第5話 初めての温もり

「母ちゃん、ただいまー。」

「おかえり、待っていたよ。」

どこにでもある茅葺き屋根の家に着き、扉を威勢よく開けた。バーン、とそこら中に響き渡り、遠くから犬の遠吠えが聞こえた。

「その子は誰だい。美男子だねぇ〜。」

「あ、こ、こんばんは。」

「母ちゃん、これ、俺の友達のー、、、名前、なに。」

だんだん声が小さくなり、しまいにはその者に耳打ちをした。

「ぼ、僕ははみのり、と申します。」

「みのりくん。なんか女の子の名前みたいだけど、まあ、人それぞれよねぇ。」

「あ、違う違う。こいつの名前はみのる、だ。母ちゃん、耳遠くなったなぁ。」

しまった、という顔をしたみのりをかばうようにして、すぐさま情報を上書きした。

「あらやだほんと。ごめんねぇ、みのるくん。いい名前じゃない。」

みのりの肩をペシペシと叩いた。そして奥の方へ消えていった。

「あ、、、ありがとうございます。」

お母さんに聞こえるか聞こえないかわからないくらいの大きさで、呟くようにいった。

「どうした、突っ立って。中、入れよ。」

ずかずかと家の中へ入っていき、お母さんと会話しているのがはっきりと聞こえた。

「あ、失礼します。」

急いで靴を脱ぎ、足跡を辿っていった。

「久しぶりの客でね、最近はもう外に出ることが少なくなったから。お前に会えるのを、楽しみにしてたよ。まさか友達を連れてくるなんて。女遊びがひどかったんじゃないのかい。」

「だから、それは俺が魅力的過ぎたのが原因だったんだって!」

                    ***

「なあ、明日、剣の稽古やるか?」

「えっ」

上半身裸の状態で、布団を三つ敷きながら言った。みのるは先程、俺がやる、と言われ、手も出させてもらえず、壁に一人寄りかかっていた。

「お前、いずれ俺のところから離れるときがあるだろ。そのとき、お前は今日出会ったようなやつらと戦うことができるのか?お前が強くなろうとしない間にも、強いやつはさらに強くなっていくぞ。今のお前では俺も倒せないだろ。自分の力に自惚れるなよ。」

「う、自惚れてなんかいないし!相手が二人もいた、から。」

最後の方はごにょごにょしていて聞き取れなかっただろう。

「お前なぁ、相手がわざわざサシでやってくれるわけないだろ。そういうのも覚悟しておくんだよ。そんなんじゃ、すぐやられるぞ。」

「あー、お前、一人が寂しいんだな。しょうがない。相手してやってもいいぞ!」

顎を上げ、上から見下すように言った。自信ありげにはっきりと言った。

「俺をおちょくるな。お前なんか一握りで潰せるわ。」

「ぼ、僕だって、お前なんか一振りだ!」

「さあ、そろそろ寝ようかって、あんたたち、大人しくしなさいっ!」

二人は枕を投げあっていた。こんのぉー、と叫びながら、疲れるまで戦った。

「なあ、そういえば、お前名前ってなんだ?」

佐伯との口論の末、身に染み付いていた敬語が氷のように庶民の言葉に溶けていった。

「あれ、言ってなかったっけ。佐伯だ。改めて、よろしくな。」

「うん。よろしく。」

布団の中で、二人は小さな握手を交わした。

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