第13話 持つべきものはやっぱり友!

 久々にあさひちゃんと会ったあの日のあと、わたしたちは度々どちからかの家に集まって一緒に宿題をすることになった。

 あんな異世界の《修練の城》なんていう場で学んでいるわたしだけど、使っている教科書や問題集はあさひちゃんと変わらない。

 もしかしたら、お母さんから情報がいっているのかもしれない。


 宿題は、どちらも問題集や読書感想文、自由研究、日記など。

 違うことといえば、わたしの自由研究が「自身の《魔法空間》に関する研究」なことくらいだ。


「そらちゃん、読書感想文の本と自由研究、何にするか決まった?」

「うーん、本はまだ。でも自由研究は、料理にしようかなって思ってる」

「料理いいね、楽しそう! でもそらちゃんって料理好きだったっけ?」

「えーっと……ほら、全寮制だから自分で作ることもあってね。もっと料理できたらなって! そういえば、あさひちゃんは料理好きだったよね?」


 本当はほとんど作ったことないけど、まあいっか。

 でも実際、興味はあるんだよね。

 自分でおいしい料理が作れたら、すっごく素敵だなって思う。

 大事な人に振る舞うこともできるし。


「うん! 簡単なものしか作れないけど、でもたまに家のごはん作ることもあるよ」

「え、中学生で家のごはん作るってすごくない? わたしにも教えてよー」


 最初は夏休み中にお母さんに習う予定だったけど、あさひちゃんに聞くのもいいな。

 どんな料理作るのかもすごく気になるし!


「私に分かることなら! というか一緒に作ろうよ!」

「いいねそれ! じゃあ今度はお料理会だね! 何作る?」

「どんな研究にするの?」

「うーん……あったら嬉しい屋台ごはん、みたいな?」


 我ながら宿題としてはだいぶ苦しい気がする。

 どう考えても、山奥にある全寮制の学校と合ってないよね。

 深く突っ込まれたらどうしよう……。

 わたしは一瞬、そんな不安を感じたけど。

 でも次の瞬間、あさひちゃんはキラキラと目を輝かせていた。


「屋台!? 何それ楽しそうっ! 夢が広がるねー」

「……で、でしょ? それ食べた人が幸せになるようなのがいいんだよね。あさひちゃんなら何食べたい?」

「そうだなあ、串焼きとかたこ焼きは普通にあるし……。あ、焼きたての焼きおにぎり売ってくれる屋台って意外とないよねー」


 焼きおにぎり! その発想はなかった!

 でも癒しっていう【魔法空間師】としての役割とも合ってる気がするし、これすごくいい案じゃない!?

 持つべきものはやっぱり友!


「すごいっ! あさひちゃん天才じゃん! それ採用っ!」

「えへへ、私焼きおにぎり大好きなんだよー」


 森の中のログハウス風屋台で焼きおにぎりかあ、素敵!

 焼きおにぎりならいろんなバリエーションが作れるよね。

 中に埋め込むのも、混ぜご飯もいいなあ。


「よし決めた! わたし、焼きおにぎりを極めるよっ」

「いいね、うちにホットプレートあるから、それ使って作ろう!」

「やった! 約束ねっ! うまく作れるようになったら、みんなも呼んで焼きおにぎりパーティーしよっ!」

「わー、楽しみっ!!」


 こうしてわたしは、焼きおにぎりマスターを目指してあさひちゃんと特訓することになった。

 最初はおにぎりを三角に握ることすらできなかったけど。

 でも、あさひちゃん家でも家でもたくさん練習し続けた。

 スマホでレシピサイトを検索して、おにぎりのレパートリーも増やしていく。

 やっぱり醤油と味噌は定番として作りたいな。

 大葉や鮭、角切りベーコン、桜えび、枝豆、高菜、明太子も使えそう!


 ◆◆◆


 宿題をこなしながらの焼きおにぎり研究はなかなかに大変だったけど。

 でもあさひちゃんと一緒に頑張るのは楽しくて、意外と8月初旬にはほとんどの宿題が片付いた。今までで最速の仕上がり!

 ちなみにあさひちゃんは、牛乳とレモン汁を使ってカッテージチーズを作る研究をしていた。

 時間や温度を変えて作り、どれが一番しっとりなめらかに仕上がるかやってみたかったらしい。


 そろそろ集まってもいいんじゃない?なんて思っていたそのとき、グループチャットに『久々にみんなで遊ばない?』というメッセージが流れた。

 みおちゃんからだ。

 わたしは早速あさひちゃんに確認して、『ちょうど誘いたいって思ってたんだ』『あさひちゃん家で面白いことやるから来ない?』と送ってみる。


「あさひちゃん、みんな行くって! いつならいいかな?」

「今度の土曜日なら、お母さんずっと家にいると思う」

「了解ー!」


 夏休み中ということもあって、日程はあっさり今週の土曜日に決まった。

 6人で集まるの、本当久しぶりだなあ。


 ◆◆◆


「そらー、あさひー、久しぶり!」

「よかった、そら変わってないじゃん! 山奥で生活してるって聞いたから、仙人みたいになってたらどうしようかと思ったよ」

「あはは仙人ってなに!」

「面白いことって何やるの?」


 週末土曜日、約束の11時になると、続々と集まってきた。


「みんないらっしゃい! どうぞあがってー!」

「おじゃましまーす」


 あさひちゃんに誘導されて、4人はリビングへとやってきた。

 人数が多いため、リビングのテーブルを使わせてもらうことになったのだ。

 テーブルの上には、ホットプレートとたこ焼き器、それからホットサンドメーカーが置かれている。

 そしてもちろん、数々の焼きおにぎりもたくさん!

 握らずにボウルに入れたままの混ぜご飯、ハムとチーズ、それから小さなボール状の焼きおにぎりもある。


「えっ、何これすごっ!?」

「部屋の中めっちゃ飾りつけしてある! 写真撮っていい?」

「小さい焼きおにぎり可愛いー!」

「ねえ、SNSにアップしていいかなっ」


 よかった喜んでくれてる!

 やっぱりせっかくなら、この場を楽しんでほしいしね。

 昨日から頑張って準備したかいがあった!

 ちなみに材料は、昨夜あさひちゃんと私とうちのお父さんで買いに行った。

 こういう時、車を出せる大人の存在はありがたい。


「でもなんで急に焼きおにぎり?」

「この間あさひちゃんと焼きおにぎり作ってて、せっかくならみんなも呼んで一緒に食べたいねって話になったの。握ってあるものはさっき一度焼いてるから、ラップ外してさっと焼けばこんがりするよ!」

「あー、もしかしてこの丸いの、たこ焼き器で焼いたやつ? すごい!」

「えっじゃあこのまだ焼いてないのって、もしかして――」

「そう、ホットサンドメーカーに挟んで焼くんだよ。ハムとチーズも忘れずにね」


 つむぎちゃんもみおちゃんみ、ひなちゃんもゆずはちゃんも。

 みんな我先にとそれぞれ好みのおにぎりを焼き始める。

 ここで遠慮なんて発生しないのがわたしたち。久々に会ったのが嘘みたいな盛り上がりようだ。


「ねえそら、この白いやつ何?」

「ふっふっふ。それはあさひちゃんが作った手作りチーズだよ! ちょっとだけ醤油をかけて、焼きおにぎりにつけて食べてみて。すっごくおいしいから!」

「え、あさひすごすぎない? チーズって家で作れるんだ!」

「そ、そうなの。牛乳とレモン汁だけで作れるんだよー」

「へー、すごいね。あたしチーズ大好きなんだよね。今度教えてよ!」

「うんっ!」


 同じ学校にいながら最近交流がなかったことで、あさひちゃんみんなが来るまですごい緊張してたんだよね。

 ちゃんと打ち解けられてよかった。

 これなら、今後にも繋がっていくかもしれない。


「このベーコンのやつ好き! ベーコンたまらん~!」

「ね、このみそ味のやつ、あさひが作ったチーズとすごい合うんだけど!」

「あさひちゃん、小学生のころから料理好きだったもんね!」

「ホットサンドメーカーってどうやって使うの?」


 食べきれないかもしれない、と思いながら作った焼きおにぎりは、あっという間にきれいさっぱりなくなった。

 もちろん、わたしもしっかり堪能して大満足!


「やっぱりこのメンバーいいよねー。最強だよ!」

「今のクラスの子たち、何となく疲れるんだよね……」

「ほんそれ! SNSも、見たら見たで、見ないなら見ないでねー」

「わかる! たまにスマホ投げたくなるもん。まあすぐ見ちゃうんだけどね!」


 そっか。

 中学にあがって、みんなもそれぞれ大変だったんだ。

 誰だって置いていかれるのは嫌だもんね。

 あさひちゃんのことも、最初はみんな自分のことで手一杯だっただけなんだ。

 焼きおにぎりパーティー、やって本当によかった。


 夏休みももうすぐ終わるし、9月になったらまたみんなと離れて《修練の城》に戻らなきゃいけないけど。

 でもきっと、普通に中学に行ってたら分からなかったこともたくさんあるし。

 それにエリヤやゾーン、リア、リオン先生にも会えてない。


 ――よしっ。

 わたしも2学期から、また立派な【魔法空間師】目指して頑張るぞー!


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