第9話 期末課題は謎解きだらけ!?

 わたしとエリヤとゾーンは、その後もいくつものお店を見て回って、少しだけ買い物もして、夕方ごろには《修練の城》へと戻った。


「リア、付き合ってくれてありがとう」

「いえそんな、息抜きはできましたか?」

「うんっ! あ、そうそう、これ――」


 わたしはリアにと買っておいたベビーカステラの袋と紅茶のティーバックセット(3つ入り)を渡す。


「えっ!? わ、私に、ですか?」

「うん。あの缶に入ったチョコレートみたいな高級品じゃないけど、でも何かお礼がしたくて。それとも、メイドさんにプレゼントはダメかな」

「い、いえ。そういった規定はありませんが。……ありがとうございます」


 よかった、リア喜んでくれたみたい。

 毎月2000円のおこづかい(?)、実はほとんど使ってなかったんだよね。

 おやつも紅茶も毎日用意されてるし、ご飯もおいしいし、漫画を楽しむ心の余裕もなかったし、さっき出かけるときに見たら5500円くらい残っていた。

 ちなみに500円は、エリヤとのおしゃべりが盛り上がったときに3回くらいお菓子を買ったから、その分。

 エリヤにもらった串刺しステーキを食べたあと、屋台で揚げたてコロッケとフランクフルトも食べたけど。

 まだ4500円くらいは残っている。


「わたしね、《魔法空間》のテーマ決めたの。屋台なんてどうかな。可愛くて、食べたいものが何でも売ってる屋台。素敵じゃない? 飲食スペースとか、お花が咲いてる公園とかもあったらいいよね。好きな場所で好きなものを自由に食べるの」

「素敵だと思います。屋台、いいですね」

「でしょ? 珍しくゾーンも賛同してくれたんだ。まあ、わたしの料理レベルを知って呆れてたけど」

「ソラ様はまだ中学生になられたばかりです。料理はこれから覚えていけばいいんですよ」

「だよねっ! あー、楽しみだなあ」


 考えだしたらワクワクが止まらない。

 あとは《シード》の内側に入るって難関を突破できれば――。

 まあこれが、びっくりするくらいうまくいかないんだけど!

 初日に成功させたエリヤにいろいろと聞いてみたけど、エリヤは「わたくしはただ、《シード》にご挨拶を……」と全然参考にならなかった。

 まったくこれだから天才は困る。


 ◆◆◆


 翌日から、リオン先生に言われたとおり通常授業はなくなり、本格的に期末課題に取り組んでいくことになった。


「ゾーン、《シード》の内側には入れた?」

「いえまだです。ソラは――まあまだですよね」

「ちょっと! どういう意味!?」


 ゾーンはわたしを横目に見て、ふんっと鼻で笑った。

 最近のゾーン、何となくわたしの反応を見て楽しんでない!?

 本っ当そういうとこ性格悪い!

 お兄さんのために努力してるのは分かるけど、それとこれとは別だから!


 わたしは思わず頬をふくらませ、ゾーンを睨みつける。

 でも、ゾーンにはわたしの睨みなんてまったく効いていない。


「僕にケンカを売る時間があったら、もっと勉強したらどうなんです?」

「ゾーンだって同じとこで止まってるじゃん!」

「たしかに《シード》の内側には行けてませんけど、僕はちゃんと準備を進めてますよ。一緒にしないでください」

「じゅ、準備ってなによ」

「《魔法空間》の中身ですよ。僕の場合は図書館がテーマなので、図書室を活用して勉強して、おこづかいをポイントに変えて本を揃えてます」

「…………う」


 そういえば入学してすぐ、そんなシステムがあるって聞いた気がする。


 いつの間にそんなことしてたの!?

 教えてくれたっていいのに!

 たしかにゾーンは、城下町に行ったときも全然お金を使ってなかった。

 自分で買ったのは、300円のたこ焼きだけ。

 それもエリヤのテンションに圧倒されてしぶしぶ、といった感じだった。


「ソラもテーマはちゃんと見つけられたじゃない。わたくし、ソラがいなければ城下町の市場に行く勇気なんてなかったわ。だからソラはもう、一度 《魔法空間》を発動したも同然よ」

「ええ……そんなことある?」


 エリヤは面倒見もいいし、普段は頼れるお姉さんキャラなんだけど。

 たまに思考がぶっ飛んでいて理解できない。

 って、わたしはそう思ってたのに。


「――あ、なるほど」


 ゾーンは突然読んでいた本をパタンと閉じると、立ち上がって《シード》と繋がり始めた。

 周囲に風が舞い、そして――ゾーンの体が光に包まれる。


「――できました! エリヤ、あなたはやっぱり天才ですね。この感覚を自ら瞬時に掴んでいたなんて……」

「……そ、そんなこと。わたくしができたのは本当に偶然で」


 エリヤは恥ずかしそうに頬を染める。


 ええええええ!

 どういうことなの!?

 今のエリヤの発言に、そんな重要なヒントあった!?


「いったい何したの!?」

「ソラ、きっと僕たちは考えすぎていたんです。《魔法空間》と僕たちはすでに繋がっているので、外から見つめて入り方を探してもダメなんですよ。《シード》の中にいる自分、一体化している自分をイメージしてみてください」

「――ええ? まさかそんなこと」


 い、いやでも。

 わたしはゾーンに言われたとおり、イメージしてみることにした。

 一体化、かあ。

 これから一緒に《魔法空間》を作っていく、わたしの中の大切な相棒。

 そんな《シード》と、1つになるイメージ……。

 1つに――


 ――ああ、そっか。挨拶ってそういうことなんだ。

 これからよろしくね、《シード》。


 そう思った次の瞬間、わたしは真っ白な空間の中にいた。

 自分の体が温かい光に包まれているのが分かる。

 天井も床も、空も地面もない、影すら生まれない不思議な空間。

 なのに不思議と不安はなくて、まるで《シード》がわたしを優しく受け入れてくれているみたい……。


「――ラ、ソラ!」

「――はっ!」


 気がつくと、2人が心配そうな顔でこちらを見ていた。


「大丈夫? あまりにも長い間出てこないものだから……」

「エリヤ、ゾーン、わたし入れた! 《シード》の内側に入れたよっ!」

「もう、ソラったら。でもおめでとう!」

「まったく世話が焼けますね……」


 ふと時計を見ると、なんと10分以上経っていた。

 初めてだし、そりゃ心配にもなるよね。ごめん、2人とも。

 でもこれで、ようやく1つめの課題クリアだ!


「今の感覚、忘れないようにしないとね」

「ええ、そうね。リオン先生も、《魔法空間》との距離の近さが【魔法空間師】としての実力に大きく関係してくるっておっしゃっていましたわ」

「ええっ? じゃあエリヤ、一体化がカギって知ってたの!?」

「ごめんなさい。リオン先生に口止めされてたの。自分で気づかないとこの先やっていけないから内緒にしておいて、って。でも最初偶然だったのは本当ですわよ」


 な、なるほど……。

 だからヒントがあんなにふわっとしてて意味不明だったのか。

 あれは先生の言いつけを守りながら、エリヤなりに一生懸命考えて出したヒントだったんだ。


「――3人とも、お疲れさま。無事に《シード》の内側に行けたみたいね」

「リオン先生!」

「次は、自分がどんな《魔法空間》を築いていきたいか」

「テーマは3人とも決まってるので、2もクリアじゃないでしょうか?」


 ゾーンは不思議そうに首をかしげ、そう問う。

 これに関してはわたしも同意見だった。

 わたしも授業中には言えなかったけど、城下町に遊びに行って屋台にしようって決めてすぐ、リオン先生に伝えに行った。


「ゾーンくんは、たしか図書館をテーマにしてたよね。どんな図書館?」

「……え? それはもちろん、できるだけ大きくて、本がたくさんある図書館がいいですよね」

「……本当に? そこに訪れるのは【悩み人】よ? 疲れ果てた中でようやくたどり着いた図書館がものすごく広大で、ただ無機質に本が並んでるだけだったら、ゾーンくんは嬉しい? そこで癒されることができるかしら」

「…………それは」

「つまりね、そういうことなのよ。あなたたちが作るのは、あくまで《魔法空間》。それをよく考えて、3に繋がるテーマを考えてちょうだいね」


 そっか、「どんな〇〇」っていう、具体的なイメージがいるんだ。

 以前、お母さんが「《魔法空間》は何でもできちゃう自由な空間」だって言ってた。

 だからこそ、テーマが必要なんだって。

 テーマがないと、軸がぶれて大変なことになっちゃうらしい。

 ちゃんと《魔法空間》内の世界を維持していくために、【魔法空間師】は自分で決めたテーマの中でできること考える。欲張っちゃいけない、って話してた。


 ――あれ?

 なんか、《シード》の内側に行けた時点で楽勝じゃんって思ってたけど。

 でもこれ、思った以上に難しいんじゃない?

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