第14話 再び《修練の城》へ!

 楽しかった夏休みも終わって、わたし、エリヤ、ゾーンは再び魔法陣によって《修練の城》へと集められた。


「おかえりなさいませ、ソラ様。お荷物お預かりしますね」

「ただいまリア。ありがとう。エリヤとゾーンはまだかな」

「お2人は先ほど到着されていたので、今は自室にいらっしゃると思いますよ」

「そっか。じゃあまずは荷物を整理しようかな」


 わたしは部屋に着くと、真っ先にくーちゃんを取り出して机の上に置いた。


「そのぬいぐるみは?」

「この子はくーちゃんだよ。わたしのお気に入りなの」

「そうなんですか。可愛らしいクマちゃんですね」


 リアはくーちゃんを愛おしそうに見つめる。

 笑われたらどうしようって一瞬ドキッとしたけど、そんな心配は不要だったみたい。


「夏休み、久々のご帰宅はいかがでしたか?」

「すっごく楽しかった! 友達と焼きおにぎりパーティーしたんだ。いつかここでも開催できたらいいなあ。そしたらリアも招待するのに」

「まあ。ありがとうございます。楽しみにしていますねっ」


 2学期からは、1学期の期末課題で進化させた《魔法空間》を充実させていく。

 夏休みの経験が役に立つといいな。

 小学生のときの仲良しメンバーは、あさひちゃん以外はべつに料理好きでもなんでもない。

 それでも、みんなあれだけ楽しそうにしてくれた。

 これって、けっこうすごいことだよね。

 大人に手伝ってもらったとはいえ、よく考えたらあれだってあさひちゃん家のリビングに《魔法空間》を作ったようなものだ。

 ふふ、あとでエリヤとゾーンに自慢しよっ!


 荷物を片付けて食堂に行くと、そこにはエリヤとゾーンがいた。

 ちなみに授業は明日から。


「あら、ソラじゃない! ソラももう戻ってましたのね」

「ついさっき、荷物の整理が終わったところ」

「そう。ソラも一緒にいかが? さっき廊下でゾーンと鉢合わせして、お茶に誘ったところなのよ」


 ゾーンって、わたしが言うことにはことごとくケチつけるのに、エリヤの言うことには比較的素直に従うよね!

 まあ、エリヤの無垢さの前には、偏屈なゾーンも無力ってことなのかもしれない。


「……なんか失礼なこと考えてませんか?」

「べつにー? 仲いいなって思って!」

「あら、わたくしたち、みんな仲良しじゃない。ねえ?」

「……僕はべつになれ合うつもりは」

「目の前の人をちゃんと見てお付き合いするのも、【魔法空間師】として大切なことではなくて? でなきゃ【悩み人】を癒すなんてできませんわ」

「――そ、それはまあ」


 エリヤって、何だかんだで人の扱いに長けてるよね。

 笑顔だし、嫌味な感じはまったくないけど、でもちゃんとゾーンの弱点や気にするポイントを理解して喋ってる。


「あ、そうそう聞いて! 夏休みの宿題にあった『自身の《魔法空間》に関する研究』でね、焼きおにぎりパーティーしたんだ!」

「えっ? 焼きおにぎりパーティー?」

「なんですかそれ……」


 2人ともぽかんとして、焼きおにぎりパーティーの意図がくみ取れないでいる。

 ゾーンにいたっては、「またこいつ変なことしてる」くらいの目つきだ。


「ほら、わたしのテーマ屋台だし、そこで提供するもの考えてて。そしたら友達が焼きおにぎりはどう?って。おにぎりならほっこり癒されそうだし、焼けば香りもいいし、焼きおにぎりの屋台って多分あんまりないし、いいんじゃないかなって」

「素敵じゃない! ソラすごいわ!」

「……なるほど、なかなかやりますね。それで、結果はどうだったんです?」

「大成功だったよ! 提案してくれた子、いろいろあって友達と疎遠になってたんだけど、パーティーをきっかけにまたちゃんと繋がったの。他の子たちも、改めてそれぞれへの思いを再確認したみたい。自分の企画で誰かが幸せになってくれるって、こんなに嬉しいことなんだねっ」


 わたしたち【魔法空間師】の力はこうした奇跡を起こすための力なんだって思ったら、すごく誇らしかった。

 もちろん、まだまだ未熟だしなんにもできないんだけど。


「……ソラ、なんだか成長しましたね」

「えっ?」

「ここに来た当初はいつも帰りたいだの勉強したくないだの文句ばかり言ってて、落ちこぼれてさっさと追い出されればいいのにと思ってましたけど。でも今は、【魔法空間師】の役割をきちんと理解して動いている。いえ、むしろ――」

「そ、そうかな。ありがと。ゾーンにそんな素直に褒められるとは思わなかったよ」

「僕はずっと適切な評価をしているだけですよ」


 言い方が若干気に食わないけど、でもこうして認めてもらえたのは素直に嬉しい。

 たしかにわたし、最初は自分が【魔法空間師見習い】であることを受け入れられてなかったかも。

 わたしだけ生活が変わって、置いていかれるのが怖かったから。

 でも今は、そうじゃないって分かる。


「2人は? どんな夏休みを過ごしてたの?」

「わたくしは、ブティックを回ってどんな方々がどんなお洋服を好むのかを調べましたわ。うちの衣装担当にも話を聞きましたし」

「僕は図書館を回りましたね。本の配置や選び方はもちろん、空間づくりや導線などに意外と抜けがあることが分かったので」

「そっか。2人とも調査得意そうだし、わたしもまた置いていかれないように頑張らなきゃね!」


 ◆◆◆


 昼食をとったあとは、明日からの授業に備えてそれぞれ自習することになった。

 そういえば、《シード》が《魔法空間》に進化してから一度も内側に入ってない。

 試験後すぐ夏休みだったからなあ。

 ――よし。今日は《魔法空間》の探索だな!

 わたしは自室に戻って目を閉じ、《魔法空間》の内側へと入り込む。


「――わあっ! 森が広がってる! なんか、夏休み前より輝いてない!?」

『おかえりなさいませ、ソラ様。本日はどのようなご用でしょうか? 一覧の中から行動を選択してください』

「あっ、チュートさんだ! ただいまっ」


 チュートさん、というのは、このチュートリアル音声のことだ。

 毎回チュートリアル音声っていうのも長くて言いにくいから、チュートさんって呼ぶことにした。

 一覧――これかな?

 目の前に、半透明の画面が表示されているのに気づく。

 そこには、【体力】【探索】【開拓】【修正】【アイテム】【SHOP】【入出金】【鑑定申請】【設定】などいくつもの項目が並んでいる。

 下の方には【設置】や【誘導選択】もあるけど、これらは色が薄くなっていてまた使用できそうにない。

 それにしても、こういうのってもっと魔法でふわっとどうにかするものだと思ってたな。こんなにシステム化されてるなんてびっくり。

 この【入出金】って、アプリと連動してるのかな?

 押してみると、4月から貯めてる【8450ポイント】、それから【0G】という表示が出てきた。Gはどうやらお金の単位で、1ポイント=1Gに換えられるらしい。


「なるほど……とりあえず、5000ポイントくらいGに換えてみようかな? ……うん? 下にある『ボーナスを受け取る』って何だろう?」


 タップしてみると――なんとそこから【2000ポイント】が加算されて、ポイントが【10450ポイント】になった。

 何これ? わたしボーナスもらえるようなこと、何かした!?

 あとでエリヤとゾーンに聞いてみよう。

 アイテムが購入できる【SHOP】には、魅力的なものがたくさん並んでいる。

 本当は買ってしまいたいけど――一応、先生の意見を聞いてからの方がいいよね。


 わたしは一通り《魔法空間》を探索して、それからフッと意識を現実へと戻した。

 晩ごはんまで時間がありそうだし――そうだ、調理室に行って、焼きおにぎりの練習させてもらえないか聞いてみよう。


 こうしてわたしは、晩ごはんの時間まで調理室で焼きおにぎりを作り、調理担当さんに食べてもらっては感想をもらう、ということを繰り返した。

 途中からメイドさんも集まってきて、ちょっとしたイベントみたいになったのは内緒だ。

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