第22話 シャルリエーテ様が頑張る理由、そしてその過去

 1年生でC組の僕たちが優勝し、次の学年別対抗戦をめざしてさらに気合が入る。


 そんな中でもいつもと変わらず頑張っているのはシャルリエーテ様だ。


 他の生徒も頑張っている。いるんだけどなぜかシャルリエーテ様から鬼気迫ききせまるものを感じるというか、焦り? のようなものを感じてしまうのは僕の気のせいなのだろうか?


「頑張ってますね。僕に隠れて無詠唱の訓練して無茶してたりしないですか?」


茶化ちゃかしつつシャルリエーテ様に話しかける。


「そんなことをしたらオリタルトに、無詠唱を教えてもらうことができなくなってしまうではないですか。そんな無意味なことはいたしません」


とプィっと顔そむけたシャルリエーテ様だったが


「今までわたくしに足りないものは魔法だけだと思ってましたわ。でも……」


 ため息をつき、ためらいつつもそのまま話を続ける。


「この前のクラス別対抗戦。D組のカクターさんたち、A組のトミーさんたちのと戦いで、足りないものはもっとあるのではと気づいたんですの……」


「それは成長ですね」


「足りないと気づくことが成長ですの?」


「そうですよ。気付かなければ努力なんて誰もしません。気づきは成長のきっかけです」


僕は安心してと笑いかける。


「オリタルトはわたくしのずっと先を歩いているんですのね」


 それはまぁ、この世界にきて記憶のない期間も含めれば通算47歳だしねと内心つぶやく。


 でもシャルリエーテ様は目をつぶりこんな僕に、シャルリエーテ様自身の過去の話をしてくれるのだった。




 ☆シャルリエーテの過去☆ 


 シャルリエーテ様には平民の異母弟いぼていがいた。


 その異母弟はコーダ君といって、大人たちからは身分が違うからシャルリエーテ様と遊んではいけないと言われていた。


 でもシャルリエーテ様はこっそり城を抜け出しては、コーダ君を誘って街中をあちこち探検しては冒険の日々。


 今思えば些細ささいな冒険だったけど、毎日泥まみれになって遊んでは、みんなを困らせていた。


 ある日、入ってはいけないと大人たちから注意されている禁じられた森に、冒険に行こうとコーダ君を誘ったシャルリエーテ様。コーダ君は


「みんなその禁じられた森に入ったらダメだっていってるよ」


と反論してきたが、そんなド正論は聞く耳をもたないシャルリエーテ様。


「だからこそ行くんでしょう! 未知の冒険がそこにはあるんですわ!」


「で、でも~」


と煮え切らないコーダ君に


「何をウジウジ言ってますの! 男でしょう! わたくしは行きますわよ!」


「ま、まってよ~シャルリエーテさま~」


と未知の冒険に胸をふくらませていた。


 しかし現実の冒険は楽しいばかりのものではない。


 そう、シャルリエーテ様はこの時に、初めてその当たり前の事実に気付くことになる。


 シャルリエーテ様は強引にコーダ君を連れて、禁じられた森に入った。


 森にみのっている果実を見つけては取って食べたり、それはそれはコーダ君と冒険を楽しんだ。


 しかしそこで初めてシャルリエーテ様は魔物に出会ってしまう。


 コーダ君が剣を振り回し注意を引き、シャルリエーテ様をかばうように戦った。


 そこで今がチャンスとばかりにシャルリエーテ様は魔法の詠唱を開始する。


 しかし魔法を詠唱し始めた途端とたん、魔物は急にシャルリエーテ様に方向を変え攻撃してきた。それを見たシャルリエーテ様は驚いて詠唱を止めてしまう。


 魔物にみ殺されるその瞬間、体を張って助けてくれたのはコーダ君だった。


 命を投げうって。


 シャルリエーテ様はもうダメだと目をつぶった。その瞬間、け付けた大人たちが間一髪かんいっぱつで魔物を倒しシャルリエーテ様は助かった。


 コーダ君が森に行くことをメモに残していたからだ。それを見たコーダ君の母親があわてて探してくれるよう頼んだのだ。


 シャルリエーテ様はコーダ君の名前を何度も何度も呼んだ。でもコーダ君がシャルリエーテ様に返事をしてくれることは二度となかった……


 シャルリエーテ様はあの時、詠唱を唱えられていれば。


 いや、もっと早く魔法が発動できていればコーダ君は死なずにすんだのではないかと、シャルリエーテ様はずっとずっと何度も考えていた。


 そこへ僕の無詠唱を見てからは自分自身が無詠唱ができていたなら、もしかしてコーダ君は死なずに済んだのではないかと。


 そもそも魔物に動揺せず魔法を詠唱しきれていれば、コーダ君は死ななかったのではないかと……


 結局、平民のめかけの子供だったコーダ君が死んでも、シャルリエーテ様におとがめはなかった。


 コーダ君の母親も


「シャルリエーテ様を守って死んだなら本望でしょう。あの子は私の誇りです」


というばかりだった。


 誰もシャルリエーテ様を責める者はいなかったのだ。


 そして一番悪いのは、禁じられた森に無理やりコーダ君を連れて行ったシャルリエーテ様自身だとなげくのだった……



 ☆オリタルト視点(現在)☆


「誰一人としてわたくしを責めなかったんですの」


とシャルリエーテ様は涙を流していた。


 そんなシャルリエーテ様の涙をぬぐい、僕はこう話しかける。


「救えなかったコーダ君にはごめんなさい。そして助けてくれてありがとうと祈りましょう。後悔してばかりではコーダ君は喜びませんよ?」


と言ってメッと叱咤激励しったげきれいする。


「僕がそのコーダ君ならシャルリエーテ様の謝罪と感謝で充分です。シャルリエーテ様を守らなきゃって思った時にはもう体が動いて助けていた……なんてこともあったのかもしれません」


「それは……」


とシャルリエーテ様は言葉を詰まらせる。


「コーダ君はシャルリエーテ様を命をけて助けたんですよ? 立派じゃないですか」


と優しく微笑み


「でもそんなコーダ君がシャルリエーテ様に、今みたいにずっと苦しんでほしいなんて思ってるわけがないです」


「でも、わたくしは……!」


と罪悪感にさいなまれるシャルリエーテ様。だから僕はコーダ君の想いを考え、そして僕の考えを伝える。


「だって命をかけて助けた相手が、実はずっと苦しんでいたなんて悲しいじゃないですか……コーダ君ならシャルリエーテ様に幸せに生きて欲しいって、きっと思ってますよ」


と言うと、シャルリエーテ様は僕の胸に顔をうずめて泣きだした。


 僕は「泣きたくなったらいつでも胸は貸しますよ?」と、シャルリエーテ様が少しでも落ち着くようにささやく。


「今日は今までの思いをすべてき出すといいです。でも明日からはコーダ君を思い出すとき、自分を責めるのはやめましょう。シャルリエーテ様の思い出すコーダ君は、いつも悲しそうな顔をしていませんか?」


 シャルリエーテ様はしゃくりあげる。


「コーダ君だってそんな顔をシャルリエーテ様に見せたくないですよ? 笑ってる顔を……いつだって思い出してほしいじゃないですか……僕もシャルリエーテ様と一緒にコーダ君に謝罪しますし、お礼も言います。安心してください」


と微笑む。そしてシャルリエーテ様の今まで抱えてきた苦悩、後悔、そして慟哭どうこくを、僕はシャルリエーテ様の止まらない涙とともに、静かに受けとめるのだった……。

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