第11話 課題クリア、そして夏休みだーっ!
こうしてわたしは、何度か実際の森へ出かけて情報収集を行ない、穴埋めをしながらどうにか森を完成させていった。
森はただ大きな木が生えてるだけじゃなくて、小さな草花から背の低い小さな木々、岩、苔などたくさんの要素から成り立っていた。
――わたし、森のこと知ってるようで何も知らなかったな。
それに、ただ緑がいっぱいあって光が差してればいい、というわけではない、ということにも気がついた。
心地よい風が吹いて、木々の葉がこすれる音がして、植物のみずみずしさや命を感じて、それで初めて癒される「森」という空間になるのだ。
『背景の育成が完了しました。仕上がりを確認してください。イメージ通りであれば【はい】を、修正が必要な場合は【いいえ】を押してください』
今や何回聞いたかわからないチュートリアル音声とともに、これまた馴染みとなった【はい】と【いいえ】のアイコンが出現する。
こ、これで大丈夫、だよね? 【はい】でいいよね?
だ、大丈夫。何度も森に行ってたくさん勉強したし、おかしな場所はちゃんと修正したはず。
わたしは恐る恐る【はい】のアイコンをタップする。
夏休みまで、期末課題の締め切りまであと5日。
『これにて背景の育成を終了します。イメージお疲れ様でした。このまま鑑定に入りますか? 鑑定へ進む場合は【はい】を、建築物を追加する場合は【いいえ】を押してください。鑑定の結果、《魔法空間》に相応しいと判断されれば、《シード》から《魔法空間》へと進化します』
「え、ええと、まだ肝心の屋台ができてないし、【いいえ】だよね。屋台、間に合うかな……」
ポチっと。
『それでは、建築物の育成に入ります。目を閉じて、設置したい建築物をイメージしてください。強く詳細にイメージするほど精度が上がります』
森を作ったときは、最初のイメージが甘すぎた。
でも今度は、もうちょっとはマシな仕上がりになるはず。
わたしだって少しは学習するんだからっ!
目を閉じて、思い描いた屋台を強く、そして詳細にイメージする。
屋台の主な材料は、表面のごつごつとした厚皮をはがし、表面が滑らかになるまで整えた丸太。
形状は小さなログハウスみたいな温かみのあるデザインにして、正面には、広めの受け渡し口と、そこからテーブルのように突き出した広めのカウンター。
みんなが安心して利用できるように、カウンター下の支えも忘れずに。
その上部には屋根を設置して、それから――。
「で、できたー!」
『背景の育成が完了しました。目を開けて、仕上がりを確認してください』
こ、今度こそ――っ!
目を開けると、目の前には可愛らしい木製の屋台が完成していた。
「わーっ! すごいっ! まだ本体だけだけど、今回はだいぶうまくいったんじゃない!? 木の滑らかさや質 感、優しい手触りも完璧! 右側につけた扉は――よし、ちゃんと自在に開閉できるみたいっ」
『確認できましたか? イメージ通りであれば【はい】を、修正が必要な場合は【いいえ】を押してください』
装飾は2学期に進めていくってリオン先生が言ってたし、課題はここまでかな。
ふふ、みんな驚くだろうなーっ!
あ、そうだ、せっかくだし、もらった端末で写真撮っとこ。
夏休みに勉強して、完璧な屋台を作るぞーっ!
わたしは入学時にもらったスマホみたいな端末のアプリを開き、いろんな角度から写真に収める。
これならあとからいつだって確認できるし、エリヤやゾーンにも見せられるよね。
「うん、こんなもんかな! それじゃあ【はい】をタップして……」
『これにて建築物の育成を終了します。イメージお疲れ様でした。このまま鑑定に入りますか? 鑑定へ進む場合は【はい】を、ほかの建築物を追加する場合は【いいえ】を押してください。鑑定の結果、《魔法空間》に相応しいと判断されれば、《シード》から《魔法空間》へと進化します』
「これも【はい】っと。お願い! 《魔法空間》への進化、成功してっ!」
『お疲れ様でした。これより鑑定に進みます。神・スペースへの鑑定申請が完了しました。結果は24時間以内に通知されます。一度退出してください』
そ、そっか、鑑定はリオン先生じゃなくてスペース様がするんだ。
き、緊張してきた……。
でもあとはもう、待つしかないよね。
◆◆◆
「お疲れ様ですソラ様。課題は無事クリアできましたか?」
「まだ分かんないけど、一応やることはやった。あとはスペース様が鑑定してくださるのを待つだけみたい」
「そうですか。頑張りましたね。無事 《魔法空間》に進化するといいですね」
リアはそう、いつものように蜂蜜入りの紅茶を入れて労ってくれた。
この香り、癒されるなあ。
最近は、この蜂蜜入りの紅茶にミルクをたっぷり入れたものにはまっている。
これ飲んだら、リオン先生に報告しておこう。
エリヤとゾーンは、今頃どうしてるかな?
紅茶を飲み終え、しばらく休憩しようとベッドに横になると、わたしはいつの間にか眠ってしまった。
ここ最近、森へ行ったり城下町で屋台を見たりとあちこちしていたせいか、疲れが溜まっていたのかもしれない。
気がつくと、外はもう薄暗くなっていた。
「――はっ! り、リア、今何時?」
「おはようございます、ソラ様。今は夕方の7時ですよ」
「もう夜じゃん! というか晩ごはん!」
「これからお持ちしようと思っていましたが、食堂で食べられますか?」
「うん、最近ずっと部屋で食べてたし、久々に食堂に行こうかな」
「かしこまりました」
食堂へ向かうと、そこにはエリヤがいた。
ゾーンは今日も来てないみたい……課題、まだなのかな?
図書館って、基礎作りが大変そうだもんね。
「ソラ! ソラも課題終わったのかしら」
「うん、あとは鑑定の結果を待つだけだよ。エリヤは?」
「わたくしも同じよ。無事 《魔法空間》に進化するか、不安だわ」
「わたしも。これで進化しなかったら補習、なんてことないよね!?」
この【魔法空間師見習い】としての生活も嫌ではなくなったし、今は積極的に頑張ろうと思えている。楽しめてもいる。
でも、家族と3ヶ月以上離れたのなんて初めてだし、やっぱり寂しさもあった。
お母さんたち、今頃どうしてるかな?
お母さんの作った、氷たっぷりの甘いハーブティーが飲みたいな。
昔、《魔法空間》でくーちゃんに飲ませてもらった、あの赤いハーブティーも。
帰ったら、聞いてみたいこともたくさんある。
「――あれ、エリアとソラ? あなたたちも課題終わったんですか?」
「ゾーン! うわすっごい久々に見た!」
「――な、何なんですか人を神出鬼没なバケモノみたいに」
ずっと課題に集中していたはずなのに、相変わらずボブカットはツヤツヤでキレイに切りそろえられているし、服もきちっと着こなしてる。
本当、真面目というか完璧主義というか……。
「だってずっと引きこもってて食堂にも団らん室にも全然来ないから」
「……ソラと一緒に行動すると、邪魔されかねませんからね。また城下町に連行されたらたまりません」
「ひっどい! 邪魔なんてするわけないじゃんっ」
「もー、2人とも本当に仲良しですわね」
「どこがですかっ!」
「全然仲良くないからこんなヤツっ!」
「ふふ、微笑ましいわ~」
ゾーンは相変わらずムカつくけど、なんかこの感じ久しぶりだなあ。
やっぱり何だかんだで、3人一緒の方が楽しい。
◆◆◆
そして翌日。
起床時間の7時になると、いつものようにリアが洗顔用のお湯と着替えを持って起こしに来てくれた。
「おはようございます。ソラ様、スペース様より封書が届いております」
「――えっ? ふ、封書!?」
「恐らく、昨日の鑑定結果かと」
「封書なんて、そんな厳かな感じに届くんだ。わたし、てっきりメールでくるか、自分で《シード》の内側に入って確認するんだと思ってた……」
「この課題は、【魔法空間師】としての大きな第一歩ですから。もし無事クリアしていれば、この中に《魔法空間》所有証明書が入っています」
ま、《魔法空間》所有証明書……。
そんなのがあるんだ。
緊張するよおおおおおおおおおおおお!!!
わたしはリアから封筒を受け取り、恐る恐る開封する。
中に入っている少しぶ厚めの紙2枚を、そーっと引っ張りだす。
え、ええと――
『合格通知書
このたび、間中空の《シード》が無事 《魔法空間》へと進化しました。
おめでとうございます。
これは【魔法空間師】としての最初の一歩であり、神・スペースによってその適性が正式に認められたことを意味しています。
同封されている2枚目は、《魔法空間》所有証明書です。
《シード》を見事進化させた証として、大切に保管してください。
これからも一層、立派な【魔法空間師】を目指して修行に励んでくれることを期待しています。』
「やった! 合格! リア、合格だって!」
「おめでとうございます! ずっと頑張ってましたもんね。ソラ様ならちゃんと進化させられると信じてましたっ」
わたしはリアと手を取り合って喜んだ。
こんなに大きな達成感を味わったのは、幼い頃に病気を克服して以来かも。
これもずっと支え続けてくれたリアがいてくれたからだよねっ。
もちろん、ほかのみんな(ゾーンは分からないけどっ!)や家族、それからくーちゃんもっ!
実はぬいぐるみを持ってきたことをリアに知られるのが恥ずかしくて、くーちゃんはずっと鞄にしまってあるんだけど。
2学期からは、ちゃんと出して飾ってあげようかな。
こうしてわたしは、無事期末課題をクリアして、無事夏休みを手に入れたのだった。
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