第3話 ここはデザインの会社なの。だからめげないで
年配のお客様は帰っていった。スーパー・ブライトをジュエリーボックスにしまって店長室の金庫に戻しに行った。
『やっぱり売れませんでした』と店長に言ったら『中々売れる値段じゃないよ』と言っていた。
まぁ、そうなんだけどね。
絡まれてた女の子のところに戻る。
「災難だったね」
「ありがとうございました。お陰で助かりました」
「たまーに居るみたいよ。あぁいう『高い物が良い物だ』って信じている人が」
「それにしても関山さんって凄くお詳しいんですね? と言うか私、あんな指輪は人生で初めて見ました。この店にあることも全然知らなくて」
「そうね。店長とかサブだったら知っているかな。この店は基幹店なんでジュエリーはフルラインナップの在庫が基本なの。基幹店じゃないお店で在庫のない商品をお客様に尋ねられたら最寄りの基幹店を紹介すれば良いのよ」
「為になりました。覚えておきます。関山さんてどこかの店長さんなんですか?」
「私はデザインセンターの所属。デザイナーなのよ」
「うわぁ、いいな。私もデザイナーを志望したんだけど店舗に回されちゃいました」
「デザインセンターは採用人数が少ないからねぇ。でも、
「はい」
デザイナーの募集は課題部門と自由部門がある。課題部門は会社としての課題解決の提案が選考対象となる。自由部門はもう何でもあり。私が今日のヘルプを休ませたかった
沙美の提案内容は将来のお客様の開拓。将来、『YESブランド』のお客様になる子供たちに小さい頃から『YESブランド』に馴染み、親近感を持ってもらうというコンセプトの提案だった。
それを商品化した物が『ファースト・シリーズ』だ。子供向けの『なんちゃって』や『ごっこ』ではなく本物を提供するのが『ファースト・シリーズ』の特徴だ。指輪には天然ダイヤモンドを使用している。
『YESブランド』では単に物の姿形を描くお絵描きをデザインとは呼ばない。マーケティングから調達、生産、販売までを含めて
沙美もあちこちから資料をかき集めてきて
提案書を読んだ時に直感で『これ良い!』と思ったけど本当に『これが良い!』のか何も裏付けがなかった。何かが欲しい。私の直感の裏付けとなる何かが。
そこで私は当時小学三年生だった娘の
反応はテキメンだった。香葉瑠は私の手から指輪を奪い取って眺めたり自分の指に填めたりした挙げ句に『ママ、これ欲しい』と言ってきた。
裏付けはこれで充分。私は店舗で販売をしていた沙美をデザイナーとして採用し彼女はデザインセンターに異動した。
私は開店初日の店舗でその後も大勢のご来店されるお客様の対応をして、ひと息ついた時には既に時計は十五時を過ぎていた。
お昼、食べ損なった!! お腹が空いて死んじゃう。
幸いなことにお客様の数も徐々に減ってきたので『遅お昼行ってきまーす』と告げてモール内の飲食店に出掛けた。こういうところの常なのだがお値段が結構お高い。見た目でしか勝負していないご飯の何と多いことか。
カイリアの食事は母が厳しくチェックしている。まず美味しいことが大前提だ。見た目は二の次で評価される。グルメサイトでの評価で『ライブハウスのくせに飯が旨い』と書かれている。
ある時にグルメサイトでの★一つの評価が大問題になったことがあった。ところがその理由というのが『カイリアは酷い。あの飯を食べたくてつい通ってしまう。だがカイリアはライブハウスだ。あの飯を食いたくて行った挙げ句に聞きたくもないバンドの音楽まで聴かされた上、気が付けば店を出た時には聞きたくもなかったはずのバンドのCDを手にしていた。旨い飯で俺の財布を狙っている詐欺としか言いようがない』というレビューだった。
その後、カイリアは飲食のみ、雑貨のみ、食品販売のみといった風に業態を絞った小型店の出店をするようになった。
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