第31話 3年A組リーダー、シリス戦②

 突っ込んでくるA組に対し軽く魔法で威嚇いかくして様子をみるが、まるでひるむことがない。


 これはやっかいだぞ……! と思ったけど、その動揺は抑え声を張り上げる。


「撃てぇっ!」


 合図に合わせて怒涛どとうの攻撃魔法が炸裂する。


 けれど相手は横一線で迫ってくる。攻撃魔法がくることも想定内のようだ。


 人が多い場所を狙い撃ちされるのを警戒しているのか、まともに近接戦闘をしないと読まれているのか、バラバラに距離を空けて特攻してくる。


 連携は取れる位置だが限りなく横に広がり固まって動いていなかった。


 こちらとしてみれば攻撃魔法の消費魔力の効率がすこぶる悪い。


 本来なら5~6人だろうが吹き飛ばせる魔法が1~2人にしかあたらない。


 3人くらい巻き込めればそれだけで上々と言わざるを得ない。


 みんなの魔法はあたっているようだが、回復魔法で回復されているようだ。


 平原はシリスさんたちの回復の魔力を奪うことが目的の戦闘場所だ。


 こちらも絶え間なく撃ち続け、ある程度近づかれたところで当初の予定通り戦略的撤退。逃げるんじゃないからね!


 これにて前哨戦ぜんしょうせんは終わりだ。


 逃げるC組の殿しんがりで敵への牽制けんせいは僕がして、こちらの守りやすい場所に相手を連れて行くように誘導する。


 僕たちのクラスメイトの今逃げているメンバー以外は待機中。落ち合う場所はカガリさんの破壊跡はかいあとがけの予定だ。


 A組はほとんどが僕を追ってきた。リーダーを倒せば終わりの勝負だからやっぱり僕を追いかけてくるしかないよね。


 なんとか待機組と合流しこちらからも迎撃魔法を放つ。倒せるようなら倒したい。


 ここが正念場だ。通路で待機していたメンバー全員で入口が狭くなったところを通ってくるA組メンバーを狙い撃ちして倒す。


 それでも対処できなくなってきたのを見て僕たちはまた逃げる。相手は勢いづいてきていた。


 手の届く位置に敵がいてくれれば相手は本領発揮できる。勝てると信じている。


 僕たちが逃げた後、倒れているメンバーをシリスさんが次々に回復していく。そしてまた立ち上がり追撃をしてくるのだ。


「クソッ!キリがない」


とみんな口々に捨て台詞を残して逃げる。


「待ちやがれ!」と調子に乗って追いかけてくるA組の生徒たち。


シリスさんは


「待ってください! あまりにも相手が逃げ腰すぎる。魔力も減ってきています。もっと慎重になって!」


と注意するが戦うことしか頭にない武闘派集団は、シリスさんが声をあげてももう止まらない。


今まではこれで勝てていたのだから止まるわけがない。シリスさんの指示を無視して追いかける。


 僕は内心うまくいってるとほくそえむ。


 遠距離から一方的に攻撃してきてるのは、たぶん他のクラスも同じだからいつも通りだろうしね。


 けれど狭い通路で狙い撃ちされるのはあんまり経験したことないんじゃないかなぁと。


 しかも、あとちょっとで追い付けて叩きのめすことができそうな状況でだ。


「逃げんじゃねぇ! 卑怯ものめ!」


「待ちやがれ! 腰抜けが!」


「C組の得意技は逃げることかあぁ!?」


 言いたい放題だが言いたいことは分かる。頭に来てるからぶん殴らせろってことですよね?


 確かにA組にしてみれば、目の前で倒された仲間たちをシリスさんが回復してくれるとは言え散々、目にしているだろうし。


 回復魔法でシリスさんが回復してくれるとはいえ、攻撃されれば痛いものは痛いだろう。


 ストレスは溜まり、一撃入れるまでは許せないと意固地になっているのだろう。


 しかも殿しんがりは僕。リーダーが一番後ろにいるのだ。僕を戦闘不能にするかバッジを奪ったら、それで完璧な勝利なのだから止まれないよね?


 それを念頭に置いているから僕がわざわざ殿をしているのだ。


 僕たちはみんな落とし穴の位置も把握しているので自分自身を餌に、落とし穴へ誘導していく。


 そして逃げながら魔法を撃ち続け、落とし穴への注意をそらした。


 A組は散々あおられてヒートアップしている。頭に血が上っているA組はついに落とし穴にひっかかった。


 それを合図に崖の上から岩を落とし、前進も後退もできないように道をふさぐ。


 その後は落とし穴を泥沼にして移動しづらくし、崖の上の部隊が崖の上から魔法で狙い撃ちだ。


 追いかけてきた敵を粗方あらかた倒しつくした後で、僕たちは敵の頭についているバッジをことごとく奪う。


 これで相手の人数を大幅に減らすことができた。あとは今までの鬱憤うっぷんをはらすだけだ。


 散々A組も怒っているようだが、僕たちだって仲間を倒されて頭にきているのだ。


 崖の上のメンバーにはそのまま相手を崖の上から追撃するように指示を出し、草原から逃げていた囮部隊の僕たちも一緒に来た道を戻る。


 シリスさんは狭い通路で倒れた仲間に回復魔法を1人づつかけていた。


 最初の頃のように、即時でみんなを全快させるのはさすがにきつかったようだ。


 僕たちは今までと同じように狭い通路を巧みに利用し、ツーマンセルで有利な状況を作り出し、確実に1人づつ倒し攻撃をしかけ武闘派集団のバッジを奪い、戦闘不能にすることに成功していった。


 そして、最終的にみんな僕たちにバッジを奪われ、最後に1人残ったシリスさんはため息をつき「私たちの負けですね」と敗北の意思表示をした。


 その瞬間、戦闘終了の合図が響き渡り10年ぶりに1年生である僕たちの優勝が決定したのだった。

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