第75話 黒い泉の沸くところ悪魔舞い降る②

 迷っていても時間は平等に過ぎていく。早くもならず遅くもならずだ。同じ早さで時を刻み続ける。時間は、時に優しく時に残酷だ。


 何かだいじなものを失ったとき、それを癒してくれるのは時間の優しさだ。けれども、それ以上に何かをなしたい時に待ってくれないのは時間の残酷さだ。


 だから僕は考える。それは全て後悔しないためだ。時間の許す限り考える。まだタイムリミットは来ていない。慌てるなと自分に言い聞かせて考える。


 だからゼルニシティ王国の援軍が来るまで動かず待った方がいい。それはみんな同じ意見だった。


 そのため黒い泉付近で、黒い泉を監視するのにちょうど良さそうなところを見つけた僕たちは、そこでキャンプし訓練していた。


 僕はたいした武器を持っていない。だから何か武器を貸してもらえないか聞いてみた。


「それなら、これなんてどう?」


と言って渡されたのは一振りの片手剣だった。


「綺麗な剣ですけど、こんな高そうなのを僕に渡して大丈夫なんです?」


「命がかかってるから大丈夫よ。私が借りている王家の秘宝の一つだけど、死んだらなんの価値もなくなるんだから。生きてるうちに思う存分、使いなさい」


「ほんとにいいんですか? 銘とかってあるんです?」


「カラドボルグっていう由緒正しき名剣よ。今回の戦い生き残ったらオリタルト君の報酬にしてって、私からお願いしておくから大事に使いなさい」

 

 手にしたカラドボルグを見つめ「これからよろしく頼むよ」と僕はこっそりつぶやいた。


 その後、僕たちは森の魔物と戦ったときに作ってた罠を黒い泉を囲むように張り巡らした。何かあれば罠が教えてくれる。


 何かが起きるまで、僕たちはナルメシアさんに稽古をつけてもらっていた。それはサーラ様も一緒だ。


 僕たちに何かあった場合はサーラ様だって逃げなきゃいけない。生き延びる可能性を少しでも上げないといけない。王女様だしこの国の未来がかかってる。


 ゼルニシティ王国から援軍が来るとしても、僕たちがここまで来た時間を考えるとまだまだ時間がかかる。


 悪魔が舞いりるのもまだまだ時間がかかると、僕はそう思いたい。



 訓練は2ヶ月以上に及んだ。僕としてはありがたい話だ。ナルメシアさんは苦手と言っていたにもかかわらず、僕たちに教えてくれているんだから。


 『ナルメシアさんは世界最強の暗殺者だよ』と誰かに言われても僕はそんなに驚かない。そうだねって答えるだけだ。


 エルバラン魔法学校のサイアーノル校長はさらにすごいとナルメシアさん自身が言うんだから世界は広い。


 上には上がいる。この当たり前の事実は強くなりたいという僕の想いを加速させる。どこの世界だってそうだと思う。僕も強くなりたい。前世の過去の経験が僕にそう思わせる。


 何もできなかったから。ただいるだけの存在だったから。それが変えられるならその時、僕は何ができるんだろうか? と思う自分もいる。


 そのためには準備がいる。時間が必要だ。とはいえ、わずかだけど時間は与えられている。でも確実にタイムリミットは迫っている。


 ゼルニシティ王国の援軍が速いか悪魔が舞い降りるのが速いか。そんなことに想いを巡らせていた。


 その時、不意に獲物が罠にかかった合図がした。僕たちは全員で罠の音のするところに駆けつける。その罠にかかっていたのはジャイアントボアだった。僕は、ほっと安心してジャイアントボアに一撃を食らわせて仕留める。


 そのジャイアントボアの血抜きをして今日の夕食はどんな味つけにしようかなと考えるのだった。


 夕食の片付け後、僕は食後の休憩中だ。のんびり考えごとをしながら、横になった状態で魔力操作の訓練を続けている。


 また罠が鳴った。今日は罠にかかる魔物が多いなぁって思っていた。明日の朝食はジャイアントボアの肉の残りと何になるんだろうか? と考えていた。


 みんな食後の休憩中だ。思い思いに色んな事をしている。罠にかかった魔物は今までどれだけいたか分からない。最初は緊張していたけれど、2ヶ月以上も魔物以外はかかってなかった。僕はみんなに


「ああ。罠は僕が見てきますよ。みんな好きにしててください。明日のご飯はなんだろうなぁ」


「そう? じゃぁ、任せるわね。何かあったら呼んでね」


「はいな~」


ということで、僕は一人で罠の確認に行った。


 そして罠にかかった敵を確認する。そこには僕らのいつもの食事になる魔物ではなく、黒い悪魔が舞い降りていたのだった。

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