第17話 【悩み人】はメイドのリア!?
冬休みが明け、いよいよ始まった3学期。
冬休みは夏休みと違って期間も短くて、クリスマスとお正月を満喫したらあっという間に終わってしまった。
「明けましておめでとう、リア」
「えっ? おめでとう、ですか……?」
――あ、そっか。
ここにはそういう習慣はないんだ。
「ああ、えっとね、私の世界の新年のあいさつなんだ」
「それは失礼しました。明けましておめでとうございます、ソラ様」
「うん、今年もよろしくねっ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
エリヤとゾーン、それからリオン先生相手にも似たようなやり取りを繰り返して、ようやくここでの新年が始まった。
「そういえば、【悩み人】は決まった?」
「僕はもう目星はつけてあります」
「わたくしはまだ――でも、街に出ればいくらでも見つかるんじゃないかしら」
「そ、そっか」
たしかに、街にいけば【悩み人】はたくさんいる。
《魔法空間》を完成させた【魔法空間師】には、救済可能な【悩み人】の頭上に赤いひし形のマークが表示されて見える。
それを目印に【悩み人】の悩みを調査し、そして適切な癒しを施すらしい。
悩みは《修練の城》に調べるシステムがあり、それを使えばざっくりとした概要は簡単に知ることができる。
ただ、そこからは【魔法空間師】の実力次第、といったところだ。
つまり、対象を選ばなければそこまで難しい課題ではない。
でも私は――。
そんなことを考えながら【悩み人】を決めあぐね、気づけば3学期も残り1ヶ月になっていた。そんなある日。
なんと、リアの頭上に赤いひし形マークが表示された。
み、見間違いじゃない、よね?
でもリア、今日も普通に朝起こしてくれたし、特に変わった様子なんて――
ど、どうしよう、調査する?
でもリアの頭の中を勝手に覗くようで、どうしても気が進まない。
…………。
リアは今、間違いなく【悩み人】だ。
だったらわたしがやるべきことは1つ、だよね!?
わたしは《魔法空間》を展開し、リアを誘い込むことにした――。
◆◆◆
「――えっ? わ、私さっきまでお城に――って、きゃあっ!?」
リアが振り向いた先には、大きなくまの着ぐるみ――を着たわたしが立っている。
くーちゃんを巨大化させようかとも思ったけど、リア相手では一瞬でわたしだってバレちゃうから。だから着ぐるみ。
「え、ええと……あの」
――あ、そうだった。わたし今、しゃべっちゃいけないんだ!
わたしは慌てて屋台の中に置いていたノートとペンを取り出して、なんて書こうか、なんて考えてたんだけど。
「え、ええと、ソラ様、ですよね? ここ、ソラ様の――」
「えっ」
あ、しまった、声に出てしまった。
「あ、あはは、やっぱりバレちゃうよね」
「そ、そりゃあだって、私もテーマを描いた紙、見ましたし。焼きおにぎりの香りが漂ってますし。それに何となく分かります」
おかしそうにクスクスと笑うリア。
でも、【悩み人】マークは消えていない。
「……あ、あのねリア、わたし、入学してからずっとリアにお世話になってきたし、迷惑もたくさんかけたし、だから今度はわたしに何かできたら嬉しいなって思ってるの。今、何かわたしにできることってないかな」
「えっ!? え、ええと……私、疲れた顔してましたか? 申し訳ありません。その、試験を控えていて、ちょっと睡眠不足で……」
「――え? 試験?」
「はい。実は私、【魔法空間師補佐】の試験を受けようと思ってるんです」
リアによると、私のメイドをしているうちに、もっと【魔法空間師】の役に立ちたい、自分ももっと傍に行きたいと思ったらしいのだ。
リアは顔を真っ赤にしながら、あたふたしつつ教えてくれた。
「……そんな、言ってくれれば私ももっと自分のことは自分でやったのに」
「とんでもないです。私は今は、あくまでソラ様の専属メイドです。自分の試験のために【魔法空間師見習い】であるソラ様にご迷惑をおかけするなんて。そんなことをして補佐役の試験を受けたって、受かっても喜べません」
「……でも、わたしもリアが【魔法空間師補佐】になれたら嬉しいって思うけどな。【魔法空間師見習い】であるわたしがそう思ってても、だめ?」
「……で、ですが」
リアには、わたしってそんなに頼りなく見えるのかな。
わたしはたしかにまだ中学一年生だけど、でも入学したての頃とは違うんだよ?
「はい、リア。この焼きおにぎりにはね、リアの気持ちがほぐれる魔法がかかってるの。だから、食べてくれると嬉しいな」
「…………ソラ様」
リアは、鮭と大葉がたっぷり混ぜ込まれた焼きおにぎりに静かに口をつける。
わたしの気持ち、届くといいな……。
「……お、おいしい、です。すごくやさしい味がします。わたし、こんなにソラ様に心配していただいて。メイドなのに……」
「いいじゃんべつに。……ほら、泣かないで。わたしは【魔法空間師見習い】だよ? 【悩み人】がいたら助けるのが当然でしょ」
「……はい。ありがとう、ございます」
リアは、試験のことが気になって不眠症気味になっていて、さらに緊張から食欲もなく、今日も朝からほとんど何も食べていない、と教えてくれた。
「……そっか。気づけなくてごめんね。そんな中、いつも本当にありがとう。……そうだ! 今日からさ、わたしとリア、入れ替わっちゃおうよ!」
「えっ!?」
「わたしがメイドさんやるから、リアは勉強に集中して。試験っていつなの?」
「えっ、え、その……5日後です」
「あとちょっとしかないじゃん! 大変! ね、わたしメイドさんするの初めてだから、きっと迷惑もかけちゃうけど。でもこれも【魔法空間師】としていつか役立つ経験になるかもしれないし! それに、ここでリアが【悩み人】から解放されたら課題クリアなの。つまり、私にもメリットがあるんだよ。だから、ね、お願いっ!」
リアはきっと、わたしが「お願い」と言えば断れない。
そう思ってのお願いだった。
そしてそれは、見事的中した。
「……わ、分かりました。では、5日間だけお願いしてもよろしいでしょうか」
「もちろんっ! わたし、応援してるから。だから頑張って。――あ、応援はしてるけど、もし落ちちゃっても大丈夫だよ。試験はまた次頑張ればいいんだから」
「……はい。私、ソラ様の専属メイドで本当によかったです。でも、ソラ様もご無理なさらず。私も、最善を尽くします」
リアがそう涙を流したあと。
気付くと、頭の上の赤いマークは消えていた。
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