第16話 1人目の【悩み人】は

「2学期ももう半ばだし、そろそろ次の課題の説明をします。2学期とと3学期は、これまでに学んだことの集大成として、1つの大きな課題に取り組んでもらいます」


 ゾーンの件が落ち着き、それぞれがようやく【魔法空間師見習い】としての経験値を積み始めたころ。

 リオン先生によって、次の課題が明かされた。

 次の課題は「学年末課題」という大きな課題らしく、わたしたち3人はドキドキしながら課題の詳細が書かれたプリントを受け取る。

 そこには、こんなことが書かれていた。


【魔法空間師見習い】学年末課題

 1 《魔法空間》を完成させましょう。

 2 【悩み人】を1人、《魔法空間》で癒しましょう。


 ※勉強期間、実施期間の縛りはなし。

 ※対象とする【悩み人】は、《修練の城》の領域内にいる住民なら誰でもOKです。

 ※ただし神・スペースおよび見習い3人は不可。


 こ、これは――!

 ついに【魔法空間師】としての活動が始まるってこと!?


「ちなみに、2学期の授業は11月末で終わります。12月と3学期は、この学年末課題に集中してもらうことになるわ。悩みはどんな些細なものでも構わないけど、ちゃんと導いて前を向かせられなけれな不合格です」

「……不合格になったら、どうなるんですか?」

「それはまあ、留年って形になるわねえ。来年、次に入ってくる子たちと、もう一度同じ授業を受けてもらいます」

「そ、そんな……」


 2人を見ると、2人とも緊張した様子で固まっている。

 こんな、最初のチャレンジが試験だなんて聞いてないよ!

 名目上は課題だけど、留年になるならもう試験じゃん!


「大丈夫、《魔法空間》で癒すのは初めてだけど、あなたたちはもう何度もたくさんの人たちを癒してきたでしょう? 基本的には同じことよ。もちろん、困ったことがあれば私も相談に乗ります。もちろん、言えることと言えないことがあるけどね」


 そっか。そうだよね。

 でも、相手は誰にしよう?

 2学期になってから、《魔法空間》は少しずつ充実させてきた。

 周囲に設置した木のテーブルにはテーブルクロスをひいて、椅子にはふわふわのクッションを置いて、屋台の周辺にはフラッグガーランド(三角が繋がったあれ!)も張った。

 屋台には大きなガラス容器もいくつか設置したし、そこにマシュマロとチョコも入れてある。

 もちろん、網とホットプレート、たこ焼き器、ホットサンドメーカーも用意した。


 焼きおにぎりの材料は相手を見ながらその都度買うとして、あとは森の仲間たちもほしい。

 【悩み人】を怖がらせないように、うさぎとかリスがいいかな。

 《魔法空間》内では、動物たちとも意思の疎通ができるらしい。

 そこにあるすべては、わたしという【魔法空間師】の一部だから。


「あの、《魔法空間》には、エリヤやゾーンも入れることはできるんですか?」

「そうね、今はまだ見習いだから、練習のために入れるのはOKよ。ただし癒しに使ったアイテムや材料は使い捨てで、一度使うと買い直す必要があるの。だからポイントを考えて練習すること」

「たしかに互いに練習するという手もあるんですよね」

「わたくし、ソラの服もデザインしてみたいわ~」

「わたしも、あの屋台で2人に焼きおにぎりをご馳走したい!」


 2人の《魔法空間》も、すっごくきになるし!


「本番は、私がチェックに入った状態で進めてもらいます。口出しは一切しないけど、万が一危機的な状況になったら、中止を言い渡すことはあるからそのつもりでね。まあ、そんなことがあっちゃ困るんだけど」

「リオン先生に見られながらやるのかあ、緊張するーっ!」

「私のことは気にしないで、安全装置みたいなものと思ってちょうだい」


 あ、安全装置……。

 それなら、あのチュートくんシステムに安全装置も組み込んでおいてほしかった。


「それじゃあ、あなたたちの最初の活躍を楽しみにしているわね」


 ◆◆◆


 学年末課題が発表されてから、わたしたちは一層 《魔法空間》内の整備に注力した。

 最近は、ゾーンの紹介で幼稚園に焼きおにぎりを提供しているため、ボーナスポイントに困ることはない。

 ちなみに現実世界でのお米などの材料は、料理人たちのまかないに焼きおにぎりを作ることを条件に分けてもらっている。


「ソラの《魔法空間》、すごいですね。森の中にある屋台で焼きおにぎりがでてくる発想はなかったです。香りで動線に誘い込まれる仕様もいいですね。それに、料理初心者だったとは思えないおいしさでしたよ」

「本当!? ありがとう。ゾーンの《魔法空間》もすごいね。絵本が開いて、まるで仕掛け絵本みたいに本の上で動き出すんだもん。感動しちゃった! エリヤのブティックも、まさにこんな服がほしかった!って服が出てきて、心の中読まれてるのかって思っちゃった」

「まあ、嬉しいわ。ソラを魅力的に見せようと考えたら、自然とああなったのよ。ソラの《魔法空間》は、焼きおにぎりの作り方をもう少し魅せる感じにするのはどう? 空中でころころと三角に握っていく、とか。その方が、ソラの明るい性格を活かせるんじゃないかしら」

「すごい、楽しそうっ! ちょっとやってみるよ」


 こうして、ボーナス獲得と《魔法空間》の育成を交互に繰り返しつつ、時折互いの《魔法空間》に遊びに行ったりして、2学期が終わるころには全員が《魔法空間》を作り上げることに成功した。

 リオン先生、それからスペース様の承認ももらって、冬休みが明ければいよいよ【悩み人】探しが始まる。


 記念すべき1人目なんだから、やっぱり最初はお世話になった人を助けたいなあ。

 私が知ってる街の人といえば、ゾーンに紹介された幼稚園の先生と子どもたち、それから何度かイベントとして焼きおにぎりを提供した屋台の人くらい。

 あとはリオン先生やここで働くメイドさんたちだけど――以前その話をしたら、ゾーンにもエリヤにも反対されたんだよね。

 メイドはメイドなんだから、そうやっておかしな関係性を作るものじゃないって。

 でもそれって、本当にそうなのかな?

 リアは私が疲れてたとき、それがいいか悪いかは置いといて、規則を破ってまで大事なチョコレートをくれたけどな……。

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