第76話 四天王、火のノルレンゴース①
黒い泉に黒い敵を確認した僕はこれは逃げないとまずいなと考えた。相手の実力は分からない。そして黒い姿だったけど、徐々に全身が赤褐色の色に変わっていく。どす黒い赤い髪と真紅の瞳、まるで燃えたぎっているかのようだ。
ザルノタールより上なら勝てるかどうかはかなり怪しい。さらにナルメシアさんがいないのも痛い。
勝てる要素は少なく博打すぎるなと思った僕は、音を立てずに気配を消して逃げることを迷わず選択する。
ここから逃げてみんなと合流してそこから再戦が一番だと考えた。ところが黒い悪魔の恐怖から逃れようとしたのか、ウサギがよりによって僕の方へ突撃してきた。
「えっ! こっちこないで!」
と一言、小さく叫んで追い払ったけど、やっぱり黒い悪魔に僕は見つかっていた。
罠は発動してみんなに知らせてくれている。けれど保険だ。僕は救援のため2~3発ファイアーボールを空に向かって派手に撃ち上げた。
「なんの真似だ?」
「せっかく黒い悪魔と戦うんですからお祝いです。派手でいいでしょ?」
と、ため息をつきつつ、僕は構える。
こうなったら仕方ない。みんなが来るまで一人で戦う。みんなが来てくれるまで生きるんだ!
「面白いやつだな。俺を見ても恐怖で逃げもせず、驚かないのか? 伝説の黒い悪魔だぜ?」
「見れば分かるよ。別に今すぐ黒い悪魔と戦いたくてここにいた訳じゃないんだよ。僕は」
時間を稼ぎたい。わずかな会話が生きる時間を伸ばしてくれる。みんなが来る時間を稼いでくれる。
とはいえ、このままコイツが待っててくれるなんてことはないだろう。だから僕は強化魔法、火、風の魔法を身に纏って魔力操作する。
こちらの準備は完了だ。
「ちなみに黒い悪魔さんの名前はなんていうんですか?」
「俺か? 俺は魔王配下、四天王が一人、火のノルレンゴースだ。お前を殺す相手だ。名前は覚えなくて良いさ、お前はここで死ぬんだからな!」
とノルレンゴースは突っ込んできて右手を振りぬく。僕はぎりぎりで回避する。それでも続けざまに拳を連打してくるノルレンゴース。
あまりにもアグレッシブにノルレンゴースは攻撃してくる。僕はその攻撃を回避する。けれど、その攻撃の余波で大地が大きく
「気をつけな。俺の攻撃力は他の四天王と比べても段違いだぜ」
と言って、ニヤリとノルレンゴースは笑ってみせた。それをみて、火だから攻撃力が高いのかと納得した。
けれど、攻撃しないと勝てないのは明白な事実だ。僕は攻撃を入れつつ無理をせず時間を稼ぐ。時間が過ぎるのがあまりにも遅く感じる。黒い泉を監視して2ヶ月待った時より、いま数分を待つのがキツイ。
時間は全ての人に平等に時を刻むんじゃないのか! と怒りたくなる。
それでも僕はじりじりと焦燥を感じながらも攻撃を続ける。無酸素運動の連撃がきれたところを右手で顔を殴られ、左から肝臓を殴られ、体が前かがみになったところを顔面に膝蹴りを食らって僕は吹っ飛ぶ。
ノルレンゴースは吹き飛んだ僕を追いかけて追撃を入れようとした。そしてドンッ!と大きな音を立てて大木に激突したのは、ナルメシアさんの攻撃を受けて、吹き飛ばされたノルレンゴースだった。
「待たせたわね」
と僕にウィンクしてみせるナルメシアさん。ほんとにこの人、こんなキャラの人だったっけ? と思いながらも、僕は「痛てて」と体を起こす。シャルリエーテ様が回復魔法をかけてくれる。徐々に癒される傷。僕は
「シャルリエーテ様、ありがとうございます。サーラ様はどうされたんです? いらっしゃらないみたいですけど」
と質問する。ナルメシアさんは苦い顔をして
「サーラ様には逃げるように説得しました。それでここに来るのに手間取りました」
それを聞いて僕は驚く。逃げるのが悪いんじゃなく、あの正義の塊のような王女様がよく逃げてくれたなと思ったからだ。
「あのサーラ様がよく言うことを聞きましたね?」
「『あなたが死んだら誰がマルスの無念を晴らすんですか?』と言いました。私は卑怯な女です」
顔を曇らせるナルメシアさん。でもサーラ様は戦闘場所にいないのが最善策だと僕も思っていた。守りきれるか分からない。無策で死地に連れてくるのは愚策もいいところだ。下手をすれば全滅なのだから。
だから僕はナルメシアさんの決断を後押しする。
「いいじゃないですか。マルスの無念がどういう話なのかは僕には分かりませんけど、人を生かす言葉に悪意なんてある訳がない。戦略的撤退と同じですよ。本人が受け取りやすいように言葉を変えただけの優しさです」
それを聞いたナルメシアさんは邪気の抜かれた顔で笑った。
「君は本当に面白い。想像していたよりずっと君とは話が合いそうだ。本当にシャルリエーテ様からとってしまいましょうか?」
「ナルメシア!」と顔を赤く染めたシャルリエーテ様は非難の声をあげる。
その会話に割り込むノルレンゴース。
「お別れの挨拶はもう済んだか? こっちは結構、予定の時間が押してるんだぜ? 魔王様復活のために、憎悪の結晶を集めなきゃならんのだからな」
「憎悪の結晶?」
「お前が知る必要なんてない。どうせお前らは、ここで死ぬんだからな!」
と僕の質問には答えず攻撃をしかけてくるのだった。
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