第71話 トロルとの戦い

 旅支度を終わらせた僕たちはすぐにサウザンストを出発する。世直しの旅はサーラ様にも


「困っている人は助けましょう。助けられるのに助けない訳にはいかないわ」


と認められた。「絶対魔物許すまじ!」と息巻いているようだ。でも帰り道なのに、なぜか魔物があふれかえっているようなのだ。


 サウザンストに向かう途中で、この辺の魔物は倒したはずなんだけどなぁと僕は頭をかしげるのだった。


「おおぉ。あなた様たちは! 先日はゴブリンの巣を排除してくださいまして誠にありがとうございました」


といきなりお礼を言われた。そう、ここは僕たちがゴブリンの巣を退治したと思ったら、ゴブリンメイジに僕が操られた事件が発生した時の村だ。


「実はまた困っておりまして……」


「また何かあったんですか?」


と村長さんに聞くとため息をついて


「ゴブリンの巣だったところに最近トロルがでるようになりまして」


「えぇ!? またっていうか今度はトロル!?」


 トロルはゴブリンに比べて圧倒的に強い。村から略奪をするという点においてゴブリンと変わらないけど、強さと厄介さが全然違うのだ。


「ゴブリンの巣のあとにトロルが集まるようになり心配しておるんです。何か被害がでてしまったらどうしようかと」


 まだトロルが被害をもたらしたという訳ではなさそうだった。でもトロルは強い。ないとは思いたいけど、集落を築くなんてことがあったとしたら周辺の村々は甚大な被害を被る可能性が高い。その前に潰しておくのがセオリーだろう。


「私たちに任せておきなさい。トロルなんてイチコロよ!」


 サーラ様も退治する気満々だ。僕も、もちろん異論はない。ならば行動あるのみだ。



 僕はまずトロルの巣を偵察することにした。実際に見にいってみるとトロルの数はそれほど多くない。せいぜい3匹といったところだ。


 周りの様子も確認してみるが、他にトロルがいるということもなさそうだ。時間的にゴブリン討伐からそれほど時間が経ってないことも幸運だったんだろう。


 僕は気配を消して撤退した。



「どうだったかしら?」


とナルメシアさんに聞かれ


「トロルは3匹いる程度で、そんなに面倒なことにはならないと思います」


と僕は答えた。けれどナルメシアさんは難しい顔をしている。


「何か気になる点でもあるんですか?」


「いや、私の考えすぎかもしれないから大丈夫よ。念のため私も一緒に行くし、君がまた操られないか心配だしね」


揶揄からかうように話すナルメシアさんだった。でも、「考えすぎならそれでいい」とナルメシアさんはそう言って、自分で自分を納得させているようにも僕には見えた。



 そして今、ゴブリンの巣改めトロルの巣へ僕たちはやってきた。数は3匹のまま。他のトロルが隠れているということもなさそうだった。


 サーラ様も戦闘に加わる気のようだ。護衛対象の王族の方がトロルと戦うという。そして本来なら護衛する側のナルメシアさんが見学だ。この第二王女サーラ様も変わり者というべきかなんというか。正義感の塊か?


 トロル相手に物怖ものおじしない。サーラ様の実力や如何に? 僕は小声で作戦を話す。


「とりあえず僕が2匹を引きつけるように動くのでお二人で、まずトロルを1匹倒してください」


2人は静かに頷く。それを確認して


「その後、1匹づつ倒していきましょう。じゃぁ、行きますよ!」


と言って、トロルに向かって突っ込む。後に続く2人。僕がトロル2匹を引きつけている間に、残る1匹を時間をかけてでも倒してもらうつもりでいた。


 けれどもシャルリエーテ様が光魔法でトロルの目を潰し、目が見えなくなったのを確認してサーラ様がトロルの首の頸動脈を斬る。あえなくトロルは絶命する。


 僕が引き受けていたトロル2匹にも同じ手順で頸動脈を斬り、あっという間にトロル3匹を倒してみせた。


 僕はこの連携のうまさをみて、ちょっと2人にびっくりしていた。


「うまくいきましたわね!」


「ふふ――ん。私の腕も落ちてなかったわね!」


とシャルリエーテ様もサーラ様もご満悦だ。


「いつのまにそんな連携を思いついたんです?」


と僕が感心しながら聞くと


「シャルリエーテの発案よ。こうしたら楽に倒せるんじゃないかって」


「分厚い体を斬ったとしても一撃では倒せないと思いましたの。だから首の頸動脈を狙ってもらいましてよ」


「うまくいったね!」


とサーラ様とシャルリエーテ様は手を取り合って喜ぶ。


 とはいえ、「首の頸動脈を狙ってね」と言われてそれをサーラ様は実行してみせた。しかも3回続けて。まぐれじゃないことは明らかだ。


 トロルを討伐した僕たちは意気揚々と村へ戻り村長に報告する。


 涙ながらに「ありがとうございました」と感謝され、またしても村をあげてのどんちゃん騒ぎ。


「村の財政は大丈夫ですか?」


と村長にこっそり聞くと


「恐怖は人の心をむしばみます。命を失う恐怖から解放されたんです。ここで無理に抑えてしまうのもどうかと思いますし、食材は全て村の者たちが自分たちで持ってきたものです。もてなしは皆様へのお礼ですから。ご安心ください」


と逆に気を使われてしまった。下手に気を使う方がここは失礼かもしれないと思い、僕たちは村の人たちに感謝しながら楽しいひと時を過ごしたのだった。

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