第37話 頑張れ1年生、カガリ先輩を驚かせろ! ☆カガリ視点☆

 ☆カガリ視点☆


 私はソロで1年生のツーマンセルの対戦相手をしながらオリタルトの話を思い出す。


「まず同時に攻撃を仕掛ける合図を決めるといいと思います。例えば手のひらを相手に突き出して、構えてから3秒後というようにです。訓練して阿吽あうんの呼吸で同時に殴れるようになるのが最終目標です。けれど今はパーティを組んで4ヶ月後の魔法学校対抗戦までに形にしないといけない。緊急事態なんです。」


 とりあえず1年生がどうしてくるか見ていた。1年生は素直なのか型どおりなのか、オリタルトの提案をそのまんまの真似して、手のひらを相手に突き出してタイミングを合わせてきた。


「みんな各々、得意な間合いや攻撃するタイミングがありますよね? だからこそ同時に攻撃するのは難しい。それではせっかく数の優位があるのにもったいない。だからタイミングをあわせやすいように合図を決めるんです」


 手のひらを相手に突き出して3秒後、同時に攻撃してくる。私は楽勝で2人の攻撃をかわす。バレバレだよと言いたくなるのを自重した。


「正直、合図がバレても問題ないです。むしろバレることで相手は警戒してくれるでしょう。警戒したら相手はまず様子見してきます。相手の立場に立てばむやみに攻撃なんてできないはずです」


 頭の中で私はそんなものなのか? とオリタルトの話を思い出しつつ、半信半疑はんしんはんぎでまた次の攻撃をかわす。


「もし相手が合図をだして攻撃する前に攻撃してきたら、落ち着いて防御か回避してもう1人がそこをカウンターで攻撃する。攻撃してこなければ作戦通りに同時に時間をあわせて攻撃する」


1年生はどうしてくるだろうか? 私は興味津々で様子を見る。


「1人は頭、もう1人はボディもしくは足を狙うという感じで2人の狙いをずらすようにする。その攻撃する箇所のパターンも複数用意しておくといいです」


オリタルトの説明を私は思いだしていた。


「複数から同時に狙われると、回避という選択を相手はとることが多くなると思います。2箇所を同時に防御は難しいからです。相手が防御か回避しかできないように意識して攻撃する」


 私は目の前の2人の攻撃を楽々とかわしつつ、それでも確かに回避が増えるなと思っていた。


「相手が攻撃魔法をしてきたら詠唱を聞けば何の魔法なのか判断できるでしょう。そこから回避か攻撃を選べばいいんです」


と言ってたのを思い出しどうしてくるかなぁと、好奇心にかられ距離をとり私は中級の風魔法の詠唱を始める。


 すると1年生は回避を選んでさらに私から距離をとったようだ。まぁ、妥当な判断だなと思った。


 とりあえず攻撃されっぱなしだったので挨拶あいさつ代わりに風魔法を発動する。距離をとっていたこともあり1年生はどちらも回避に成功したようだ。


「また攻撃したのを逆手に取られて投げ技を仕掛けられても、もう1人が攻撃して止めればいいんです。相手はきっと隙だらけです。相手の動きを予測し選択肢を減らしこちら側の選択肢を増やす。そして相手には常に選択を迫り、プレッシャーを与え続け頭を使わせて疲弊ひへいさせる」


 確かにこの1年生パーティ相手に投げ技は危険だなと私は判断し、また回避を選択したのだった。


「想定外の動きにこそ最大限の注意を払うべきなんです。例えば自分の知らない魔法を詠唱してくる敵に出会った場合とかですね。そういう自分が予測しようがない行動をしてくる相手は、戦わずに逃げた方がいいとさえ僕は思います。これが僕のツーマンセルの基本的な考え方です」


 実際に戦ってみると実にいやらしい戦い方だった。


 合図が分かっても対処が難しく、さらに合図が分からない上に同時に攻撃され続けるならこれはかなり危険だと思った。


 しかもツーマンセルで合図が個別に違っていたら、いつ出会うか分からない相手の合図はもうランダムだし対策の立てようがない。


 相手の合図を調べ上げたとしても、一度は相手の攻撃をみて状況を判断する必要がでてくる。それは相手にノーリスクで全力で攻撃をさせるチャンスを与えているのと同じなのだ。


「最初は普通に戦って、最後は僕たちの訓練の成果を先輩たちにみてもらって終了にしましょう。ある程度時間が経ったら煙幕を飛ばして合図をだします。それをみたら魔力を操作できる最大数を手と足に振り分けて、今の自分の精一杯で構いません。パーティ内で相談した合図とタイミングで、先輩たちを全力で攻撃してください。」


 そして恐らく、オリタルトからの合図だろうと思われる煙幕が打ち上げられる。


 訓練の成果とか言われてもそんなに変わらないだろうと私は甘く見ていた。入学してたった5ヶ月ちょっと程度の1年生たちに何ができると思っていた。


 オリタルトが聞いたらその思考こそが油断ですよ? と言いだしそうだと、戦闘中にもかかわらず思わず笑いそうになってしまった。


 そんなことを思い出していると1年生の2人は、手のひらを相手に突き出して構えて3秒後に作戦通り、けれども今までからはありえないスピードで同時に攻撃してきた。


 私はその攻撃を回避するので精一杯だった。


「やっぱりかわされちゃいましたね。」


「そうだね~。うまくいかないもんだね。」


2人の1年生は「たはは~」と照れながら笑っていた。


 私はなんてものをオリタルトは1年生に教え込んでいたんだと驚愕きょうがくしていた。


 あと2秒、いや1秒でも反応するのが遅れていたら? もし攻撃してくるタイミングが分からない状態で、同時に攻撃を受けていたとしたら? 私はなすすべなく名前すら知らない1年生2人に倒されていたかもしれないと想像して、背筋が凍る思いをしたのだった……

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