩は不思議そうに話をする。
「もう本当に根本的なことなんですけど、今の獣人族のみんなが知っている伝説は
「「「あっ!」」」
とシャルリエーテ様、カガリ先輩、そしてシリス先輩はみんな伝説を改変できた理由に気付いたようだ。
「ウサギ族の伝説の物語は獣人族の文字で残されいない。残されていたとしても読める者がほとんどいないんです。交易都市ミッシュザルダントのギルド嬢が教えてくれたように文字を読めない、書けないものが圧倒的に多い獣人族の泣き所をついたんです」
僕はみんなの様子をみて頷く。
「全ての獣人族は言い伝えとして覚え、語り継いでいった。けれども、記憶はあいまいになり時の流れとともに消えていく。そこにつけ込んで口伝を少しずつ変えていった奴がいた」
「そんなところが盲点になるなんて」
とシリス先輩も驚きながらも頷く。僕は
「でも情の厚い獣人族は知恵の狐族のことを忘れなかった。みんなから忘れ去られた時が死んだ時だと、獣人族はかたくなに信じているからです」
と僕は獣人族の想いを話す。獣王は
「そうだ、俺たち獣人族はみんなそう信じている。だから覚えていることこそが死んだ同胞への
そして獣人族の若者は
「俺たちのような若輩者は狐族がどんな部族だったか知らない。けれど俺たちは同胞を忘れない」
と頷いた。
「だからこそ獣人族であることを誇りに生きる俺たちの記憶の中で、狐族は共に生きている。俺たち獣人族はみんなそう信じている」
と猫族の父親も話す。
「だからそいつは狐族は存在しないとどれだけ時間が経とうとも言えなかった。狐族の絶滅を知り、けれども記憶の中で生きていると信じる獣人族に強硬に狐族は存在してないと主張しても、今度は逆にそいつ自身が本当に獣人族なのか? と疑われるから。だから狐族の存在自体をなかったことにできなかった」
「「「死んだとしても絶滅したとしても同胞は俺たちの誇りだ!」」」
と僕の話の後に獣人族のみんなは口をそろえてそう言った。
「獣人族であることの誇り、そして絶滅しても自分たちの記憶の中で知恵の狐族は生き続けていると信じる獣人族たち、そんな獣人族の優しさと信念にそいつは負けたんですよ」
と話した僕はそいつを
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