第95話 伝説の真実②

 僕はそいつを見据えて話を続ける。


「だから伝説を改変した奴は、悲劇を演出しウサギ族を特別に扱うように仕立て上げた。そしてみんなの信頼を集め、旅人有利な判決で自分の息のかかった手下を助けられるように画策した……獣人の国でそんなことができたのはあなたしかいない。ですよね? 生き字引のウサギ、全てを操っていた真犯人さん?」


「……ん?」


と、自分のことを言われてると気付かない様子の生き字引のウサギ。


 獣王も生き字引のウサギをかばう。


「長年、俺たち獣人族を導いてくれたお方ですぞ? そのような無礼な発言、オリタルト殿でも許せなくなる。今なら間に合う。俺たちも一度信じたオリタルト殿とことを荒立てたくはない故、発言を撤回して頂けないか?」


 証拠を見せないと、このウサギはしらを切ろうとするのかと思った。だから僕は獣王に一礼して話をする許可をもらうべく発言する。


「獣王様のお気遣いも承知しております。あと少し僕のお話にお付き合いください」


 それを聞いた獣王は僕に覚悟を問う。


「そこまで言うなら仕方ないが、ぎぬだった場合はそれなりの対処が必要になる。それでもいいのか?」

 

 僕は拳を握りしめ、獣王様を見て


「承知しました。その時は罰を受けましょう」


と静かにうなずき話を続ける。


「そしてもう一つ、狐族にはみんなに知られてはいけない秘密があったんです。それは狐族の死した皮をつなぎ合わせ自らにまとえば狐族の知恵とその犠牲の命の分だけ寿命をさずかるというものです」


 生き字引のウサギはそれを聞いても素知らぬ顔をしている。その態度を見て、僕は心の中で渦巻く怒りを抑えつけウサギをにらみ拳を握る。


「だから狐狩りを絶対にさせないために、獣人の国では狐の皮装備は禁忌とし呪われるとされてきたんです。けれども、この狐族の秘密がみんなに知れ渡れば寿命が長すぎることから、実は狐族を絶滅させたのはあなたではないか? とみんなから疑われ正体がバレる可能性がでてくる。だから狐族の存在を消し秘密を闇に葬り去りたかったんです。」


 周囲も警戒し、目の前のウサギにも僕は警戒を怠らない。


「僕がたまたま見てしまった鎧の下に隠した狐色した皮装備が致命傷です。ゴリフラード商会に乗り込んだ時に見ただけではすぐに点と点はつながらなかった」


 僕はゴリフラード商会を襲撃した時を思い浮かべ話を続ける。


「僕から攻撃を受けて、狐の皮装備を落とし、身体に異変がでた時に慌てながらあなたが言った言葉は『これは火牡鹿の皮装備じゃからね。色は似てるけど全く別物だから禁忌の対象じゃぁないんじゃよ』だった」


「はて? そんなことがあったかね?」


とウサギは記憶にないと疑問の声をあげてきた。


「ありました。ここにいる娘を生贄にされかけた父親は、僕があなたの覆面をぎ取った時、『獣人族の生き字引のウサギ様だ』と発言しています。そしてあなたはその発言を聞いても反論しなかった。そして僕は無駄に色々な街で様々な装備品を見てきました。だから分かったんです。火牡鹿の皮はんですよ。狐色とは全く違う」


 交易都市ミッシュザルダントでひつこく装備品をあれこれ勧めてきた店員さんに、僕はこっそり心の中で感謝する。


「知恵のアイテムがない時のあなたは黙っているべきだった。『きじも鳴かずば撃たれまい』まさにこれに尽きたんですよ。狐の皮装備を落としてアイテムの恩恵を受けられず、死への恐怖に耐えられなかったあなたの負けです。ごまかそうとしてもだめですよ?」


と人差し指を振って僕はこのウサギに「チェックメイトです」と告げダメ押しする。


「ついでにいうならあなたはゴリフラード商会を壊滅させて事件を終わりにしたかった。ゴリフラード商会を潰したのもトカゲの尻尾斬りと変わらない」


「そんな馬鹿な」


と獣王はそう言ってウサギを二度見する。


「僕たちに早く獣人の国からいなくなってほしかった。だから僕たちに『奴隷の商売を始めたのはトップが最近変わってからじゃよ』なんて、ゴッドフラード商会に乗り込むの理由を与え助言をして協力したふりをしたんです」


「あれはオリタルトさんたちに協力したんじゃなかったのか」


と、娘を生贄にされかけた猫族の父親は言葉に出して驚くけど、それでも半信半疑のようだ。


「そして『証拠があれば』という僕の発言を聞いて、どさくさに紛れてゴリフラード商会に全ての罪をなすりつけるため、生贄と奴隷の帳簿の証拠を残すため、あの場にあなたはいたんです」


 僕はウサギを問い詰める。


「以上を踏まえた上で、その鎧の下に隠した狐の皮装備、外せるものなら外してもらいましょうか。それができるなら僕の間違いでしたと謝りましょう。いかがですか?」


 そしてみんなの注目を集める中、このウサギは


「クハハハッ! 短期間でよくもここまで調べあげたもんだね。なかなかに分かっているじゃないか」


 その憎しみに染まった目と、耳まで裂けた口をニタッと開きわらいだす。それを見てもみんなは、まだ信じられないという顔をしている。一番信頼していたはずの生き字引のウサギが諸悪の根源だったのだ。


「この国へお前が来るという話を聞いた時点で警戒していたが、こうも裏をかかれるとはね」


と言ってコイツはウサギの化けの皮を自らいで真の姿を現した。


「あたしゃ四天王、風のゴルダバ―ナさね。長い時の流れを生きてきた。あんたみたいな小僧にバレるとは思ってなかったがね」


 ゴルダバ―ナは綺麗な女性だった。この世の美を集めたかのような魔性の女。黒いドレス姿に映える白い肌。ストレートな長い黒髪、黒い瞳にツンととがった綺麗な鼻。美しいけれど耳まで裂けた口を広げてわらう姿は恐ろしい。


 ゴルダバ―ナは「こんな小僧に見破られるとはなぁ」と腹を抱えて愉快そうに嗤いだす。


「あなたはどれだけの狐族を殺したんだ?」


と拳を堅く握りしめ、僕は静かに問う。


「お前は今まで殺したの数を覚えているのかい? ハエでもいいさね。殺した害虫をいちいち数えて懺悔ざんげするほど暇なのかい? まぁでも、狐らしく良い皮は持っていたさね。寿命を延ばせるのに、何を我慢する必要があるんだい? ヒッヒッヒ」


とニタッと三日月のように長い口を開いて、ゴルダバ―ナは愉快そうに嗤ったのだった。

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