第8話 こっちの生活
雲が徐々になくなっていき、馬の唸り声と、地面を強く蹴る音のみが錯綜していた。
「逃げ出したところにまた自ら戻るのは気分が悪いが、今は庶民の男子、みのるであるから、佐伯と同類だな。」
大将の三列後ろくらいに佐伯とみのるは横に並んでいた。
「お前、こんな生活より、あっちの生活の方が良かったんじゃないか?」
***
『なぜ、なぜ私は女しか持てないのか!跡継ぎがいない状態では、我らの時代は途絶えてしまう!』
天皇は毎日のように、女の子しか産むことのできない母上や他の女たちを蔑んでいた。母上は毎日のように父上に土下座をして、申し訳ありません、申し訳ありません、と申されていた。母上は子供を多く産めない体であり、政略結婚であったので、相手を選ぶことはできなかった。お祖父様が娘の体に気を遣わず、ただただ責めていたのを聞いたことがあった。姉上と私と妹は、毎晩のように、その文句や泣き声を耳に入れながら眠りについていた。そんなある日、姉上は私に提案をした。
『みのり、あなた、外の世界に行ってみない?』
『散歩、ですか?』
『いえ、この家を出るのです。』
『姉上と、ですか?』
『いえ、あなた一人で。はくはまだ幼い。だから私がついていなくてはならない。』
『しかし、姉上の身に危険が及ぶのではないでしょうか。』
『あなたは剣の腕前も、美貌も、気の強さもある。お前なら、この窮屈な馬小屋を抜け出せるはずです。さあ、行くのです!』
『わかりました、姉上。いつか、姉上たちを、女を助けに参りますので、その間しばらくは、我慢をお願いします。』
『あっちの世界に自由を感じたら、そこにずっといていいのよ。あなたのやりたいことをなさい。』
『はい。行ってまいります。』
姉上と妹に熱い抱擁をし、一握りの金貨をもらい、子供頃よく使った裏の抜け道を通り、街へ出た。
***
「偉い奴らも、大変なんだな。」
「男はいいのだ。大変なのは女だ。ただの駒としか思っていない。しかし、お前に会って、お前の家族の暖かさに囲まれ、女として生きてもいいのだという活力をもらった。私にもできることはまだある。」
それを聞いたあと、口を歪ませた。
「天皇の娘とわかれば、褒美をたーん、ともらうぞ。」
「気が向いたらな。」
みのるは会話から逃げるように佐伯の先を行った。佐伯からはうす笑っていたようにみえた。
途中、色々な軍と合流をした。天皇にはこのような戦が起こっていたことさえ伝わっていない。戦、というものにみのるの鼓動は踊るように高鳴っていた。
「今回戦うのはかなり強いやつら。しかも人数がかなり揃っている。心して行けよ。」
「死んでも悔いはない。お前の親父さんと同じだ。」
「やっぱり、お前って強いよな。」
つっこみやからかいを絶えずしてくるが、時々、身分関係なく認めてくれる言葉に、心を惹かれていた。
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