第4章 獣人の国編

第80話 シリス先輩からのお誘い①

 大々的な式典を開いてもらい、四天王のノルレンゴースを倒した報酬に頂いたのは愛着のある魔剣カラドボルグ。これは王家の秘宝みたいなものだし、いざ売るとなったら天井知らず、一生遊んで暮らせるだろう。


 そして金貨200枚。金貨1枚がだいたい前世の10万円の目安となる上に物価は前世よりはるかに安い。しかも平民は金貨をみることはほとんどない。そう考えたら贅沢をしなければ死ぬまで生きていけるかな? という金額だった。


 ノルレンゴースを倒しゼルニシティ王国へ帰って来た時には、カガリ先輩とシリス先輩に見送ってもらって旅立った日からもう1年が過ぎていた。


 長いようで短い旅だったなと思っていた。


 そんなある日、魔法学校から帰ってくるとシリス先輩から手紙が来ていた。なんだろうか? と思い封をあけて内容を見てみた。


 『オリタルト君へ

 お元気ですか? 四天王ノルレンゴースを倒したとのお話を聞きました。王国騎士団でもその話題でもちきりです。もし都合があえば会ってお話できませんか? 少し相談したいこともあるので』

 

 との内容だった。こ、これは……デートのお誘い!? 気合いを入れておめかしするべき!? とはいえ相談ってなんだろう? 


 一人で勝手に暴走している思考を止めて考える。落ち着いて考えれば相談がメインだろう。僕にできることであれば力になりたいと思ったので魔法学校のお休みの予定と相談にのる旨の返信をだしておいた。


 返事の手紙もきて「誰からの手紙なの? 可愛い文字じゃない」とニヤニヤしている母さんから冷やかしが入るけどそこはスルーして僕は手紙を確認。


 最終的な予定はシリス先輩も休日の10時にゼルニシティ王国の公園で待ち合わせとなった。僕はおしゃれはよく分からないので洋服店に行って店員さんの言われるがままに服を買い、この日に備えた。


 時間よりかなり早めかなと思ったのだけどシリス先輩は既に来ていて待っていてくれた。


 「ごめんなさい。シリス先輩がもう来てるなんて思ってなくて。お待たせしちゃいました?」


「ううん。全然。今、来たところよ。それより今日はごめんね。急に呼び出して。今日はお姉さんに色々任せなさい!」


 なんて言ってトンと胸を叩いて微笑んでいた。1年くらい会えなかったけど、綺麗になって元気そうにしているシリス先輩をみて僕は嬉しくなった。


「服、似合ってますね。さすがシリス先輩ですね!」


「ふふ――ん。オリタルト君も服のセンスいいと思うよ? ポイント高いとお姉さんは思うわね!」


と言われ、洋服店の店員さんに心の中で無茶苦茶感謝したのはいうまでもない。


 せっかくなので街中を歩き、色々なお店を冷やかす。そして僕なら絶対に一人で来ないであろう甘味処へ入店する。


 シリス先輩は慣れているのか「こっちこっち~」とにこやかに僕を呼んでくれる。「はいはい。ただいま~」とその声に応える。


「もう、店員さんじゃないんだから。もっと気楽にっ」


 なんてシリス先輩はフォローしてくれた。冗談ぽい突っ込みも新鮮だなんて思いながら、とりあえず僕はメニューを見て紅茶を頼み、シリス先輩はお菓子とハーブティーを頼んだようだ。


 店内はざわついていて、みんな自分たちの会話に夢中になっているようだ。そんな中、シリス先輩がお菓子をパクつきながら


「旅はどんな感じだったの?」


と聞かれた。僕は「そうですね」と旅を思い出しながら話をした。


「見るもの全てが初めてのものが多くて旅は良いですよね! でもゴブリンの集落ができていたのであらかた倒したと思って油断していたら、ゴブリンメイジに混乱の魔法で操られてしまって危うく負けるところでした」


と話したらシリス先輩は「よく全滅しなかったね」とびっくりしていた。


「混乱の魔法は本当に危険なのよ? 強い人がかかればかかるほど全滅の危険性が高くなるから。オリタルト君がかかって生きてるって割と奇跡よね」


と真面目な顔をして心配された。


「強い護衛さんがいてくれましたのでなんとかなりました」


 たはは~なんて言いながら話をしていた。


「あとはそうですね。旅の保存食は味気なかったですけど、街や村の食事処はおいしかったし、魔物のお肉も村によって味つけが違っておいしいんですよ」


「味つけか~。それは試し甲斐があるわね。でも基本的には旅を楽しめたみたいでよかったわね!」


 とシリス先輩は微笑んだ。そこまで話して、ふとシリス先輩はこの1年どうだったんだろうと思い話を振ってみた。


「私はみんなの回復役に努めてたかな。みんなを死なせないように全力で回復してたわよ? 討伐隊に加わって実戦も経験したしね。エルバラン魔法学校の武闘派集団の面々は王国騎士団、直伝の地獄の猛特訓でしごかれてたけどね。でも周りの同期と比べたら楽々こなしてた方だと思うわよ。王国騎士団の先輩方にはさすがに敵わなかったけど、そこは仕方ないとお姉さんも思うわね!」


とニコニコしながら話してくれるシリス先輩につられて僕も笑顔がでる。


「おお――、やっぱりシリス先輩も先輩方も頑張ってたんですね。僕の自主訓練にも真面目に参加してくれてましたからね。そういう話を聞くと僕も嬉しいです!」


僕も調子に乗って色々と話す。


「最近は大型の魔物が増えているみたいなんですよね。その魔物を片っ端から倒して旅をしてました。」


「あ、やっぱりオリタルト君も魔物に遭遇した? 私たちの方も討伐依頼がひっきりなしに入るようになったのよね」


とのこと。やっぱり魔物が活性化してるのかなぁと思った。ちょっと僕は飲み物で喉をうるおして


「シリス先輩の方でもですか? 最近、大型の魔物が増えた。最近、畑を頻繁に荒らされるようになった。最近、近くに魔物が集落を作ったので退治してほしい。最近天候がおかしい。大雨のせいで土砂崩れがおきた……これだけ最近という名の偶然が重なったら、それは割と必然なんじゃないかって思って調べたら黒い泉を見つけたんですよね」


「そういうことだったのね。なんで黒い泉を見つけられたのかも私たちの間ではかなり注目されてたのよ。そういう理屈だったのね」


「ですです。そういう偶然の重なりをおかしいと思って調べてみたんです。気のせいならそれでいいと思ってたんですけど実際は違ったというお話でした」


とそこまで聞いて、黙って真剣に考え込んでしまうシリス先輩。


 するとちょっとシリス先輩はちょっとたたずまいをなおして


「オリタルト君……実は相談なんだけど、王国騎士団に体験入団してみない?」


と真剣な顔をして話をするのだった。

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