第72話 ナルメシアさんから一本取れ!①

 僕は道が間違ってないことを地図を見て確認する。旅の途中、ナルメシアさんとの訓練は続いていた。フェイントはさばけるようになった。単純に引っかからなくなった。


 理由は割と簡単だ。フェイントの時は体幹は動かない。本当に攻撃するつもりがある時は体幹は動く。


 これが理屈。じゃぁどこを見れば分かるのか? 答えはお腹。本気で右に動くなら、当たり前だけどお腹も右に動いていってしまうのだ。でもフェイントならお腹の移動はない。だから相手の体全体を俯瞰ふかんするようにみて特にお腹に注意を向ける。


 これでフェイントは防げるのだ。


 ただ、フェイントを防げてもそれは戦いの前哨戦ぜんしょうせん。つばぜり合い。相手をかく乱するための調味料。本当の刃じゃないのだ。


 そしてその時、なんとなく気付いたのがどういえばいいのか悩むんだけど。戦いに集中するんだけど集中しすぎてはいけないということ。


 人間って集中すればするほど視野が狭くなる。周りが見えなくなりやすいのだ。これはツーマンセルで連携をとるってことを考えると致命傷になりかねない。


 ツーマンセルで連携して戦う。それなのに相棒の動きが見えなくなるってことは、下手をすると相棒の動きが分からなくて、最悪の場合は自分も相棒も死ぬって事態になりかねないってことだと思ったのだ。


 単純に目の前の敵に集中してたら、知らない間に相棒が罠にかかってこっちを助ける余裕がなくなってたとか、違う敵が現れて攻撃を受けてて相棒がピンチだったとか。


 助けてもらうことを期待して自分が行動して、だというのに相棒も不利な状況になってしまっていることを把握できてない。これは詰んでいる。いわゆる全滅するパターンだと思うのだ。


 これだけは絶対に避けなければならないと思う状況だ。そのために一点に集中しすぎない。これが僕の一つの気付き。


 集中しすぎないように集中する。言い換えれば周りを見ながら目の前に集中する。視野を広くもって戦う。このやっかいな状況に慣れるのに時間がかかった。


 けれどその間も、このナルメシアさんから1本奪うにはどうしたらいいか? それだけを必死に考えた。


 自分の実力を上げて力をつけていつか必ず勝つ。これも一つの考え方だと思う。でも手持ちのカードをやりくりしてなんとか勝ち筋がないか考える。これも一つの考え方だ。


 思考を停止したらそこまでだ。


 そしてナルメシアさんとシャルリエーテ様たちの訓練を必死に見て、僕自身も気絶することは極端に減り、何度も何度も頭の中でナルメシアさんの動きをイメージしてどう対処するかを考える。


 それを延々と繰り返していたら、ナルメシアさんの行動に一つだけくせを見つけたのだった。


 実戦ではガザさんとの戦いで僕が実際にしたように、すきを餌にあえて誘うというひねくれた人間もいるので気をつけなくてはいけないんだけど、ナルメシアさんに隙というか癖を見つけたのだ。


 たぶん、ナルメシアさんがこれを隙と考えれば一回試したら次は修正してきちゃうだろう。


 だから試せるチャンスは一度きり。一つの癖を最大限利用して、ワンチャンスに全てを賭ける。ひねくれているところが実に僕らしい作戦だ。


 ナルメシアさんの癖は実に簡単。右上から袈裟切り、返す刀で左下から横に薙ぎ払い、そのあとは後ろに避けた敵を必ず追撃して頭を狙って木刀を振り下ろす。


 割と理にかなった自然な動き。けれど必ずこの一連の行動をしてくるから無意識の癖であり、だからこそ僕はつけ入る隙だと考えた。


 人には好む型、格闘ゲームでいうならコンボのように繋がる一連の攻撃パターンがあり、それを多用するものだ。無意識でも連続して使用すれば、相手はそれを学習して対策を立てるもの。


 チャンスは一度。


 僕はさらにイメージを繰り返し、ナルメシアさんのこの攻撃の癖をどう利用したらいいのか? さらにどう対処したらいいのか? を魔力操作の訓練をしながら考えるのだった。

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