第73話 ナルメシアさんから一本取れ!②
「ナルメシアさん! 稽古をつけてください!」
僕はいつも通りお願いする。ナルメシアさんも
「いいわよ。かかってらっしゃい」
といつも通りだ。
でも今回のは僕はやる気満々だ。ナルメシアさんから一本取る。それを気取られることすらしないように、気を付けなければいけない。
シャルリエーテ様とサーラ様が見守る中で、戦いは始まった。
強化魔法を全開で魔力操作して準備完了。
ナルメシアさんが向かってくる。僕はナルメシアさんの全身の動きを見ながら攻撃に集中する。
ナルメシアさんはいつも通りフェイントを仕掛けてきた。僕はそれを見切り、ナルメシアさんは僕の作戦には気づいていないようだと推測する。
そして、僕はここから作戦を開始する!
まずは癖の通り、動いてもらえるように下ごしらえだ。引っかかる訳はないと思いつつも、フェイントを入れて僕は上から斬りかかる。
ちょっとでも注意が向くだけで違うからだ。常に選択を迫る。それを忘れてはいけない。
そして無詠唱で魔法を発動させる。ナルメシアさんはカッと目を見開いて魔法自体を切り捨てる。
魔法自体を切り捨てるってナルメシアさんは木刀でしてみせるけど、一体どうやってるんだ! とは思うけど今は戦いのときだ。気にしてる余裕なんてない。
それにもめげずに魔法を連打。ナルメシアさんを右へ右へと誘導するように攻撃魔法を連打する。
やはりナルメシアさんは右へ動かされたからだろう。ナルメシアさんは左へ戻るついでとばかりに右上から袈裟斬りを仕掛けてくる。
この攻撃からナルメシアさんの無意識の癖による一連の動きが始まる。
僕は確実に袈裟切りをかわし、横からの薙ぎ払いをぎりぎりでかわし、ナルメシアさんが木刀を右に振り切る前に、ナルメシアさんの左斜め上から斬りかかる!
まだナルメシアさんの攻撃態勢は整っていない。だからナルメシアさんは回避を選ぶしかない。
けれども、それはさせない! 無詠唱で再び攻撃魔法を放つ。再びナルメシアさんはカッと目を開き対処しようとする。
ここだ。攻撃魔法に対処するとき、ナルメシアさんはコンマ数秒だけど必ず動きが止まる!
それは隙以外のなんでもない! と無詠唱で攻撃魔法を展開し続ける! さらに木刀をナルメシアさんの頭に振り落とすけどかわされる。
けれど、それも想定内だ。木刀による攻撃と魔法をかわして態勢を崩しているナルメシアさんに、返す刀で本命の小手を狙い木刀を下から斜め上へ僕は振りぬいた!
僕の木刀がナルメシアさんの右手にあたりカランッと乾いた音を立ててナルメシアさんが木刀を落とす。
「一本!」
シャルリエーテ様がそう宣言する。僕はこうしてナルメシアさんから初めて一本とったのだった。
◇
ナルメシアさんから一本とって僕は一人でニヨニヨしていた。顔から笑みが張り付いて取れない。ニヨニヨが止まらない。
ナルメシアさんはむしろ機嫌が悪い。
「チッ…………チッ…………チッ…………」
時計のごとく正確に舌打ちで時を刻んでいる。
けれどもいつまでも止まらないニヨニヨした顔を僕がしているとパンッ!とシャルリエーテ様に頭を軽く叩かれ
「いい加減そのニヨニヨした顔やめないと、ナルメシアに殺されますわよ? あんな不機嫌そうなナルメシアは見たことがないですわ!」
と本気の忠告を言われ僕は現実に帰ってきた。
そしてナルメシアさんへの自分の中の警鐘が振り切れそうになっている感覚を感じた
◇
「ナルメシアさん、ささっどうぞ! 今日の紅茶はおいしいですよ。僕の会心作です!」
夕食時になれば
「ナルメシアさん、ささっこちらです! 今日は若ウサギのジンジャーと若草の香草焼きです」
夕食後になれば
「ナルメシアさん、ささっこちらです! 足湯です! 体が温まって疲れがとれますよ!」
という感じで命の危険を感じた僕はナルメシアさんのご機嫌をとりまくる。
一緒のサービスを受けているシャルリエーテ様とサーラ様にもご好評。
暑いし、水は貴重だけど命より大切なものなんてない。ぶっちゃけ水も魔法で作ればいいのだ。
お風呂もできるけど何らかのアクシデントで女性陣の裸でも見ようものなら、今は有無を言わさず抹殺される。間違いない。
足湯くらいならどうということはないけれど、疲れはとれるし癒される。しかも事故も起こりえない。ここが命に関わるレベルで重要なのだ。
そしてプライドなんかより、自分の命の方が僕は大切だ。
そんな生活を2~3日続けた頃だろうか。ナルメシアさんはシャルリエーテ様とサーラ様に稽古をつけている。
僕も仲間外れは寂しいので、稽古をつけてもらおうか迷っていたから勇気を出してちょっと聞いてみたら
「今度は手加減しないわよ?」
と、にこやかに言ってるけどこめかみがピクピクしてるのを見て、これは今ダメなやつだ! 殺されてしまう! と僕は素直に
でも、ご機嫌取りしつつもナルメシアさんの動きを見ながらそれを考察し続ける。そんないつもの訓練は続けるのだった。
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