第81話 シリス先輩からのお誘い②
「王国騎士団に体験入団?」
と僕は
「ええ、どうかなって思ったんだけど」
「え――っと僕はまだ魔法学校の生徒で在籍してるんですけど、そこは大丈夫なんです?」
「それは大丈夫。王国の新しい試みで試験的にやってみようって話になってるから。ただホントにできたばかりの制度だから実験台になってもらっちゃう感じになってしまうのが心苦しいんだけどね」
「なるほど」
と言って僕は考える。学費は国からの報奨金があるから問題ないとしても、このまま留年が続くのは大丈夫なのかなぁと思った。試験的に導入予定なら何とかなる可能性もあるのかなと気になったので
「僕はシリス先輩の仕事現場を見てみたいなって気はあるんですけど、このままだと留年が続いてしまって、いつ卒業できるか分からなくなっちゃいそうなんですけどそこら辺はなんとかなります?」
と聞いてみたところ
「そこは大丈夫。王国騎士団の団長と校長先生が話をして交渉済みよ。オリタルト君が了承してくれれば、その旨、学校側から話があると思うわ」
「そこまで話が進んでるんですか!?」
「ええ、だから団長からお願いしてきてくれって言われちゃってね。私もオリタルト君に王国騎士団に来て欲しいって気持ちもあったから誘いに来たのよね」
その気持ちは正直言って嬉しい。けれども、即答するには悩ましい案件なのは間違いない。母さんに相談せずに決めるのも、ちょっと戸惑われた。
「ちょっと母さんとも相談するのでお時間いただけませんか?」
「もちろん。じっくり考えてみて。お願い!」
とシリス先輩に手を合わせ上目遣いで真剣にお願いされて、このお話を僕はどうしたものかなぁと悩むのだった。
◇
一人で悩んでも仕方ないので、報奨金をもらって最近ウキウキしている母さんに聞いてみた。
「僕が王国騎士団に入ったらどう思う?」
「安定収入。老後も年金があっていいんじゃない?」
「僕が冒険者になったらどう思う?」
「
母さんはポジティブだった。そう言われて悩む僕をみて「でもね」と付け加えるように母さんは言った。
「何をしたいか? を考えなさい。王国騎士団に入って何をしたいのか? 冒険者になって何をしたいのか? 大事なのは目的であって手段じゃないのよ? 目的が達成できるなら手段なんてなんでもいいのよ。でも悪いことはしないでね? オリタルトは悪いことなんてしないわよね~」
と鼻歌を歌いながら食器を洗っている母さん。
「だからお金を稼ぎたいのか? 名誉を得たいのか? 地位を得たいのか? 今言ったのとはまったく違ってもいいの。オリタルトが一番したいことは何のか? だいじなのはそこよ」
と、食器を鼻歌歌いながら洗っている母さんから真面目な忠告を頂いた。
何をしたいか? 母さんに冒険者になって楽をさせたいと思っていた目標もノルレンゴースを倒した報奨金としてまとまったお金を授かった。
今の現状だと、したいことはなくなってしまったと、そう思った。魔滅の御印の噂から逃れたくて、冒険者になりたいという気になったんだと改めて考えると僕は何をしたいんだろうかと悩んだ。
とはいえ、特にしたいこともないんだから社会経験として王国騎士団を見に行くのもありかもしれないと思った。
「母さん、ちょっと僕は王国騎士団に体験入団してくるよ」
「いいと思うわよ。私はオリタルトが悪いことをするのでなければ応援する。悪いことをしそうになったら全力で止める。私にできることなんてそれくらいしかないし、四天王を2人も倒した息子をもって私は鼻が高いわよ?」
なんて自慢げに微笑みながら言ってくれる母さんに感謝する。
悩んでも迷っても一度やると決めたら、あとは実行あるのみだ。迷わないで突き進む。壁にぶち当たったら、その時に改めて考えるくらいで丁度いい!
翌日シリス先輩に王国騎士団に体験入団したい旨を手紙にて連絡した。
◇
その数日後、サンジェルバ先生から魔法学校で呼び出しを受けた。僕はすぐにサンジェルバ先生に会いに行った。
「おぉ。オリタルト君、来たかい。忙しいのにすまないね」
とサンジェルバ先生は書類作業を中断して話をしてくれた。
「王国騎士団の団長から君を王国騎士団に体験入団させたいって話があってね。それをオリタルト君が了承したって話を校長先生から聞いたからちょっと話をと思ってね」
「はい。せっかくなので王国騎士団の仕事をみておくのもいい経験になるかなと思いまして」
「そうだね。実際問題として四天王を2人倒した事実は大きい。警備隊が束になって敵わなかった相手をオリタルト君たちは国王陛下の目の前で倒してみせた」
サンジェルバ先生はお茶を飲みながら
「長い間、利用されてなかった特別奨学生っていう制度があってね。学校に在籍だけしていれば3年経ったら自動的に卒業とすることができるっていう制度。今回は王国騎士団に体験入団とはいえ、働いているのだからそれが単位となる。もちろん学費等は免除。奨学生だからね」
とサンジェルバ先生は安心しなさいと微笑む。
「第二王女様の護衛をお願いした件もあったね。依頼元は内密でお願いしたいんだけど、実は国王陛下でね。だから特別に2年生の単位も免除となっている。だからオリタルト君もシャルリエーテ君も2年生から無事に3年生となる。王国騎士団に体験入団すれば自動的に卒業だ。心残りがあるとしたら私が無詠唱の研究をできなかったくらいのものだね」
とちょっぴり残念そうに笑うサンジェルバ先生だった。
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